第5話

リアムには開けられないものはない。


……ドア、彼女の興味が向くもの全て。

もちろん、犯罪行為はしないが……


思い知らされてしまった。


リアムの部屋がある建屋と私の部屋がある建屋はいくつかの建屋が間にある。

私の部屋側の建屋に入るには最低2回パスワード入力が必要で…。

(出るときはいらないとか)


リアムが部屋に入り、ゲームの説明を受け始めたのを確認してアダムスと部屋を出た。2回、普通の電子ロックで開け、3回自分とアダムスで設定したパスワードで自分の部屋まできた。リアムはいず、気配もなかった。


アダムスと部屋に入って数分後、リアムがきた。アダムスが死ぬほど驚いた顔を見せたのは、後にも先にもこのときだけ。それほど以外だったのだろう。


それにたいしてリアムは部屋に入るなりこの言葉を放つ。


「何?あそこ。うちのトイレより狭いんですが。それに窓開けても外は見えないし」


それからは滝のように文句を流し続ける、リアム。最後まで話しだか、苦情だかを分からない内容を全部聞き終わってからアダムスが「2畳ほどの部屋と聞いたのですが」と静かに言ったのがおかしかった。

教えてもいない、私の居場所を突き止めたこと、パスワードを破ったことには一切ふれることはなかった。


「リアム様、同じ部屋がご所望であれば階級をあげて下さい。そうすればそれなりの対応ができます」

あれが精一杯、なのです、すみませんと消えそうな声で返したのが以外だった。


「ひとつ聞いていいですか?」

アダムスが急に真剣な顔つきをされ、私の身は固くなる。

「ノルン、と言う名前はあの女神様ですか?それとも、他の?」

「そう。運命の女神からです。運命の糸を編む女神。神々の黄金時代を終わらせた女神から。あと」少し息をついで。

「言いやすいし、音的に綺麗でしょ」

軽くウインク。


「アダムス、絶対に守ってほしいことが……」と私。

「分かってます。顔も声も絶対に公開しません。貴女に関することは全て非公開とします。あらゆることからお守りすることをわたくし、アダムスは神に誓います。ただし」と言葉を一旦、切る。


「リアム様からは守ることは絶対に不可だと思われます。たとえ、神であっても」


ああ、と私は天井を見てしまう。

リアムはへへへと照れ笑い。


「大丈夫。私は女神様、一筋だからさ。それこそアダムスよりも守るからね!」

エッヘンとそり返るリアム。


「部屋の物は自由にお使い下さい。冷蔵庫の物は適時補給致します。部屋の掃除は申し付けて頂ければいつでも致します」

それと、と考えるアダムス。

「トイレはそちらに。シャワールームはその奥にあります」

では、ごゆっくりとアダムスは帰ってしまった。街の喧騒など全く届かない静かな場所。研究室という言葉がピッタリな建屋の中に不釣り合いな普通の部屋。


中は約4畳半ほど。冷蔵庫、レンジ、トースター。入ってすぐに机、奥にベッド。畳敷きにコタツまで。すぐに1人暮らし出来そうな装備が揃っていた。


「凄いな。私の部屋なんか机だけ」

文句を言いながらリアムは冷蔵庫をあける。珍しい食料がビッシリ揃っていた。


「女神様、ここに引っ越す?」

駅チカで魅力的ではあるが……。


「とりあえず、会社の契約ある間それはなしだな」


そう。会社の契約ではしてはならないとされているアルバイトをすることとなる。

今でも会社の給料では薄給過ぎてアルバイトを掛け持ちしているのだ。バレたら契約を切られることは確実。


リスクは覚悟の上。この先、どうなるかこのときは考えてはいなかった。







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