邪神の生まれ変わりと言われ追放された男は復讐を願う

ヘイ

炎熱魔法は邪神の力?

 

「え、炎熱系?」

「あ……」

 

 何かの間違いだ。

 そう、きっと何かの間違いだ。

 俺の頭の中はパニックだった。マナスキャンだか何だか言うとんでもねー技術力。なのかはよく分からんが、エルフの技術の結晶(そのまんま)に触れると適した魔法を判別できると言う物がある。

 そしたら、それは赤黒い色に発光した訳だ。

 と言っても、この国だと炎熱魔法は嫌われている、らしい。なんでも此処は氷が至高の村。そんで、その昔、灼炎の神と氷斬の英雄のヒーローミスなんてモノがあるくらいだ。

 まあ、差別の対象よね。

 

「邪悪な神の生まれ変わり、だと……」

 

 そして、この時代背景は中世ヨーロッパというより、古代ギリシアじみた世界観。衆道しゅどうもありふれた世界観。

 まあ、そこがどう関与するかと言う話ではあるんだが、割とこれがキツい話になりかねないのは神の化身というものがおおよそ信じられているインド神話と同じかもしれない。

 星になるか父神と一体化するか。

 いや、変わらんわ。

 ラーマーヤナの魔王と呼ばれてる気分ね、これ。なんの言われもないけど。それかマハーバーラタのドゥルヨーダナ的な。

 どっちかつーと後者か。

 

「あかん…………」

 

 炎熱に人権はなし。

 生まれた時点で炎熱は罪。双子と同じね。双子はこの時代だと大変よ。

 スパルタよろしく山に捨てられハゲタカに食われるかもしれん。あれ怖いよね。スパルタの語源。鳥葬っていうらしいよ。弱い子は要らん方式は悲しいね。

 現実逃避しとる場合じゃないわ!

 

「え、えと、えへっ」

 

 さあ、さらっと回想編に入ってみよう。

 何でこんなことになったんだと言う事だが。

 まず、前世最後の記憶は酒を飲んだんということ。アルコール度数四十パー越えの酒を飲まされた。大学のサークル新歓で。そこからの記憶がない。兎に角気持ち悪かった事を覚えてる。後苦しかった。息ができなかった。

 あれ?

 もしかして、俺新歓で死んでね?

 と、思ったらこの世界に転生。現在二歳。ゼロ歳から始めるスピードラーニングはこの世界の言葉をほぼほぼ理解させてくれた。

 そして今、追放手前。

 うん、詰んでんね。

 

「その子は邪神の生まれ変わり! 連れて行け!」

「へ! 俺だってむりょくじゃない!」

 

 炎熱って分かったら炎熱魔法使えば良いもんねー……って、どうやって使うの?

 いや、知らんよ?

 知識チートもないし、魔術書とか読んだ事ないよ。

 

「うっそー……」

 

 簡単に捕まりました。

 と言うか無詠唱。そう言うのってスペシャリストとかの技能じゃない?

 何普通に使ってんの?

 待ってよー、そう言うのって割と主人公周りが使う技能だよ?

 主人公が発見したりするもんじゃん。なんでもう使ってんの?

 俺、何もしとらんよ。

 

「むむーっ! むぅっ!」

 

 こ、こなくそっ!

 何つー縛りかたしてやがる。解けねーだろ。と言うか確実に……。

 

「ふぁっ……!?」

 

 わーお、ヴォルケーノやん。

 え、こんな近くに火山あったん?

 おい、離すなよ! 絶対離すなよ!

 振りじゃねぇからな!?

 

 ポーイ。

 

 ……じゃねぇ!!??

 あ、嘘でしょ。二年で死亡?

 めっさ短いやん。死にたくないわ。

 前世はアルコール、今世は火山に投棄。

 ゴミみてぇな人生じゃん。

 特に今世はゴミみてぇに捨てられてんじゃん。

 

「ふふぁへんなっ!」

 

 そんなん認めっかよ!

 魔法なんてどうやって使うか知らねーけど、二歳児の身体舐めんな!

 何もできねーから。

 

「ひひゃあぁぁああああ!!!!」

 

 俺は、俺はこんな結末認めねぇぞ。

 復讐してやる、生きてたら。

 復讐してやるからな!

 生きてたら!

 

『GUOOOOOOOHHH────!!!』

「あ?」

 

 素っ頓狂な声が漏れた。

 まるでフラ◯ングダ◯ナソーの気分だ。襟首掴まれて俺は一気に空へと。

 フライアウェイ!

 絶叫系は命綱あってこそだから!

 え? 今から入れる保険があるんですか?

 無理無理無理無理ィッ!

 

「ひぐぅうううううっ!!」

 

 ふわり。

 地面スレスレで高速下降は止まる。アクロバティック飛行とかの前に俺の命の安全を。死ぬかと思った。某テーマパークのアトラクション以上の玉ヒュンが俺の体を襲った。

 足ガクガクすんだけど。

 

『GRrrrrrrr────ッ!』

「…………」

 

 俺を助けてくれたんだよな?

