トリマーという職業
「そういえば何でひとりで来たの?」
アミィちゃんが落ち着きを取り戻した後にシュネはなんとなしに聞いてみた。
ブラシの件で来たのなら、アンドラスさんかアミィちゃんのご両親が付いてきてもいいのではないだろうか?
「それは、お願いがございまして――」
短く深呼吸したあとアミィちゃんは言う。
「私を弟子にしてください!」
「……弟子?」
聞き間違いだろうか?
シュネは聞き返す。
「弟子になりたいって言った?」
「はい!」
聞き間違いではなかった。
シュネとライア姉は「どうするのか?」とレイ姉を見た。
「そうねぇ。ご両親にはお話ししたのかしら?」
確かに弟子にする、しない以前にアミィちゃんの両親がなんて言ってるかも大事だ。
両親の承諾なしに弟子にしたら後々問題になる。
ひとりでここに来たということは――。
「……話しました」
アミィちゃんは視線を下に落としながら答えた。
「反対された?」
「されました」
やっぱり。
アミィちゃんは半ば家出気味にここに来たのだろう。
戦後八十年以上経って貴族社会が薄れてきたが、一部の上位魔族は家名を大切にしている。
アミィちゃんの家もそのひとつだ。
正直トリマーなんて貴族から見たら動物の世話係としか思われていないだろう。
「率直に言って、私もご両親と同じで反対かな」
「――それはどうしてでしょうか?」
シュネも同意見だ。恐らくライア姉もだろう。
「私たちもシュネちゃんがいたからトリマーを続けていられるの」
レイ姉がシュネを見ながら言う。
「いくらペットとして飼われていても、本気で暴れられたら私とライアちゃんじゃどうしようもできないわ」
そう言うとレイ姉は袖を
いくつもの引っ搔き傷や噛み後が残っている。
「――!」
傷跡を見てアミィちゃんは言葉を失った。
「私だけでなくライアちゃんもシュネちゃんも同じように傷跡があるの」
シュネは
俯くシュネにライア姉が黙って頭を撫でた。
ライア姉の温かく優しい手は「シュネのせいじゃないよ」、そう言っている気がした。
「仮に暴れている子を抑えることができても、大事なペットをケガさせたらそれこそトリマーとして失格よ。でもね……」
厳しい現実を突きつけられ、顔を伏せてるアミィちゃんの肩に手を置いて言う。
「アミィちゃんが本気でトリマーになりたくて、ご両親も説得できたなら、私たちは歓迎するわよ。ね? ふたりとも」
レイ姉がウインクしながらふたりに同意を求めた。
「もちろん!」
「アミィさんは才能あるから、直ぐにシュネを追い越すかもしれないわね」
「なにを~!」
ふたりは重苦しい空気を吹き飛ばすように明るく振舞った。
「皆さん……うぅ~」
アミィちゃんは本日二度目の号泣をした。
「あらあら~、まだ泣くのは早いわよ~」
「そうね。まずはご両親を説得からね」
「アミィちゃんなら大丈夫だよ。本気度が伝わってくるもん」
「うぅ~ありがとうございます。頑張ります」
――願わくば、アミィちゃんの説得が上手くいきますように。
「さて、アミィちゃん」
「はい」
「今日はもう遅いからウチに泊まっていくといいわ」
気が付いたら辺りが暗くなっていた。
「ご迷惑じゃ……」
「迷惑だなんて、帰る途中に何かあった方が困るわ」
「ライア姉さま……ではお言葉に甘えさせて頂きます」
アミィちゃんは遠慮をするも、ライア姉の言葉で泊っていくことに決めた。
――グー……キュルキュルキュル……。
「~~っ!」
安心したのかアミィちゃんのお腹の音がなり、顔を赤らめる。
「そろそろご飯にしよっか……って!」
「しまった。ご飯作るの忘れていたわ」
話すのに集中していて晩御飯のことをみんなすっかり忘れていた。
「あらあら~。じゃあみんなで作りましょ~。アミィちゃんもお手伝いお願いね」
「は、はい!」
てんやわんやしていつもより少し忙しい夜が更けていった。
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