第3話


 ようやく訪れた昼休み、ちゃんと起きていたせいか、今日は妙にお腹が空いた。

 いつも大して食べないのでお弁当は持ってきていない。購買で菓子パンを一つとパックの牛乳を買って済ましているのだが、今日は……、なんだか無性に、お腹いっぱい食べたい気がする。

 お腹が減る、というのは当たり前なのだが、こんなにも食欲があるのはずいぶん久しぶりだった。

 教室から購買までの道をのろのろ歩く。のろのろ歩いている間に、購買には人だかりができていた。いつもなら気にならないのに、今日はとてもじれったい。人の群れが、とても、とても、腹立たしい。

 ようやく自分の番が来て、残っているパンを眺める。人気のあるパンはもうあまり残っていなかった。それなりに量が用意されているハムカツパンはまだ残っていたので、とりあえずそれと、あとは菓子パンをいっぱい。合計六つのパンを抱えてお金を払った。

 なんだか勢いでこんなに買ってしまったが、これだけ買っても今の空腹に足りると思えなかった。

 自販機で牛乳を買って、教室に戻る。既に机を合わせて可愛らしい弁当を広げているグループ、馬鹿っぽい男子グループ、少人数のグループがちらほら、様々に昼休みを満喫している。一人で食べているものも何人かいるが、まぁあれはあれで気楽でいいのだろう。私も、だいたいは一人だ。

 自分の机に戻るなり、パンの袋を開ける。

 まずはハムカツパンから、貪るように食べる。なにか物足りない気がしたが、とにかく何かをお腹に収めたかった。次に菓子パン類を食べるが、これは全く満足できなかった。というか、何か食べ物ではない何かを口に入れているような気がした。

 パンを食べ終わって気づく。周りが何かおかしな物を見るような視線を送っていた。そして、私が周りを見渡していると、その視線は急に明後日に向いた。なにか、見てはいけないものを見てしまったように。いまさら気にもしないが、そんなにおかしかっただろうかと思った。

 隣の席の神楽は、今は席を外している。昼休みになるといつもどこかに行く彼なら、今の私を評してくれるのだろうが、今日もいつも通りここには居ない。朝のように、私のことを見ていてくれたなら……、などと思う自分に気づいて少し赤面した。

 最後に、牛乳パックにストローをさして飲み始める。

 美味しい。

 とてもとても、美味しかった。牛乳ってこんなに美味しかったのだろうか。夢中になって飲み干した。

 そして、物足りないということに気付いた。

 また、買ってこなくては。教室を出て、自販機に向かった。

 フラフラと歩く私の姿を、クラスメイトは気味悪そうに見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る