第8話

「ただいまー」

榛名が帰ってきたのは、夜の10時だった。帰りが遅いのはいつものことだ、朝が遅い分、夜も遅い。別にそれで困りはしないのだけど、今日はトワが寝てしまっている。

「しーっ、ちょっと、話が!」

円佳は口の前に人差し指を立てて、静かに、と示す。

榛名のほうも玄関の見慣れない靴に顔をしかめる。それも、小さいボロボロの靴だ。

「どうしたの?」

部屋に入って、トワの姿を見る。

「だれ」

「拾ってきちゃった」



榛名が夕食を食べている間に、円佳は雨宿りをしていて、母とはぐれたトワに会ったことや、トワが困ってることを話した。

「なるほどねぇ。常識人の円佳が、人の子を拾ってきちゃった、なんて、おかしくなっちゃったかと思ったわ。」

「ね。わたしもビックリしてる。」

トワはきっと疲れているのだろう。2人が話していても起きる気配はない。

「聞くまでもないと思うけど、警察には?」

「連絡してない。しようと思ったんだけど、本人に拒否されちゃって」

「怪しい子じゃないわよね」

「ものを知らない小学生に怪しいも糞もなくない?それに、後からでもいいかなって」

「まあ、一日くらいならいいかもね。明日また話してみよう。」

「うん。」

「...でも、山のほうから来て、お母さんや回りの村人も消えちゃうなんて、まるで...」

「わたしも、ちょっと思った」


まるで...あのときの事件みたいだ。

榛名の飲み込んだ言葉の先は、聞かなくとも円佳には分かった。

榛名が今の道に進むきっかけになった、あの日の出来事。それは、円佳にとっても同じくらい、衝撃的だったからだ。

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