無題(Rainy Day)

@ayumi78

無題(Rainy Day)

降り続く雨は、一向に止む気配がない。

あいつらに殴られ、蹴られ、石を投げられ続けた身体の痛みは、もう感じなくなっている。

多分、どこかの骨が折れているんだろう。咳をすると、口から血が出てくる。

「…あーあ」自分でも呆れるくらい間抜けな声しか出ない。

あいつらは僕が気絶したのを見届けると、「ざまぁみろ!」と吐き捨て、仲間たちと爆笑しながら立ち去った。

「…ただ、グループから抜けたいって言っただけなのにな…」

思えば、中学に入ってからあいつらに目をつけられ、パシリとしてこき使われた。金を持って来いと言われた。万引きの片棒を担がされた。従わないと暴行を受けた。「仲良くしようぜ。仲間じゃん、なあ」の一言が、ずっと僕をがんじがらめにしていた…

リーダー格は親が議員だから、どんなに犯罪すれすれの事をしても、「親父がぜーんぶもみ消してくれるのさ」と自慢していたし、実際そうだった。

中3になったある日、誰もいない教室に呼び出され、「おい、お前も同じ高校行くんだよ。これは命令だ、分かったな」と言われた。

行けるわけない。あいつが行くらしい高校は、かなりお金がかかる私立高校。僕の家の経済状況じゃ無理だ。「ごめん、無理だよ。だって」

と言いかけたところで殴られた。

「口答えすんなよ」と言いながら蹴られた。「返事は?Yesって言うまで殴るからな」とまで言われた。

「…はい、わかりました」

「よーし、それでいいんだよ。ったく、最初からそう言えばいいのにさ」

取り巻き連中と笑いながら教室を後にするあいつを見送ってから、僕も後を追った。

学費免除の資格を取るには学力が足りない。奨学金には親の承諾が必要。どう考えても無理だ。だからグループを抜けたいと言っただけなのに……

「おい、あんた」

声が聞こえた。

「えらいやられ方したもんやな。そろそろ死ぬで」

「誰?」

必死になって瞼を開ける。そこには大鎌を持った人影があった。

「上から見えた。あれは酷いな」

「…上?」

「そ。」

こともなげに、そいつは言う。

「自己紹介するわな。ボクは死神や。あんたみたいな死にかけの魂を救うのが仕事」

嫌だ。まだ死にたくない

「気持ちは分かるけど、身体ボロボロやで。このままやったら多分何日も持たへん」

急に泣きたくなった。やりたい事も出来ずに死んでしまうのか……

「なあ、あんた」

今やりたい事あるって言うたな?

真面目な顔をして、死神が聞く。

「あるよ。」

「何がしたい?」

「あいつらを」

懲らしめたい。

分かった、というと、死神は「救急車が来たで。良かったな」

と言って微笑んだ。


救急車を見送って、ボクは仲間に連絡を取った。

「もしもーし」

「何だよ」

「仕事やで」

相手は本当の意味の「死神」だ。

「ちょっと手伝って欲しいねん」

「あの連中だな、オレも見てた。久しぶりに胸糞が悪くなった」

「せやろ?ボクも手伝うから」

「了解。取り分は?」

「全部そっちでいいよ。なんかボクまで汚れそうやし」

「分かった。最近仕事が無くて困ってたんだよ。って、汚れるってどういう意味だ?」

やば。あいつを怒らせたら手に負えない。ごめんって、と言うと、相手が苦笑いしたのが分かった。

「まあ、いいさ。暴れてくるわ」

口笛を吹きながら「死神」が向かう先には、上機嫌に笑いながら歩く10人位の人間がいた。



翌日、中学生10人が不審な死をとげた、と、ニュースで報じられた。テレビも新聞も、その事でもちきりだ。

その頃僕は病院で、

「やっぱりダメみたいだ」

と、自分の身体を見下ろしながら呟いていた。

「諦めついたか?」

死神が隣で囁く。

「うん」

「行こか」

死神が鎌を振るまでもなく、僕は自らその手に持っている籠に入った。

さよなら、みんな、ありがとう、と言いながら。

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