第3話
光と泉をファミレスへ残し、瑞樹、万帆、美帆の三人は、駅の反対側にあるコンビニへ入った。それぞれ買い物をしてから、近くのベンチでたむろっていた。
瑞樹はカフェラテ、美帆はファ○チキとコーラ、万帆は緑茶と酢こんぶをそれぞれかじっている。
「……大食いのあんたはいいとして、なんで万帆ちゃんは酢こんぶなの?」
「お姉ちゃん、昔からあれ好きなんだよ」
年寄りくさい組み合わせに瑞樹は驚いたが、どうやら家族である美帆にしかわからないこだわりがあるようなので、それ以上は聞かないことにした。
万帆はFXで有り金全部溶かした顔ではなくなっていたが、相変わらず意気消沈している。
「で、どうするの? あの二人」
美帆がのんきそうに言った。告白に失敗した万帆と、光と付き合う方法を画策している瑞樹と違って、美帆はただの外野だ。この三人の中では一番、落ち着いている。
「決まってるでしょ。あらゆる手段を使って倭文を選挙で落とす――こほんっ、とりあえず、万帆ちゃんの告白があんな風に邪魔されたままでいいのか、だよね」
一瞬、鬼のような形相をした瑞樹だが、美帆だけでなく万帆も一緒にいると気づき、態度を改めた。
「お姉ちゃんはあのままでいいの? 山川くん、どう考えても聞き間違えてたし、わたしが先に告白したんだ! って言ってもいいと思うけど」
「わたしが告白したら、絶対失敗するから……」
別に、万帆の告白の仕方が悪かった訳ではないのだが、大失敗をした手前、万帆の言葉を誰も否定できなかった。
瑞樹と美帆は、中学時代の万帆に何があったか知っている。
一度失敗すると、なかなか立ち直れないものだ。万帆が消極的になるのも理解できた。
「うーん」
美帆が、ちらちらと瑞樹にアイコンタクトを送っている。
そもそも、まだ過去のトラウマを引きずっている万帆に無理やり告白させ、光と引き離すのが今回の、瑞樹と美帆の作戦だった。
結果的に、光と引き離すことには成功したが、その経緯は誰も予想しなかったものだ。
瑞樹と美帆は、今更ながら罪悪感を覚えていた。
「どうするよ?」
美帆が、瑞樹に耳打ちした。
「万帆ちゃん、ちょっとかわいそうよね……」
瑞樹は、万帆のすぐ近くに座りなおし、肩をたたいた。
「万帆ちゃん」
「……はい」
「まだ諦めなくていいと思うよ。山川くんのこと好きなんでしょ?」
「……はい」
「別に、彼女がいる男子を好きになってはいけない、っていう決まりはないから」
「はい……はい?」
「倭文さんから、山川くんを奪っちゃえばいいんだよ」
瑞樹にとって、最終目標は自らが光と付き合うことだ。そのために美帆を介して、光と万帆の仲を妨害していた。しかし、恋敵としては万帆よりずっと強力な泉が現れたことを、非常事態だと捉えていた。
とりあえず、泉と光の交際をやめさせることが最優先だと考え、万帆を支援する方向に舵を切ったのだ。
「倭文さん、あんな風に空気読まないところある子だから、山川くんも迷惑なはずよ。万帆ちゃんはこれまでと同じように、山川くんと仲良くすればいいのよ」
「そ、そうですよね。別にあきらめなくても、いいですよね……」
学年一の美少女リア充の瑞樹に助言されれば、万帆にも自然と自信が戻ってきた。
「こうすればいいんじゃない? 次は、クリスマスの予定を――」
万帆と一緒に、光をデートに誘う方法を考え始めた瑞樹を見て、色々と察した美帆は、
「瑞樹ちゃん、性格わっる……」
と、呆れてつぶやいた。
* * *
女子三人でコンビニ会議が開かれていた頃。
光は、自宅に戻ると、疲れからか倒れるようにベッドで横になった。
失敗した。
それが、光の率直な感想だった。
失敗した。失敗した失敗した失敗した。失敗した。
何度も頭の中でそうつぶやきながら、光は自分が今、寝ているのかどうかもわからない状態に陥り、苦悶し続けた。
まず、万帆が意を決して行った告白を、光は正確に聞き取れなかった。それが一番、光の後悔しているところだった。光が告白に即答していれば、泉の介入を許すことはなかったのだ。
このタイミングで全く知らない女子が間に入ると思わなかった光は、泉の出現で完全に混乱してしまった。瑞樹のようにある程度男子とも話せる女子や、これまでの積み重ねで打ち解けてきた万帆ならともかく、泉のように普段から男子と話さないタイプの女子と初対面でコミュニケーションを取る力は、今の光にはなかった。おかげで何をしたらいいのかわからなくなってしまい、万帆の告白をフォローできなかった。それどころか、いつの間にか泉と付き合うことになっていた。
こんなことは間違っている、と光は思う。
これまで彼女ができたことがない身とはいえ、ほぼ初対面の女子の告白を受け入れてしまうのは、どうなんだ。しかも、自分には万帆という好きな人がいるのに。
明日にでも、泉の告白は断るべきだ。
しかし――
告白を断ることで、泉が傷ついたらどうしよう?
あんな形でも、告白は告白だ。それなりに勇気を出して言ったに違いない。
そんな優柔不断な考えが、光の脳裏に浮かぶ。ネガティブなのは、彼の最も悪いところだった。
自分の力ではどうにもならない、と考えた時、光が持つ選択肢は、瑞樹の力を借りることだった。
瑞樹なら。瑞樹ならなんとかしてくれる。
泉と瑞樹は生徒会で知り合いだと言っていたし、瑞樹を仲介して話をしてくれるのではないか。
そんな甘い考えを浮かべながら、光の意識は遠のき、本格的な睡眠に入っていった。
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