素敵なおじいちゃん

 バラムさんから話を聞いた後、モリーちゃんを道具屋に送り、シュネたちはイチキシマへと帰宅した。


「「「ただいま~」」」


 家に帰ると荷物を片付け、晩御飯を終える。


「今日、鍛冶屋さんに行ってきておじいちゃんの話聞いてきたよ」

「へぇ~、おじいさんのこと何かわかったのかしら?」

「う~ん……おじいちゃんはたぶんステンレス派ってことかな?」


 レイ姉が「なにそれ?」と微笑みながら言う。


「鍛冶屋さんが言ってたけど、ステンレスって金属として完璧なんだって」

「う~ん……まだおじいさんの日記を最後まで読んでいないわね」

「え? ステンレス以上の金属があるの?」

「さぁどうかしら? フフフッ」


 とぼけるレイ姉にシュネは口を尖らせる。


「じゃあ続き読んでくる」


 シュネは日記の続きを読みに自室に戻った。


「え~っと、どこまで読んだっけ?」


 パラパラとページを捲っていく。


 統皇暦6年 7月23日

 コバルトを鍛冶屋に持っていくも、刃物には使えないと言われた。

 単体で使えないのか?

 錬金術で色々と混合してみよう。

 ダイヤモンドを売ったおかげで金銭に余裕が出てきた。

 そのおかげでチタンも少々入手でき、実験に使える。


 統皇暦6年 8月2日

 妻から嬉しい報告があった。

 身籠みごもったようだ。

 予定月は6月だ。

 子供のためにも早くイチキシマが開店できるように頑張ろう。

 それと嬉しいことは続くようで、コバルト合金とチタン合金ができた。

 クロムという金属は耐蝕性があり、使い勝ってもよい。

 鉄とも合わせられそうだ。

 しかしまずはコバルト合金とチタン合金でハサミを作ってみよう。


「お腹にお父さんがいるのね」


 統皇暦6年 12月13日

 とうとう完成した。

 幾度も試行錯誤を繰り返しコバルトのハサミが完成した。

 【メモ】

 クロム……20パーセント

 ニッケル……10パーセント

 鉄……3パーセント

 タングステン……15パーセント

 コバルト……63パーセント

 他……2.5パーセント


 チタンはまだ掛かりそうだ。

 しかしこれでシャンプーがあれば開店できる。

 どうにかエルフから野草の効能だけでも教えてもらえないだろうか……。


 統皇暦7年 3月8日

 チタンのハサミが完成した。

 【メモ】

 モリブデン……15パーセント

 ニオブ……2.8パーセント

 アルミニウム……3パーセント

 チタン……78パーセント

 他……1.2パーセント


 スリッカーブラシもチタンで作ってみよう。

 細い針を作るには細工師に頼むことにしよう。

 シャンプーに関しても進展があった。

 調合技術は教えてもらえなかったが、オーダーメイドで作ってもらえるようになった。

 それにしても、妻のお腹がだいぶ大きくなってきた。

 もうすぐでオレも父親になるのか。

 まだ実感はないが、すごく楽しみだ。



「最初はオーダーメイドだったんだ……なんでお母さんは調合できたんだろ?」


 レイ姉はお母さんから調合技術習ったという。

 エルフにしか伝えられない調合法をなぜエルフではないお母さんが習得していたのか……。


 統皇暦7年 7月2日

 予定月より遅くなったが、男の子が生まれた。

 名前はヤマトだ。

 この子のためにも、より良い形でたすきを渡せれるように頑張ろう。

 

「おお、お父さんが産まれた」


 お父さんが繋いだ襷は今ではシュネたち三姉妹が繋いでいる。

 レイ姉もライア姉も独り身だからここで襷が途切れるかも……そう思うとおじいちゃんに申し訳ない気持ちになった。


「両親か……」


 シュネが感傷かんしょうひたりながら続きを読んでいるが……お父さんのことが事細かに書かれている。――親バカだ……。

 親バカ日記を読み進めると、気になる文章が目に入った。


 統皇暦8年 10月21日

 より良い道具を作成しようと比率や素材を変えて錬金を続けていると、木目のような波紋が広がる合金ができた。

 昔うわさで聞いたことがある。たしかダマスカス鋼だ。

 しかしとても脆く、波紋があるだけでダマスカス鋼とは天と地の差だ。

 それよりも……ヤマトが今日パパと呼んだ。

 なんと三回もだ!

 なぜウチの子はこんなにも可愛いのだろうか。

 クリクリの目は妻に似て――。


 シュネは親バカ日記の部分を読み飛ばした。


「ダマスカス鋼? もしかしてこれがレイ姉の言っていた?」


 この後ダマスカス鋼のことには一切触れていなかった。


 統皇暦9年 1月5日

 もう少しで開店の準備が整う。

 道具も揃い、妻の刻印魔法も完璧だ。

 息子はやんちゃではあるものの少し落ち着いてきた。

 かねてより西の森の湖近くに自宅兼店舗を建築していた。

 後は用意するものは店舗内にドライヤーやシャワーなどを設置するだけだ。

 問題はどのような動物が来て、どのようにトリミングするかだ。

 最初は練習する代わりに無料でトリミングをさせてもらおう。


「準備はできたけど、まだ開店はできないんだ。お店を始めるってすごく大変なんだなぁ」


 統皇暦10年 5月13日

 足掛あしかけ5年とうとう明日開店だ。

 トリミングが難しい動物もいるが、犬や猫辺りからはじめて行き。徐々に道具などを工夫して広げていこう。

 何度も不備がないかチェックをするが、落ち着かない。

 妻は落ち着いて見えるが……どうなんだろうか?

 しかし、不安もあるがとても楽しみだ。

 今日はもう明日に備えて早めに寝るとしよう。


 統皇暦10年 5月14日

 今日イチキシマを開店した。

 初めてのお客様は……。


 シュネはゆっくりと日記を閉じた。

 おじいちゃんのことが知りたくて読み始めた日記。

 今ではもうそんなことはどうでもいい。

 これより先を読んでいったとしても考えはもう変わらないだろう。

 おじいちゃんは妥協だきょう知らずで努力家であきらめない。

 尊敬できる素敵なおじいちゃんだ。


「わたしたちもおじいちゃんみたいに……おじいちゃんよりすごいトリマーになるよ」

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