錬金術の弟子、おじいちゃん

 シュネは翌日も仕事が終わったら自室で日記を読む。

 今日は紅茶ではなくコーヒーを用意してきた。――少し苦手だけど。

 難しいところは流し読みをしつつ、ページを捲っていく。


 統皇暦5年 5月27日

 ハサミの試作品が完成した。

 しかし開閉時の引っ掛かりが気になった。

 研磨でどうにかなるだろうか?

 リングの位置も微調整が必要だ。

 改良点を伝えて引き続き試作をお願いした。

 コームの試作品も完成したが、実際使用してみないことには使えるかわからない。

 銀製は重くて使えなかった。今は鉄製で我慢しよう。

 未だに爪切りを作れそうな職人が見つかっていない。

 コーテッドでの収穫は、妻には刻印魔法の素質がある様だ。魔力の操作が上手らしい。

 俺には繊細な刻印魔法は扱えなかった。

 

「刻印魔法はおばあちゃんが施してたんだ」


 コーヒーをすすり文字を追っていく。


 統皇暦5年 6月1日

 本日はマテリラへ向かった。

 マテリラは戦争の中心地でひどい有様だった。

 しかし復興のため様々な種族が手を取り合い再建した。

 ラブラの魔道具屋の店主曰く、復興に参加していた、人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族の四種族が互いに手を取り合い、高度な魔道具を作り出していたという。

 もしかしたら爪切りも作れるかもしれない。

 ハサミもより使いやすい物ができるかもしれない。

 年甲斐もなく胸が躍っている。

 マテリラ到着まで後三日だ。


 統皇暦5年 6月4日

 とうとうマテリラに到着した。

 さすが中立国家というだけはある。様々な種族が入り混じり、未だ多くの国では忌み嫌われるハーフでさえ自由に外を歩ける街だ。

 ここなら刻印魔法だけでなく、他の情報や技術も学べるかもしれない。

 まずは工房へ行ってみた。

 いくつか周ってみたが、刻印魔法以外にも調合や錬金術なども使えそうな技術だ。

 何としてでも教えてもらえる人を探そう。

 シャンプーやトリートメント、あわよくば合金も作りたい。

 妻はエルフ族の使う刻印魔法に興味が沸いたようだ。

 

 統皇暦5年 6月16日

 マテリラに来てから12日経った。

 やっと錬金術師の弟子になることができた。

 調合はエルフ族のみに伝えられるために教えられないと言われた。

 どのエルフに聞いてもダメであった。

 非常に残念だが仕方ない、別の方法を模索するしかなさそうだ。

 これからは錬金術の修行に励んでいこう。


「おじいちゃんが錬金術か……何かわかる」


 姿はわからないが、なんとなく錬金術を使っている祖父が想像できた。

 ここからは錬金術と刻印魔法の連動化について書かれている。――読み飛ばそう。


 統皇暦5年 8月22日

 できた。

 鉄ができた。

 鉄鉱石から不純物を取り出して鉄となる。

 この基本の錬金術を5分以内で出来るようにならなければ次の段階に進まないという。

 現段階では1時間から2時間かけてやっとだ。

 【メモ】

 鉄鉱石の分離手順

 ○○2〇3を○○3〇4に。

 ○○3〇4を○○Oに。

 ○○Oを○○に。

 鉄と不純物に分かれる。

 コツは鉄鉱石に魔力を流したとき、重さを感じること。

 鉄の成分が一番重いので、それを下に落としていくイメージで分離していく。


「急に読めない文字が出てきた……レイ姉はわかるのかな?」


 錬金術はレイ姉の得意分野だ。

 この謎の文字を読めないと『コツ』がわからないのではないかと、シュネは思う。

 しかしレイ姉は鉄を取り出す事ができるからこの『コツ』がわかっているのだろう。


「シュネちゃ~ん、ご飯できたわよ~」


 リビングからレイ姉の声が飛んできた。


「は~い」


 軽く伸びをした後、肩を揉みながら向かった。

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