第14話

何日か、トイレとベッドの往復で過ごしていた。家には帰らず、ビルの自室で過ごしていた。幸いにして1人暮らしなので帰らなくても心配する人はいない。逆にここにいればいつも誰かがそばにいて寂しいことはなかった。リアムやマルコはわかるがアダムスまでが頻繁に顔を出していた。

何度かに1回は紙袋を抱えてやってくる。本当に娘が心配な父親のようだった。


「ゲームしたい」

子供のような私のワガママに

「明日の検診まで我慢です」

アダムスは困ったような表情を浮かべ私の頭を軽くなで、大人しく寝てなさいとばかりに布団をかける。


「食事はちゃんとしているかね?食べたいものや飲みたいものはないか?」

本当に父親だな、と思い思わず笑ってしまった私にアダムスはキョトンとした顔になる。

「ちゃんと食べてるから大丈夫。冷蔵庫にもたくさん入れてくれてるから心配いらないよ」

そうなのだ。冷蔵庫には各国の軍の携行食糧が詰め込まれている。珍しいスイーツなども。何を食べてもいいし、無料である。定期的に補充され、空になることはない。

まあ、リアムがよく勝手に食べているが。


「一時的な負荷がかかって倒れたのは理解できたが原因が分かるまではゲームは我慢しなさい」

アダムスはそう何度も言う。

だが。

私にはなんとなく原因が分かっていた。

モニターに雨のシーンが映ったときだ。あのときにスイッチが入り私の心は幼い頃に戻っていた。夢に出ていたあの光景。何かが起き、そうして逃げていた。そのときに何かを見たのだろう。


「もう、本当に大丈夫だよ。アダムス」

私は寝たままアダムスの頭を抱き寄せる。

首から下げていたお守り袋が微かに鳴る。

中にはドッグタグが入っている。

『From S.A To Haru』

と刻まれたドッグタグが。

お守りだよ、と幼い頃ばあちゃんに下げてもらってからずっと肌身離さずつけていた。誰から誰へなのか……。


このまま、ゲームをやらなければ運命は変わっていたのか……。しかし、静かに回りだした歯車は止まることはなかったのだ。



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