第13話
小さな私の手を握りしめ必死に誰かが走っている。手の感じで女性だと思う。母、だろうか?途中、1度しゃがんで何かを囁いて私を抱き上げ再び走り出す。
鬱蒼と生い茂るジャングルの中、どしゃ降りで足元はぬるぬるとした汚泥のような川。
私を抱き上げたままで後ろを何度も何度も振り返り走り続けている。
ああ、またあの夢だとぼんやり思う。
このあとに、多分父だと思う男性が私を受け取り再び歩き出す。私を抱いていた人はどうなったかわからない。
「……ルキ、ハルキ。女神様!」
一瞬にして現実へと戻されてしまう。
「うん?」
ぼんやりした頭で周りをみる。
心配気な様子でみんながみていた。
ハルキの目に何かひかるものが……。
笑っているようで笑っていない不思議な表情で固まっている。何かを呟いたかに思えたが自分でもソレが何なのかわからない…。
「大丈夫か?』
信じられないほどの優しい声でアダムスは語りかける。続けて
「どこか痛いのか?」
と髪を優しくなでる。
少しずつ、少しずつだが頭の中の霧が晴れていく。周りの人の顔も段々と理解できていくにつれ恥ずかしさがこみ上げてくる。
「……夫、大丈夫だから心配しないで」
ずっと髪を撫でているアダムスの顔にゆっくり手を伸ばす。アダムスは私の手をしっかりと握り自分の頬にあてる。
「フフッ、泣いてるんだ」
私が笑ったのを見て、アダムスは
「娘が倒れたと聞いて慌てない父がいるか?」
と笑い返す。
「父じゃないじゃん」
「部下は全部私の子供だよ」
ほどなくして頭は完全覚醒したものの全身の脱力感が半端なくベッドに為す術もなく寝ていた。
「イベントは大成功だったんだよ!」
リアは興奮気味にこと細かく報告してくれた。
記憶に全くないが自分のアクターの動きが想像以上に滑らかでどんな感じだったかを身振りを交えて教えてくれる。
「新規登録ユーザーがまあ、凄いな」
アダムスもまんざらでもない感じでボソリと言う。
「身体の方は全く問題ないそうだ。明日もまだ起きれないようなら詳しく調べてもらわないとだな」
アダムスの何度目かの同じ言葉をまた聞く。
リアもマルコも笑っている。
私は幼い頃の記憶が全くない。
母に対する記憶も……。
戸籍も母の欄は空欄だった。
父に似ていない、否、日本人ですらないかも知れない私。
何があったのだろう?
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