第21話
リアムのアクターは杏のアクターより背は少し低め。長い黒髪を後ろに束ね、紫の作務衣風の衣装を身に着けていた。
無骨な黒一色の杏のアクターと違い、少し背の高い女性が立っているようにも見える。
両の手に刀を握っているのが見える。
右手の刀を杏の方へと投げた。
杏が受け取ったのを確認したのち、鞘を抜き放ち手の平を上に向け、来いと合図する。
「珍しく挑発してるな」
アダムスが笑う。
「武器を持っての実技は始めてのハズ。なんだけど」
お互いをにらみ合い、立ち尽くす。
団子のようになっていたアクターは全てはけ、グランドには2人しかいない。
皆、固唾を飲んで2人を見守っている。
痛いほどはりつめた空気が場を支配する。
再び、リアムが来いと合図を送る。
お互い、剣を構え動く気配はない。
無限に続くかと思われた時間はふいに破られる。
先にしびれを切らしたのは杏、だった。
相手を撲殺せんとばかりに激しく槌を振るうように上から続けざまに打ち下ろす。
リアムも負けてはいない。
全てを剣で受け止めていた。
防戦一方の形に見える、リアム。たが相手の足は少しずつ微かに後ろに押し戻されていた。
更に激しく振り下ろした瞬間リアムが待ってましたとばかりに受け止めたあとそのまま上へと勢いよく振り上げる。
バランスを崩しのけぞる形となった杏へそのままの勢いで今度は右上から左下へと振り下ろし、とどめとばかりに鳩尾へと突きを入れる。
為す術もなくグランドに仰向けに大の字に倒れた杏。リアムはすかさず馬乗りになる。
「待て!待って。勝負あり。終わり」
ボッコボコに殴りそうな気配に慌てて止めに入る。
「嫌っ、嫌です。コイツ、女神様を侮辱しました」
……はあ。そんな理由で。
「どこまで女神様なんだ」
アダムスは額に手をおき、天井を仰ぐ。
「女神様?」
一方の杏は何も分からない模様。
「リアム、私情からの行動は……。分かってるよね。杏、女神ってのは私のアカウントなんです。ノルン。知らない?運命の女神って」
キョトンとした顔のままの杏。ホントに知らないようだ。
「知らないなら知らないでいいから」
杏の実力がハッキリした。リアムと同等かそれ以上の実力。絶対に経験者のハズ。
何故、初心者などと嘘をついたのか?
ますます、杏の謎が深くなっていく。
sin~シン~運命の女神の手の中で 神稲 沙都琉 @satoru-y
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