第8話 AlI]en(AkA

 こんなことはないだろうか。

 何かをしなければいけないような気持ちばかりが心を圧迫する。

 やらなきゃならないことばかりなのに、やる気が出ない。

 そういった思いが占めて窮屈になった心は、満員電車で押しつぶされているかのように呼吸すら困難にする。

 ちょっと聞きたいんだけど、そんな状況で、何かをやる気になると思う?

 やる気というのは大切だ。それはもう、言葉でいう以上にこの概念は人間を支配している。やる気さえあれば、はどんな人間でも支配下に置いている。

 環境さえ良ければ。才能さえあれば。給料さえ良ければ。目標さえあれば。時間さえあれば。あれさえあれば。これさえあれば。

 やる気が出るのに。

 そんな言葉は全部、窮屈から出る言葉。

 窮屈で仕方ない。自分にはできないことが多すぎて。できなかったことを悔やんで。

 これらは全て一つの言葉に帰属する。

 すなわち、余裕さえあれば。

 人は「何か」をする余裕があるから、「何か」ができる。余裕があるということは、充分にそれがあるということ。

 だから、やる気が出ないということは、何かが足りていないのだ。充分な心の空間がないのだ。

 言い訳だろうか?

 自分がやってこなかったことを責められているのだろうか?

 誰に?

 親だろうか?

 友人だろうか?

 先生かもしれないし、上司という可能性だってある。

 もしかしたら、社会?

 世界かもしれない。

 でもたぶん、一番は自分なのだ。

 自分にしか、本当の意味で自分を否定することはできない。

 何かを言われたところで、それは言われただけだ。言葉にすぎない。

 それに意味を与えて、自分を否定するから自分は否定される。

 自分なのだ。結局全てが。

 自分を拒絶してしまう自分が悪いのだ。

 余裕がないのは、自分のせい。

 だから自分を許してあげなきゃいけない。自分を許さないのが悪いんだから。

 悪は正さなきゃいけない。なに、違う?矛盾してるって?

 それでも結局、切り口はなんでもいい。

 やる気がないなら何もしなければいい。やる気が何のに何かをするから結局なにもできなくなる。

 理想からは遠ざかる。

 なんという皮肉。

 頑張るから失敗する。

 何かを為そうとバカ真面目に考える人ほどそうだ。

 努力は美徳なんて大嘘。

 自分にとって努力であるうちは窮屈で仕方ない。

 周りには何て見られようが構わないが、自分にとっても努力であっては窮屈でしかない。

 続かない。

 だから、それは努力だとよくない。ただやること、やりたいことでなければならない。

 それをすることが当然のことでなくては。

 ただ楽に。

 努力をして何かを掴める人間なんてほとんどいないのだから。

 でも、努力がやりたいことだったら、努力してみるのはいいかもしれない。努力している姿は確かに見栄えはいい。美しいとも言える。

 少なくとも私は好き。

 でも時々、人は思いも寄らないことで悩むものだから、私はそんなところで?なぁんて思うわけ。

 それはなんと言うか、綺麗じゃない。汚いとは言わないけど、直せるなら直したい部分というやつ?

 これもその一つ。

 そしてこういう、頑張る人ほど天才に憧れる。

 じゃあ、天才って何?

 人より何かに秀でていること?

 確かにそれは否定できないね。

 じゃあ、その判断基準は何処?

 国が決める?それとも星?宇宙基準?

 あ、有機物と無機物の違いとか?機械のやることは別とカウントしてみる?

 はい、考えるだけ無駄。

 なんで天才は天才なのかって、周りが祭り上げるからその人は天才になれる。

 天才ってのは資格の一つのようなもの。それができますよって言う共通認識。

 天才とバカは紙一重なんて言うけど、いい言葉だよね。でも、勘違いしている人も多い。

 「天才な人」と「バカな人」何て別々の人がいるように思い込んじゃってる。

 そんな人いるわけないじゃん。

 天才な一面を持っている人と、バカな一面を持っている人しかいないよ。

 裏を返せば、バカで天才もいるし、天才なバカだっているってこと。なんでもできる完璧超人なんて存在しないし、それ自体が矛盾を孕んでる。

 だって、多くのことに劣っていることだって才能なのだもの。

 天才って、その程度の儚いものなのに人は焦がれる訳ね。

 天才、天才、ってね。

 全く愉快。

 こんなにいじらしい現象ってないよね。


 なぁんて言ってみたりして。

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