1、ターゲットタイム

「おめでとうございまーす! ターゲットタイム賞の遊園地のペアチケットでーす!」


 私が二年九組に戻ると、そこで信じられない光景を目の当たりにした。


「それではインタビューっ! 誰と行かれますか?」


「えっと……それじゃあ友達と行きます」


「ほほぉ、友達ですか。それは女ですか、それとも女の子ですか?」


「選択肢は実質一つですね。えっとそうですね……はい、女子です」


「なるほど! ぜひ楽しんで来てくださいね!」


「はい、ありがとうございました」


 どうやら初の『9』の字発見者が出たらしく、おせっかい女が発見者にインタビューをしているところだった。その姿をもう一人の女子生徒がカメラで撮影をしている。


 そしてその発見者というのが……私がずっと追っていたあのキャリーバッグの彼だった。そしてその隣には……。


「えっと、それでは俺はこれで……」


 キャリーバッグの彼は、何事も無かったかのようにチケットを受け取って、私の横を通り過ぎて教室を出て行く。


「ちょっと待ってください……」


 教室から出てすぐのところ、教室内からでは見えないところで私は彼を呼び止めた。


「何ですか?」


「どういうことなんですか、説明してください!」


「説明って言われても……ただ俺は人探しを楽しんでいただけですよ」


 彼は優しそうに微笑みながら、そしてワタシを諭すようにそう言った。


「でも俺はどちらかと言えば映画の方を楽しみにしていたんですけどね」


 そう言い残して、彼は再び私に背を向け歩き出す。


「ちょ……」


 もうこれ以上呼び止めても聞くことはなかった。わけは分からなかったが、こうなってしまっては、現状をこれでしか表すことが出来ない。それは『全ては私の勘違い』だ。


 消化不良もいいところだ。いろいろと何かがおかしいし、私の知らないところで何かがあったに違いない。それでも今は、その〝何か〟がわかるはずもなく、私は教室に戻った。

 

 

 そこには水野葵がいた。


 生きて、そこに立っていた。



「今までどこにいたの?」


と、おせっかい女。


「ずっといたけど」


と、葵。


「どこに?」


「学校の中に」


「マジか……いなくなったのかと思って心配したのに」


「……遊んだりしながら回ってたから……かも」


 そんな会話が繰り広げられていた。


 葵は生きている。確実に、そこにいる。どうやら夢ではないようだ。

 

 文化祭終了を告げるチャイムが学校内に響き渡った。


 その時、教室の奥の方で先までカメラを回していた女子生徒が、おせっかい女と葵のほうに向かってこんなことを言った。



「ところでさ……さっきまでここにあったマネキン、誰か持って行っちゃったの?」


 

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