 ふふ、はは。感謝するぞドラゴンさん。こう言うのはお決まりで美少女になったりするか、人の言葉を話したりすると思うんだけど。

 あ、火山に戻ってっちゃったぞ。

 もうちょい待ってみるか。

 

「…………」

 

 日が暮れても戻ってこない。

 え? なに、普通に帰っちゃったの!?

 あれは野生のドラゴンだった!

 そう、別に俺を助けたのに大した理由はないんだろう。でも薄情ではない。人間よりは情があるぜ、ベイベー。

 

 遭難した時の対策マニュアル、その場を動かないは俺の場合でも適応されますか?

 

 無理ですね。

 こんなのキャンパーが通りすがるの祈るしかないだろ!

 

「だぁれぇかぁああああああ!」

 

 児玉でしょうか。

 あ、木霊でしょうかだっけ。うん、虚しいくらいに俺の声だけね。元の村に帰るわけにも行かんし。

 と言うか火口付近にいたアイツらどうなったんだろ。ドラゴンにビビって逃げたか。まあ、それならそれで良いか。どうせもう居ないでしょ。

 うん。

 

「むだに身についたサバイバルちしきはたぶん使えないよな。そもそも二歳のからだに何ができるっつーんだ」

 

 まあ、万全な知識ではないけど。

 あれはあれで特殊な状況下でなければ使えないものだ。上空から助けられるのが目的とか。少なくとも火が付けられればもしかしたら助かるかもしれない。

 けど、村人が俺を殺すのに躍起になってるとしたら生きてますよアピールにも近しいし。

 打つ手なしか。

 

「まあ、火なんてつけられねぇけど……」

 

 知識として火起こしとかの装置がどう言ったものかは知ってるけど、ゲームで知った半端な知識で実際は使えない物だ。

 

「どーぶつ殺してたべるとかむりだしな。火もおこせねえからあぶねえか」

 

 食中毒になった場合が最悪。

 あと、それで行くと野生のキノコ、植物類にも手が出せない。有毒かどうかを知らないから。

 

「詰んだな、こいつは」

 

 似非サバイバル知識の申し子こと俺、異世界二年目にして詰みと見たり。

 火山に落ちて死んだ方が楽だったか。いや、焼死は正直苦しいらしいからなぁ。

 

「あーあ、まほう使いたかったなー」

「使えるよ?」

「…………」

 

 警戒心が全身を駆け巡った。

 え、いつの間に!?

 マジで気が付かんかった。

 

「なにもんだ!」

「アグモ────」

「いわせねぇからな!」

「じょーだんですわ。はーい、どもねー灼炎の神どぇーす。君たちの伝説だと邪神かな」

「あれ、かみさまってこんなに俗っぽかったの?」

「まねー。神様の世界は全時空に通じてますしお寿司」

「……なんなん、お前」

「さっき言ったやないかい! なんてね、どわっはっは!」

 

 下んねー。

 俺の思考と同じくらい下んねー。

 

「はい、と言うわけでこのままでは君は詰みです、アグニ君」

「はあ?」

「魔法も使えないただの二歳児がサバイバル、自殺行為なんですねー、これ」

「……分かっとるけど」

「てな訳で魔法の使い方を伝授します!」

「きました!」

「腹から手の爪の先に何かが流れていくのを感じたらポン! 火がつきましたー」

 

 え、ホントだ!?

 すげぇ、とはならないな。さっき見たし。氷結魔法だけど。

 

「ぐぐぐっ」

「力んでも仕方ないにゃー。僕がサポートしてやるぜ?」

「サービス精しんおうせいだな」

「まあ、人生ハードモードにしちゃったしねー」

「ん?」

「あ、何でもない。こうやってね腹からねー」

 

 臍のあたりに邪神の神は手を当てて、右手の指先に向けてゆっくり動かしていく。そして、俺も力の流れを知覚する。

 

「ふむふむ」

「そうそう……」

「って、何さっきの話なかったことにしてくれようとしてんだ!?」

 

 ボンッ。

 俺の右手の人差し指の先で炎が爆ぜた。

 

「お、上手い上手い。もう慣れたでしょ、魔法使うの」

「……おう」

「じゃ、僕ちゃんは帰るぜバイビー」

「テンメっ! 待でや、ゴラァアアアア!」

 

 俺が掴みかかろうとすると邪神は陽炎のようにかき消えてしまう。

 後で殴ろう。今度会った時は絶対殴ろう。村人への復讐より優先してアレは殴ろう。

 取り敢えず、火をつけてみるか。

 やる事ないし。

 

「子供がこんな所で……」

 

 火をつけて暫く。

 知らないおじさんが現れたぞう。

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