イタズラ好きの次女三女

「次は体を乾かすんだけど、このままだと時間が掛かるからある程度タオルで水気を取るの」


 被せたタオルをで大まかに拭き取っていく。

 シュネは「ふっ!」と耳に息を吹きかける。

 そして水が飛んできても大丈夫なようにすぐさまタオルでガードをする。


ブルブルブルッ!


「体を震わせて水気を取ると少しだけ早く終わるんだよ」

「なるほど~」

「シュネ……」


 ルーちゃんを挟んだ向こう側からライア姉が呼ぶ。


「なに~? いっ――!?」


 向こう側で体を拭いていたライア姉をみると水浸しになっていた。

 体を振るわせたときにタオルでガードをしていなかったのだ。


「ご、ごめん! ライア姉! はいタオル!」


 受け取ったタオルで髪の毛とメガネを拭きながらシュネに向き直る。――怒られる!


「体を振るわせるときは一言言いなさい」

「はい」

「……ルーちゃんも早く拭いちゃいましょ」

「……はい」

「……」

「……」


 そんなに怒ってはいなかったけど、少し気まずい。

 小さくため息を付きながらタオルを取り換えると、『ブルブルブルッ!』ルーちゃんが体を振るわせた。

 今度はシュネがずぶ濡れになる。


「ふっ……あははははっ!」

「え?」

「ごめんなさい、ちょっとした仕返しよ」


――やられた!

 目に涙を溜めるほど笑っていながら「水浸しになったくらいで怒らないわよ」と言う。


「私は怒るよ!」

「でも一言欲しいのは本当よ?」

「ウ~……」

「ほら唸ってないで、またアミィちゃんほったらかしにしてるわよ」


 シュネはふくれっつらで「わかってる!」と言いつつ、ライア姉の『仕返し』のおかげで気まずかった雰囲気がなくなったことに心の中で感謝する。――ありがと、ライア姉。


「ごめんね、アミィちゃん」

「こちらこそごめんなさい。ルーちゃんが粗相そそうをしてしまい……」

「大丈夫大丈夫。たまに水浸しになることもあるからね」


 ガラス越しに頭を下げるアミィちゃんに「大丈夫だよ」とシュネは左手を軽く上げた。――アミィちゃんが謝ること無いのにな。


「でね。タオルにもコツがあって、撫でて拭くんじゃなくて、上から押さえて水分を吸い取る感じで拭き取るの」

「それはなぜです?」

「人と違って動物はタオルでガシガシと拭かれるのが苦手な子が多いんだよね」

「なるほど。それにしても……沢山タオルを使うのですね」


 シュネとライア姉の間に十数枚の濡れたタオルが山になっている。


「ルーちゃんは大きいからね~。でも少ない方かな」

「これで少ないんですか……」

「そうだね。体が大きくて体毛が長い子だとこれよりも大きいタオルを数十枚使うこともあるよ」

「それは大変そうですね」

「大変だね……でもこの行程をいい加減にやると後が大変だからね~」


 そうこうしている内に粗方拭き終えた。


「よしっと、ライア姉の方も大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。では私はタオルを片付けてくるから、ドライヤーの準備をお願いするわね」

「は~い。ルーちゃんちょっとこっちに移動しようね」

「「わふっ」」


 床を軽く拭いてから部屋のすみに置いてあるドライヤーを引っ張ってくる。


「それは何でしょう?」


 アミィちゃんは当然のごとく質問する。

 どうやら道具を使って乾燥させるのは珍しいらしい。

 大きな町では「生活魔法専門店」なるお店があり、そこで髪を乾かすこともあるという。

 髪の毛以外にも洗濯や掃除の代行なども行っているみたいだ。


「これはスタンドドライヤーって言って、この先から温風を出して乾かす時間を短縮するの」

「それはすごく便利ですね」


 シュネが「ニヤリ」といたずらな笑みを浮かべる。


「ここ見てみて」

「はい」


 ドライヤーの先をのぞいたアミィちゃんに向けて温風を当てる。


「きゃ!」

「どう? 温かいでしょ?」


 シュネは少しずつ強風にしていく。


「ちょ――シュ――ん!」


 アミィちゃんの声はドライヤーの音にかき消されてシュネには届かなかった。


「――ネ――!」


 ドライヤーを止めてシュネは「どうだった?」とコロコロと笑いながら聞く。

 アミィちゃんは頬を膨らませながら「もう!」と言いつつもシュネと一緒に笑い合った。


「かなり強い風が出るんですね」

「今回のはルーちゃんの毛質と肌質に合わせた風量と温度だけど、他の動物の時だともっと強かったり、弱かったり色々と微調整をしてるんだよ」

「これよりも強い風もあるとは……」

「それよりも……アミィちゃん、髪の毛がすごいことになってるよ」


 シザーホルダーから手鏡を取り出して「ほら」とアミィちゃんの姿を見せる。

 ドライヤーの風でボサボサになった髪の毛を手櫛てぐしで直すアミィちゃんを見て、シュネが言う。

 

「後でライア姉に綺麗に直してもらおっか」

「! ライア姉さまに!」


 両手を頬に当てて赤らめるアミィちゃん。

 やっぱり聞き間違いじゃなく、『ライア姉さま』と言っていた。――でも、嬉しそうだからいっか。


「ライア姉さまに髪を結って頂けるのは光栄ですけど、でもこんな髪型を見せるのは、あ~でもでも……」

「お~い。ドライヤーの説明をするよ~」

「あ! はい!」


 何かをボソボソ言っていたアミィちゃんを引き戻す。

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