第9話 キリクチ
一日のうちに何度人とすれ違うか、なんて考えることすらない。実際に数えたことなんて、なおさらにない。
それに意味を見出すのは統計でもとっている人だけ。それすらも正確な値を出す必要があるのかは微妙なところだ。
科学なんてカッコつけていってるけど、結局、確率でしか示せないんだから占いと大差ない。
そう考えると、人は大昔からたいして変わっていないのかもしれない。信奉する対象が占いや宗教から、科学に移っただけ………
それはさておき、何人の人とすれ違ったかを数えることはしなくても、印象に残る一人を覚えていることはあるのではないだろうか。
それは異性、同性にかかわらず、容姿の美醜だったり、その立居振る舞いであったり、意外な知り合いであるかもしれない。
要は、自分にとって何かしらの感情が介在した時にその人は印象に残る。たとえ、すれ違っただけだったとしても。
いわんや、その人をその日のうちに何度も見かけるようなら、なおさら。
そして、今、僕の目の前には少女がいる。
今日という一日のうちに二回も三回もその姿を見かけた。一回目は登校中の電車の中で、二回目は帰りの電車を待っている駅で、そして三回目は、手に持ったスマホの中で。
赤毛の少女で、少女的な印象を受ける背格好ではあるのだが、どこか大人びて、落ち着いている。
その印象を一言で言い表すなら「造花」。そうあれと造られた模造品。綺麗になることが確約された被造物。
そして、そんな少女が今、動画の中の主役として僕の目の前にいる。
なんとなしに開いた動画、課題の答えを得るべく調べたその動画の中に、彼女の姿はあったのだ。
当然驚く。
なんらかの意思でも働いているかのような巡り合わせ、必然性に導かれているかのような気さえする。運命というやつを信じたくもなる気持ちもわかるというものだ。
こういうことが偶に起こるから、いまだにまじない事は廃れないのだろう。
まさに、意味のある偶然の一致というものだ。
だから、そこで取り扱われている内容が、まさに自分の心情を言い当てているように感じた時、僕は彼女にある種の不気味さを感じたのである。
この少女は何者なんだと。
合理的に考えるたならば、これは単なる偶然で、それ以上の意味がない。
しかし僕はすでに、この世の非合理に遭遇しているのだ。だから、不思議な巡り合わせを少しでも期待してしまうのは仕方ないことだと思う。
そして実際、それは間違いではなかったように思う、形はどうあれ。
別に、特別すばらしいことを言っていたわけではない。この世の真理を語っていた訳でもない。
ただ、単純に「やってみる」ことの大切さを淡々と話していた。
やってみたから、結果が出る。
それだけの単純な内容を話していただけ。
その日、僕の偶然が見つけ出したのは、成功も失敗も、行動に帰属すると語るだけの動画であった。
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