歪だけれどもとても幸せ

哘 未依/夜桜 和奏

歪な関係





「那由なんて、いなければよかったのよ! 那由なんて死んじゃえばいいのよ! 私なんかに構わないでよ! 」


  親友の莉夏の口から発された言葉で、私の頭がきゅっと締め付けられる感覚に襲われた。この思いは伝えてはいけない。何度も、何度もそう思っていた。いつもいつもそうしようとしていた。

  しかし私がどんなに溢れ出る思いをとどめようとしても、私の口からは意志を無視し、言葉が流れるように溢れ出てくる。

 

「そんなことを言う莉夏のことが大っ嫌い! いつもいつもそればっかり、私なんかって………」

 

  私の言葉を聞く莉夏の顔が次第に青くなり、そして赤くなっていくように感じた。

  意図しない行動には時間がゆっくり感じられる。それを私は実感することとなった。

 

  私が言葉を区切った瞬間のこと。莉夏の右腕が上がり、私の頬を目がけて迫ってくる。ゆっくりと、そして着実に。

 私は時が止められたかのように、その場から一歩も動くことは出来なかった。


 そして次の瞬間、私の頬に激しい衝撃と痛みが襲う。恐らく私の頬には真っ赤な手形がくっきりと残っているだろう。それくらいの衝撃と痛みだった。

  衝撃と痛みと悲しみが入り交じり、私の感情は崩壊した。もう泣いてるのかも、怒っているのかも分からない。頭がぼんやりする。動悸を感じ、過呼吸になる。

 だめっ、だめっ、ダメ、ダメ、と本能的に自分の行動を制限しようと身体中に不具合が生じているのだろう。

 そんなことは分かっている。けれども、もう止めることはできない。私は見たいのだ。彼女が、莉夏が、傷ついた姿を……。

 強制的に自分を納得させる言葉。これは莉夏も望んでいること。きっとそうに違いない、莉夏の怒りと恐怖と喜びに満ちたその顔。愛おしい私の彼女。

 

 ごめんね。そして大好き!

 

 次の瞬間、私の意識が途切れた。


  再び私に意識が戻ってきたときには、目の前に、傷だらけの莉夏が倒れていた。私は理解した。意識のない自分が何をしてしまったのかを。


「莉夏、りかぁ。ごめんね、ねぇ、ごめんねっ」


  私の既にぐしゃぐしゃになっている顔を再び涙が濡らしていく。 いつもいつも同じ。彼女が望み私が応える。

 ぴちょっと一粒の涙の雫が莉夏の頬を叩いた。

 どれ程の時間が経っただろうか。目を開かなかった莉夏がぅうっと声を上げた。


「莉夏、りか?」


 私は必死に莉夏の肩を揺すった。 しばらくすると、薄っすらと莉夏が目を開けた。そして痛みに顔をしかめながらも腫れた口から言葉を絞り出すかのように話し始めた。


「那由、いつもごめんね 。私のわがままに付き合ってくれて…………。私、本当に那由のことが大好き……だよ」


  痛みに顔をしかめながらも莉夏ははにかむ。

 私も、言葉をゆっくりと紡ぐ。


「私もだよ。莉夏、大好き! 」


 私の言葉を聞いた莉夏の表情はこれ以上ないってくらい晴れやかで、幸せそうだった。


 私は一生離れることは出来ないなぁと、高鳴った心臓を隠しながら莉夏の傷の手当てを始めた。







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