第二話 祖父の日記とイチキシマ

不満な日記

「さぁ話してもらうよ」


 仕事が終わり開口一番シュネは祖父母の話を姉たちに問い詰めた。

 午後の仕事中、気になって仕方なかったことをやっと聞ける。

 その思いが募って好奇心が抑えきれない。


「わたしたちの使ってる道具を作ったおじいちゃんとおばあちゃんっていったい何者だったの?」

「何者だったか……そうねぇ……」


 室内が沈黙で包まれる。

 そんなにも話しづらいことなのか。

 話せない理由でもあるのか。

 シュネはじれったい気持ちを抑えながら、緊張の面持ちでレイ姉が口を開くのを待った。


「詳しくは私たちも知らないのよね」

「え?」


 訳あり気な沈黙は何だったのか。

 肩の力が抜けて項垂うなだれる。

 この募った思いはどこに発散すればいいのか。


「あ、でもね、どんな人だったかはなんとなくわかるわよ」

「! ホント?」


 シュネは目を輝かせて今にもレイ姉に襲い掛からんばかりの勢いだ。

 なぜここまで祖父母の話を知りたいのか、それはシュネが両親にも祖父母にも会ったことがないからだ。

 両親の話は姉たちから少し聞いていたが、祖父母の話はトリマーとしてこのお店イチキシマを建てたことと、様々な道具を作っていたことしか知らなかった。

 今まではそこまで知りたいとは思わなかったが、今日アミィちゃんと出会い、世間とのズレ……ここでしか扱っていない道具や技術が沢山あることを知り、そんなものを生み出した初代イチキシマのトリマーである祖父母のことが知りたくなったのだ。


「まずはこれを見てちょうだい」


 レイ姉が古びた一冊の本を取り出した。


「これは?」


 表紙には変わった文字……恐らく文字であろうものが書かれている。

 手に取り中を見ると表紙と同じ形が羅列されていた。


「それはおじいさんの日記帳よ」

「日記帳……おじいちゃん異国の人だったの?」

「たぶんね」

「たぶんって……で、この日記で何がわかるの?」


 シュネは日記帳をパラパラと捲りながら問う。


「おじいさんのイチキシマにける思いがわかるのよ」

「イチキシマにし懸ける思い……っていっても読めないじゃん」

「後半の方はこの国の文字で書かれてるからわかるわよ」


 レイ姉が日記帳の後半部分を適当に開いて「ほら」と見せる。――「ほら」といわれても……。シュネは肩透かしを食らった気分だった。


「う~ん……」

「シュネは何が知りたいのかしら?」


 紅茶をティーカップに注ぎつつ、ライア姉が聞いた。


「ウチのお店にある道具って今はレイ姉が作ってるけど、元はおじいちゃんとおばあちゃんが作った物じゃない?」

「ほうらねぇ」


 お茶請ちゃうけのクッキーを頬張りながらレイ姉が相槌を打つ。


「こんなすごいものが作れるって、宮廷魔術師とかすっごくすごい錬金術師とかだと思ったの」

「すっごくすごいってなに? あははは……国に仕えてたりはしていなかったみたいよ」


 シュネの言い回しに堪え切れずにレイ姉は笑われて「むぅ~」とむくれた。


「シュネ、日記を一度読んでみなさい」

「ライア姉……」


 ピシャリと言われて日記を手に取り言う。


「わかった」


 納得いくかどうかはわからないけれど、一度読んでみることにした。

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