眠気を誘うよ、ドライヤー

「それじゃ乾かして行こうか」


 ドライヤー風を弱めてルーちゃんのお腹が冷えないように当てつつ、アミィちゃんに説明を始める。


「ドライヤーは一定の範囲をブラッシングしながら当てていくの」


 スリッカーブラシを取り出しドライヤーをお尻の方から当てていく。

 

「ドライヤーを当てる時は近づけ過ぎず、一定の範囲を乾かしていく」


 ドライヤーを当てている場所は毛がなびいている。

 その場所を毛の流れに沿ってブラッシングをしていく。


「ブラッシングをしながら手に当たる風が熱くなり過ぎないように調整していくの」

「どうやって調節しているのですか?」

「このつまみの中に細かな刻印が施されていて、右のつまみを回すと風量が、左のつまみを回すと温度が調整できるようになってるの」

「こちら側は私がやるわね」


 タオルの片付けから帰ってきたライア姉がドライヤーに参戦する。


「ライア姉、ルーちゃんのトリミングが終わったらアミィちゃんの髪の毛を綺麗に結ってあげて」

「――!」


 最初はやきもちを妬いていたシュネだったが、アミィちゃんの反応を見て楽しむようになった。

 一見清楚なお嬢様って感じだが、コロコロ変わる表情は見ていて面白い。

 そして今も赤面してあたふたしている姿は可愛らしいと思った。

 ライア姉はアミィちゃんの心情を知ってか知らずか、ボサボサの頭を軽く手で梳かして「わかったわ」と言う。


「え、っと、あ、ありがとうございます!」

「ふっ! ケホッケホッ! ケッホ!」


 アミィちゃんのせわしなく動く体と表情に、シュネは思わず吹き出してむせてしまった。

 ライア姉が怪訝けげんそうな目をしつつ「ふぅ……まだまだ子供ね……」とため息と一緒に吐き出した。――まだまだ子供だもん。


「それでね、アミィちゃん」

「は、はい!」

「オルトロスは首の間に水気が残りやすいからしっかり乾かしてあげるの。水気が残ってるとばい菌が繁殖して皮膚病になるから、雨に打たれて濡れた時とかはしっかり拭いてあげてね」

「わ、わかりました」


 話題を戻されて真剣な顔になるが、頬はまだ少し紅潮していた。

 全体的に乾かしたら最後は顔だ。

 

「ライア姉、左顔やるから右顔お願い」

「わかったわ」


 一旦ライア姉はドライヤーを止めて右顔をマズルを軽く握りシュネの邪魔をしないようにする。

 顔へのドライヤーは嫌がる子が多い。なのでこの内にシュネは顔にドライヤーを当てるのだ。


「ありがと。んで、顔にドライヤーを掛けるときは風量を弱くして温度も下げ、目に当たらないようにするの」


 風量を最弱にし、温度を少し下げる。

 ドライヤーの音が小さくなり、耳の中がほわほわする。


「顔の側面から風を当てて、指で優しく撫でながら乾かしていく」

「ルーちゃん、気持ちよさそうですね」

「ァ~……」


 温かいそよ風に当てられてか、ルーちゃんが眠たそうにあくびをしている。

 トリミング中は自由に動けないから動物も疲れるのだ。


「もう少しで終わるからね~。ライア姉、こっち終わったから交代するね」

「わかったわ」

 

 今度はシュネが左顔のマズルを軽く握り、ライア姉が顔を乾かしていく。

 そんなライア姉をアミィちゃんは尊敬の眼差しで見つめている。――というより見惚みほれてる?


「よし。こっちも終わったわ。乾かし残しはないかしら?」


 ルーちゃんの全身を軽くマッサージしながらチェックをしていく。


「大丈夫だね。あとは冷風を当てながら体温を調節してあげて、軽くブラッシングしたらドライヤーは終了だね」


「「ァ~~~~……」」


 ルーちゃんが一際ひときわ大きくあくびをするとうつらうつらとし始めた。


「もうちょっとで終わるからね~」

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