第5話 名前
ダイダンによって追い立てられた罪人たちを、映像投影で呼び出したパネル群で追うダンジョンマスターの少女。
映像の中には今、ゴツゴツとした洞窟のような道を躓きそうになりながら歩く五人と、その後ろを慣れたように淀みなく歩く迷救教の三人の姿が映っている。
「変な奴らだけどとりあえず奥に進んでくれて良かったわ。後は罠にかかるか、魔物に殺されてくれるのを待つだけね。ついでに後ろの三人も一緒に死んでくれないかしら」
「……申し訳ありませんが、その願いは叶えられないかと思います」
「あっ、ヤバッ」
コアに対する言葉だったのに、音声を繋いでいた為しっかりと迷救教の三人にも聞こえてしまっていた。
聞かせるつもりではない言葉を聞かれ、一瞬慌ててしまったが少女はすぐに気を取り直す。
『本心を聞かれたところで問題ないじゃない』
そんな心情だった。
「宜しければ繋いだままにして頂けませんか」
音声接続を切られると思ってか、ジェスカがそんなことを言ってきた。
「私共は貴方様と誼を結ぶのを目的に来ています。ですから会話する機会を逃したくありません。如何でしょうか」
「別にいいけど。私からそっちに話すことは無いわよ」
「話を聞いて頂けるだけでも構いません」
「ならこのままにしてあげる。でも話すなら有益なことにしてね」
「はい。ありがとうございます」
元から切るつもりがないのに恩を着せていく。
コアからは聞けない、外の情報を得られる良い機会だと考えてのことだった。
「では道中こちらから話をさせて頂きますね。私たちはここ以外のダンジョンにも入ったことがありますから、どういったダンジョンに人が集まるかなどのアドバイスもできますがお聞きになられますか」
「いいわね。じゃあそれを聞かせて」
自分以外が造ったダンジョンには興味がある。
「ここから一番近いダンジョンはセーサングという名前のダンジョンマスター様が管理されています。そこは――」
「ちょっと待って」
「なんでしょうか」
出だしで話の腰を折った少女に、ジェスカは首を傾げる。
「名前って何」
「名前とは特定の物に名づけれられたもので、私であればジェスカ、こちらは――」
「あんた私の事を馬鹿にしてんの!?知ってるわよ、それくらい。あとそっちがダイダンでそっちがメリーでしょ」
「「あぁっ」」
名前を呼ばれた二人が歓声を上げて地面に片膝を着き、両手を腹部前で組むポーズを取った。
それが迷救教の祈りの姿勢のようだ。
「ダンジョンマスター様、私は、私の名前は呼んで頂けないのですか」
「まずは私の質問に答えなさいよ。なんで今話に出たダンジョンマスターには名前があるわけ。私にはないんだけど」
「私の名前……」
「うるっさいわね。後で呼んであげるわよ」
「お願いしますね。絶対ですよ」
「呼ぶって言ってんでしょうが!!ぐだぐだ言ってたら呼ばないわよ」
「セーサングは近くの街の名前です。他のダンジョンマスター様も同様に近くの街の名前や地域名をそのまま名乗られることが多いです」
ジェスカはすらすらと答えた。
「へー、ここの近くの街の名前は?」
「ゾーゼフです」
「………」
「ゾーゼフ様とお呼びしましょうか?」
「なんか嫌」
「そうですか。地域名からとなります、ボイザ伯爵領なのでボイザ様。もしくはモーラン山の山間にここはありますのでモーラン様でしょうか」
「どっちも嫌」
どれも少女の気には召さなかったようで、にべもなく却下した。
「何か私達で良い名前を考えましょうか」
「そうね。良いのがあったら採用するわ」
それから迷救教の三人が案を考え、聞く時間となった。
「ダイダンの案のイーリスってのも良かったけど、メリーの案から私はライラって名乗るわ」
「お役に立てて光栄です」
「良い名前かと」
「くうっ」
名前の出た二人は礼をし、ジェスカは一人悔しさから拳を握りしめた。
「なに悔しがってんのよ」
「ペッティもチランもロイロイも可愛いのに」
「どこがよ。あんたが考えるのって全部センスがないわ」
「そうでしょうか」
自覚はないようだが、ジェスカは少し独特な感性を持っていた。
ともかくダンジョンマスターの少女の名前はライラに決まったのだった。
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