涙の理由

「先日、教えて頂いたことを参考にルーちゃんのお手入れをしていたんです」


 シュネは背筋が凍りつく。

――まさか!


「ア、アミィちゃんかルーちゃんのどっちかケガした……とか?」


 シュネは声を震わせながら聞いた。

 どちらかが、もしくは両方がケガをしたのなら、シュネの説明の仕方が悪かったからだ。

 注意事項もちゃんと伝えきれていなかったかもしれない。――やっぱりわたしが教えるべきじゃなかった。。


「え? いえ、ケガは私もルーちゃんもしていません」

「……よかった~」


 シュネは胸を撫で下ろす。

 アミィちゃんもルーちゃんもケガをしていなくて一先ひとまず安心した。


「ふぅ……よかった……」


 ライア姉も小さく安堵あんどしていた。

 シュネに説明をさせたのも、そのフォローを請け負ったのもライア姉だったからだ。


「ケガしてないなら何があったの?」

「うぅ……」

「だ、大丈夫?」


 唐突に目に涙を浮かべるアミィちゃんにシュネは「ぎょっ」とした。


「そ、その……ごめんなさい!」


 アミィちゃんは謝りながら両手を差し出した。


「あ、これって」


 両手には「獣毛じゅうもうブラシ」が乗っていた。

 このブラシはシュネがレイ姉にお願いして作ってもらい、イヤーローションと一緒にプレゼントしたモノだった。


「あちゃ~……ボロボロだ」


 恐らくルーちゃんの仕業であろう嚙み後が付いている。


「せっかく皆様に頂いたブラシをルーちゃんが……ルーちゃんが……」

「お、落ち着いて。大丈夫だから。ね?」

「アミィさん、これで涙を拭いて」


 泣き出してしまったアミィちゃんをシュネがなぐさめて、ライア姉がハンカチを渡す。

 しかし、アミィちゃんの涙は拭いても拭いてもあふれてくる。

 ふたりが困っているとレイ姉がブラシを手に取る。


「ちょ~っと見してもらうわね」


 レイ姉がブラシを見回す。


「なるほど~」

「どうかしたの?」


 ボロボロのブラシを見て何が「なるほど」なのだろうか? シュネは首をかしげた。


「アミィちゃん、他の動物にもこのブラシ使っちゃったかな?」

「は、はい……」

「「あぁ~」」

「?」


 アミィちゃん以外は理解した。なぜルーちゃんがブラシをボロボロにしたかを。


「他の動物の臭いに反応して、ボロボロにしちゃったのね」


 レイ姉の言った通り、動物には自分の所有物に、他の動物の臭いが付くのを嫌うモノもいる。

 ルーちゃんもそうだったのだろう。


「私のせいで……うぅ……」

「アミィちゃんは悪くないのよ。しっかり教えなかった私たちが悪いのよ。ごめんなさい」


 シュネとライア姉もアミィちゃんに「ごめんなさい」と謝った。


「いえ、私が……えっと」


 三姉妹が頭を下げている状況に、今度はアミィちゃんが困っていた。


「そうだわ、お詫びにアミィちゃんの手に合ったブラシを作ってあげるわね」

「え! そんな、ご迷惑じゃ……」

「姉さん」


 いつの間に持ってきたのか、ライア姉が巻き尺を渡した。


「ちょっと手を出してもらえるかしら?」

「は、はい」


 シュネは「これで一件落着かな」とつぶやいた。――でも……なんでアミィちゃんはひとりでここに来たのかな?

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