第三話 ビーストトリマーの弟子
閉店後のお客様
今日の仕事が終わり、入り口のプレートを「準備中」に変えにきたシュネは、森の方で小さな影が揺らめいてるのを見つけた。
「ん~? なんだろ?」
目を凝らすとその影の正体がわかった。
「あれは……アミィちゃん?」
見覚えのある綺麗な髪色に、お姫様のようなフリルの付いた洋服。
額には魔族の証の黒い小さな角。
「お~い。アミィちゃ~ん」
名前を呼ぶとビクっと肩を震わせた後、影はゆっくりとシュネの元へ近づいた。
「やっぱりアミィちゃんだ。久しぶり~」
「あ、えっと、お久しぶりです」
シュネは挨拶した後、周囲を見渡す。
「え~っと、ひとり?」
「は、はい……」
アミィちゃんはもじもじしながら押し黙っている。
シュネはどうしたものかと考える。――とりあえずお店に入ってもらおう。
「まぁ外で立ってるのもなんだし……入って」
「あ、ありがとうございます。お邪魔します」
アミィちゃんの顔はどこか思い詰めているように見える。
「あら、いらっしゃい」
「いらっしゃいませ」
「……お邪魔します」
入店したものの入口の前で立ち止まったままだ。
「ん~アミィちゃん、ちょっとお手伝いしてもらえるかしら?」
「お手伝い……ですか?」
レイ姉が突拍子もないことを言い出した。
「ちょっと姉さん、先に話を聞いた方がよろしいんじゃないかしら?」
ライア姉が耳打ちをする。
確かに、深刻そうなアミィちゃんにいきなりお店の手伝いをさせるなんて。
「いいからいいから」
「だけど……」
「アミィちゃ~ん、一緒に掃除しましょ」
ライア姉の言葉を
少し戸惑いながらもはたきを受け取りレイ姉と一緒に掃除をはじめる。
「ライア姉、ちょっと」
シュネは手招きをしてライア姉と小声で会話をする。
「アミィちゃん大丈夫かな?」
「どうかしらね……一旦ここは姉さんに任せましょう」
「わかった」
アミィちゃんのことは心配だけどふたりはレイ姉に任せることにした。
「ふんふんふふ~ん~ふんふんふふ~ん」
ご機嫌なのかはたきを掛けながらレイ姉が鼻歌を歌っている。
その隣では黙々とはたき
レイ姉に任せることにしたが、シュネもライア姉もチラチラと横目で「大丈夫だろうか?」とふたりを見る。
「そのシャンプー、中身が
「はい……」
「ありがと~」
レイ姉は「アレも」、「コレも」と次々とアミィちゃんにお願いをする。
「あ、あの……」
アミィちゃんがレイ姉に話しかけると、シュネとライア姉は瞬時にふたりの方に振り返る。
「ん~?」
「えっと、これも避けますか?」
「ええ、避けておいて」
「はい」
また黙々と掃除をはじめる。
この後も時々レイ姉に聞いてたり掃除したりで時間が流れていった。
「うん、綺麗になったわ~。ありがと~」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「よしよし、少し落ち着いたみたいね」
アミィちゃんの雰囲気がここに来た時より幾分かほぐれた感じがする。
そして意を決してたのか、アミィちゃんの重たかった口が開く。
「えっと、少々ご相談がありまして……」
「うんうん。その前にお家でココアでも飲みながら話しましょ」
「はい」
レイ姉はアミィちゃんから話しやすい雰囲気を作るために、敢えて何も聞かず、掃除を手伝わしたのである。
普段は頼りのない姉だが、さすが三姉妹の長女だ。
お店の裏手の
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
ライア姉から温かいココアを受け取ると、ひとくち口に含む。
「甘いですね」
「アミィさんにはサービスで砂糖を入れておきました」
「……それではお話ししますね」
アミィちゃんはポツリポツリと話し始めた。
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