第6話 罪人たちの末路

 ダンジョンマスターの少女の名前決めが行われていた一方、連れてこられた死刑宣告を受けている罪人たち五人はダンジョンの奥へと向かって歩いていた。

 耳を塞がれていたせいで、まさか自分たちを連行してきた迷救教の人間が付いて来ていないなどとは考えもしなかったためだ。



 そもそも何故宗教団体が罪人を連れ歩いているのか。

 それは迷救教が世界各地に拠点を持つ広域宗教団体であり、多くの国で国教として扱われているほどの大組織であることが大きい。

 冠婚葬祭といった催事を取り仕切り、治療施設、探索者ギルドの運営も行っている彼らは民と密接に関わり、敵対するならば国が滅ぶとまで言われている。

 よって様々な特権を得ており、その一つが死罪人の死刑執行権である。

 これはダンジョンマスターへの生贄を合法的に得るために、と彼らが望んで得た権利だった。



 死罪人の中でも先頭を歩く男はもう生を諦めており、虚ろな表情を浮かべていた。

 縛り首や斬首刑にされず、迷救教の修道服を着た連中に外に連れ出された時点でダンジョンでの死刑なのだと理解し、逃げられないと悟っていた。

 迷救教の人材、特にダンジョンに向かう者たちは一般人とはものが違う。

 とにかく強い。だから逃げるなど到底不可能なのだと知っていた。

 ダンジョンを聖地と考え修行場とする彼らは、ダンジョンで手に入る魔法とスキルを習得できる巻物スクロールを大量に得ているせいだ。



 ダンジョンに入ってすぐに殺されると思っていたが、何故か奥へと歩かされることになった。

 これは直接手を下されるのではなく、ダンジョンの魔物に襲わせるという算段だろうか。

 惨いことを考えるものだ。

 あとどれくらい自分は生きていられるだろうか。

 せめて苦しまずに死ねるような魔物が出ることを祈る。


 そんなことを考えていた時だった。

 特になにがあるわけでもないが、少し広い空間に出た。

 奥にはまた道が狭まった通路が続いている。

 特に指示もないので、そのまま歩を進めた。

 空間の中央付近に差し掛かった時、何かに視界を塞がれて衝撃が首を襲った。

 そして彼は望み通り、そうと気づかないうちに命を落としていた。



 戦々恐々となったのは後続の男。

 先頭を歩いていた男の頭。それが急に黒い物体に覆われて倒れ伏したのだ。

 必然繋がっていた腰紐がピンと張り、前に引っ張られる。

 猿轡を噛まされているため、声にならない悲鳴を上げながら前の男へと覆いかぶさるように倒れた。

 前にいた男の頭部が間近になる。

 だがそこにあったのは頭ではなく、黒くてぶよぶよとした蠕動する何かだった。

 これまでダンジョンになど入ったことのない男であったが、それには見覚えがあった。


 虫だ。芋虫だ。

 街の外で、色は違うが似たような魔物を見たことがある。

 グラスワームと呼ばれる、草原で死骸を食う、動きの遅い魔物。


 そんな大きな芋虫が、まるで頭をげ替えたように頭部を丸呑みしている光景に怖気が走った。

 慌てて後ずさろうとしたが、さらに後続を歩いていた人間が圧し掛かってくる。

 繋がれているから当然の流れだった。

 だが最悪なのは身体を起こそうとした時にそうされたこと。

 再度倒れ込み、今度は芋虫に顔が押し付けれらた。

 一瞬ではあったものの、頬に生暖かく、柔らかくも弾力のある気色悪い感触があった。

 横倒しになりながら、肩で頬を擦るように拭う。

 仕方ない事とはいえ、あんな感触を自分に味あわせた人間を睨むように見やった。

 だがそこにいたのも前の男と同様、頭部を芋虫に食われた男の姿だった。

 碌に身動きはとれないものの、それでも精一杯身体を離す。

 そんな彼の身近に何かが降ってきた。

 それは黒い芋虫だった。

 上から魔物が降って来ていると知り、彼は見上げてしまった。

 最期に見たのは大口を開けて降って来た芋虫の口内。

 肉の色をしたその中に、無数の白い牙を生やしたそれは男の顔面を捉えていた。


 あっけなくも、その場で四人の罪人が生涯を終えることとなった。

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ダンジョンマスターは世界を夢見る 足袋旅 @nisannko

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