第13話 Stranger
暗くて暗くて、おばけが出てきそう。
ちょっと前からとおくの方でへんな音がなっている。
さっきから、なにかがこげたみたいな、いやなにおいもする。
はやく帰りたい。
「ぱぱ、ままぁ……」
彼女は泣きじゃくってぐしゃぐしゃになった顔を膝に埋めてうずくまった。
アルマジロのように背中を丸めて、本能的に身を守るような体勢でしばらく泣き続ける。
ぐずぐずと鼻をすする音だけがその場所で聞こえる音だった。
いつしか涙も枯れた頃、彼女はすくと立ち上がった。どうにかして家に帰ろうと考えたのだ。
「どっちかな」
帰ろうとは思うが、道がわからない。遠くで聞こえていた音もいつの間にか近くのほうで聞こえてくるように感ぜられて、それも彼女の判断を鈍らせる。ただ周囲を見渡すだけで、そこから何か別の行動へとつなげることができずにいる。
だが結局、どうしようかと迷っていたことが、この時の彼女にとっては僥倖だった。
だれかが走ってくる。
その人のうしろには黒い雲。
黒くておおきな雲が波のようにその人をおいかけていた。
「ぃやっ」
彼女は咄嗟にまた、その場にしゃがみ込んだ。
「あぁ、こりゃあっ……」
随分と長いこと走ってきたのか、息の上がった苦しそうな声が頭上で聞こえたかと思った瞬間、彼女は抱えあげられた。
あっ、と思う間もなく彼女はその腕に抱かれたまま、走る振動に身を任せる。
あんまりに突然のことだったので、声をあげることすらできず、落ちないようにただその人の首元にしがみつくことしかできなかった。
長く、その人は走っていたように思う。
目をつむっていたから、よくわからない。
いま、どこにいるんだろう。
その人は立ち止まってしばらくぜーぜーしていた。
「えと、ありがとう、ございます」
彼女はその人の首から腕を解いて、地面へと降り立った。
「大丈夫?怪我とかない?」
その人はやさしい人みたいで、つかれているだろうに、笑ってくれている。
彼女はその言葉に無言で頷いて応えた。
こわいけれど、いたい所はない。
落ち着いてくると、幼いながらに色々なことが頭の中に巡り、さまざまな疑問で埋め尽くされた。
あの黒いやつはなに?
あなたは誰?
ここはどこ?
おうちに帰りたい。
「ねえ、」
彼女が言葉を発する直前、轟音が鳴り響いた。
びくりと身体が跳ね上がる。
少しだけおどろいていた様子でいたその人がふり返った。
彼女はその視線を追い、思わず息を呑んだ。
そこにいたのは黒くて大きなかいじゅう。
もやもやしていてあんまりはっきり見えないけど、人の形をしている。
パラパラと砂状の黒い粒が降り注いでいる。
先程の轟音は、ここら一帯の地面を吹き飛ばしてそれが現れたことによって発せられたものであるらしい。
飛んできた破片の大きさはほとんどが問題にならないものであったが、距離がもう少し近ければひとたまりもなかっただろう。
「逃げて、できるだけ遠くに」
言われるままに、彼女はその巨大な存在から遠ざかるように走った。
あんまり足は早くないのだけど、がんばった。
後ろが気になってふりかえった時、その人の手は赤く光ってた気がした。
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