第4話 迷救教
初のダンジョンへの来訪者に喜んだのも束の間、何故かそんな彼らの話を聞くことになったダンジョンマスターの少女。
「それではご説明差し上げます―――ちなみに顔を見せて頂くことは叶いませんか」
「嫌よ」
「そうですか」
にべもなく断わられた迷救教の信徒であるジェスカは、肩を落としつつもダンジョンを訪れた理由を語る。
その内容は、少女に理解できないものだった。
「ダンジョンとは神が創り
「神って誰よ。ここを造ったのは私なんだけど」
少女は我慢ならずに口を挟んだ。
だがすぐに返す言葉が並べ立てられる。
「勿論存じております。私が言っているのはダンジョンという概念の話です。神とはこの世界に在る全てをお創りになられた偉大なお方のこと。ダンジョン、ひいてはそのマスター、コアという存在はある日突如この世界に現れました。そのようなことができるのは神だけです。ならば奇跡により生まれたダンジョンを管理するダンジョンマスターとは神の御使いに他なりません。ですから私たちは貴方様と良き関係を築きたいと考えております」
両手を広げなにやら熱心に語るその姿に、少女は若干引きながらも気になった点を指摘する。
「神なんて会ったことも聞いたこともないわよ」
「神は奇跡を起こし、時に罰を下しますが滅多にお姿は現されません。ましてや貴方様は御生まれになられたばかりでしょう。知らぬのも道理というもの」
自分はどのように生まれたのか。少女はその答を持ち合わせていない。
だから否定も出来ず、そういうものなのかと首を傾げた。
「ひとまずそれはいいわ。じゃあ試練と恵みってのは何なわけ」
「試練とは魔物という脅威。仕掛けられた罠。恵みとは資源と財、そして力でございます」
「はーん、で供物ってなに。何かくれるわけ」
「あれです」
手で指し示したのは麻布を被って縛られた者たち。
「は?そいつらを飼えって言ってるわけ?いらないんだけど」
「いえこの者たちは
ジェイスの後ろに控えていた二人が動く。
彼らの腰に提げていたメイスと剣。それを手に縛られた者たちへ歩み寄る。
「何をするの」
「この者たちは罪人です。罪状はそれぞれですが、死罪が決定されています。ですがただ死罪にするよりも、最後くらいは世の役に立ってもらう為ダンジョンに捧げるのです。ダンジョンが大きくなるには必要でしょう」
「つまりそいつらをここで殺すって訳ね」
「はい。その通りです」
「駄目よ!」
ジェスカが頷くと少女は声を大にして止めた。
「二人とも待機を。――利しかないはずですが、何故お止めになるのかお聞かせいただいても?」
少女はジェスカを止め、ジェスカは命令を下した二人を止めた。
何故止めたのか。理由は単純だった。
「そんなのちっとも面白くないもの。私は私が造ったダンジョンのギミックで人が死ぬのが見たいのよ。ただで与えられた餌なんかいらないわ」
少女は堂々と言ってのける。
そこに罪人への憐みや慈悲などなかった。
「殺し方が気に入らないと」
「そうよ」
「ならば彼らの拘束を一部解き、ダンジョンの奥へと追いやりましょう。それなら構いませんよね」
「ええ、それならいいわ」
与えられるという事に変わりはないが、問題ないと少女は頷いた。
「メリー、ダイダン。聞いていましたね。そのように」
二人は構えていた武器を納め、罪人たちの被っていた麻袋をはぎ取った。
その下の顔は、耳と口を布で塞がれていた。見えはしないが耳には栓もされている。
徹底的に逃げ出すことができないようにされていた。
だがこのままでは歩かせるのも困難となるため、目隠しだけが取り外される。
どの罪人も目を瞬かせ、辺りの様子を窺う。
状況が分からず狼狽える者、ジェスカ達を睨み据える者、諦観し微動だにしない者と反応は様々だった。
だが彼らの運命は決まって一つしかない。
武器も持たず、手枷を嵌められ、腰紐で繋がれた彼らに抵抗する術はないのだから。
ダイダンと呼ばれた男性が、目は見えども耳栓で音が聞こえない罪人たちに対し、剣先で行くべき道を指し示す。
そうして彼らは自らの足で死地へと歩み始めた。
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