真夏日

第6話

生きなくちゃ。


たった一人の家族、母がいなくなってから二か月ほどたっただろうか。

山道整備の仕事をしながら、家のことをして、必要なものを街まで買いに行って…というのは、無理だった。

二週間足らずで、体調を崩し、働きに行けなくなった。

仕方なく、母が残してくれた貯金を使って生活していたが、それももう底をつきかけている。

また、働きに行こう、と思ったが、山道整備は終わってしまった。

トワは子供ながらにたくましかったが、さすがにここまでくると、為す術も思いつかない。


でも、生きなきゃ。お母さんを探さなくちゃ。


これ以上一人ではどうにもならなさそうだったから、とにかく、人のいるところに行かなくては、と数回だけ、来たことのある街まで行くことにした。

トワの住んでいた村の周囲は、なぜかトワが体調を崩して引きこもっている間に、引っ越したり、いなくなったりしていたからだ。

いつも母がしてくれていたように、首元をスカーフで覆う。真夏の太陽の下では少し暑かったが、こうした方が、お母さんの気配を感じることができる。大丈夫。街にいるのは、私と同じ、言葉の通じる人間よ。ちゃんと話せばわかってくれるし、きっと助けてくれる人もいるわ。


そう自分を奮い立たせて、山を下った。

だが、世界はトワが思っていたより複雑だった。泊る宿を探したが、子供一人では止まれないといわれた。どうしても、というとなにか証明が必要、と突っ返される。仕方なく駅前のベンチで寝ようとすると、紺色の服を着た人に注意され、オヤゴさんは?と聞かれる。宿探しでそのくだりは散々繰り返し、面倒なことを知っていたので、そそくさと退散するしかなかった。

歩いている人に話しを聞こうとしても、大抵無視されるか、コウバンに連れていかれるかだ。

山に帰って、自分で食べ物を採る生活の方が、案外現実的かもしれない。そんなふうに思い始めた。


すこしさびれた街角で水を飲みながら、これからのことをぼんやり考えていると、ぽつぽつと雨が降ってきた。

濡れるのは嫌だな。シャッターの閉じた店の屋根をみつけ、雨宿りをすることにした。おかしいな、ついさっきまでは、いい天気だったのに。そういえば、お母さんがいなくなった日も、こんな感じだった。突然雲があらわれて、ザーッと雨が降ってきた。工事の仕事は打ち切りになって、雨宿りをしていると、遠くで雷鳴が聞こえたんだっけ。


「最近、こういうの多いよね」

思考の海に溺れかけていたところ、不意に声をかけられた。若い女の人だった。

「最近の子は、ジュギョウでやるのかな、イジョウキショウとか」

言葉が、通じるというのは、トワの甘い考えだったのかもしれない。

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