第21話「ワールズオブザーバー〜配信者、ゲーム世界の英雄となる〜」

 「いえーへーーい?! みんな今日も自宅で自粛してるーぅーぅー!?!?」

 わっしは配信者っし! 今日も”湊湖うるう”になってフリーゲーム荒らしをするっし!

 「今日はフリゲー界のドラゴンチェスト! バイタルフレーバーを初見クリアしたいと思いますーうーぅーぅぅー!!!」

 ドラゴンチェストといえば有名なモンスターが一杯出てくる竜の大胸筋を鍛えマッスルする育成系RPGの王道なのですけどそこらへんしってるし? 知ってるなら話ははやいけど要するに育成系RPGの系譜を地で行くのがこのフリゲーバイタルフレーバーってことっし!

 「まあ大体育成ゲーの特徴としてはプレイヤーのマッスルと呼応して連続コンボが決まっていくので筋トレが一年で出来る制限がある分! プレイヤーがマッチョになってる頃には! クリアせずに終わるというね! それがドラゴンチェストの毎回の定番で大体の人は鍛えあがった肉体を前にクリアなんて忘れちゃうから、ゲームとしては本末転倒! ドラゴンチェスト開発者からすれば泣けてくるし! 毎回伴って販売してるプロテインのほうが売り上げがあるっていうからこの手のゲームは本当にあれだよねー! というかプロテイン会社との連携なしにフリゲー作っちゃうとか今時のゲーム事情からすると暴挙なわけです! というわけで今回のチートアイテムが! これ!」

 全身ハイパーアシストハーネス!

 「はい、知ってる人は知ってますよねー! わっしもよくしってるっし! 工事現場の人から外科医さん他にはありとあらゆる作業に今や着ることが義務付けられてるマッスルサポートスーツ! 腕立てが一回も出来ない人でも一日中腕立て伏せすることが出来て筋肉痛にならないという噂の神アシスト性能を誇る最強のウェアラブルマシンだよ!」

 はい! フリゲーそっちのけで商品の宣伝をする―! これこそが今時の配信者スタイルだ! やっぱり商品込みでフリゲーを遊んでもらわないとフリゲーってタダだから儲けに直結しないのよねって前から思ってたっし!

 「じゃあバイタルフレーバーはじめちゃうよ! レッツ起動戦士!」


 その瞬間、わっしの頭脳とアシストハーネス、そして情報端末の中で緩やかに起動するバイタルフレーバーが共鳴した!


「え? 目の前にマッチョドラゴンがいるんですけど!?」


 気づいた時にはわっしは! ゲームの世界に!?


「はっはっはっは! 勇者ウルウよ! わが大胸筋の前にひれ伏すがいい!」

「あ、はい腕立て伏せ勝負っすね、簡単でっしー」

 驚異的な速度で顎を地面につけてゴリゴリマッチョでただ図体だけはデカい筋肉ドラゴンが顔を真っ赤にレッドドラゴンなのをしり目に頭の上のカウンターは千回に到達して余裕で勝利―! あ、まだマッチョドラゴン七十回しかやってない! おハーブが生えますわー!

「ば、ばかな!? 大胸筋と言えばドラゴンというのはこの世界での常識であるはず!?」「そんな筋肉じゃ今時の勇者には勝てないっしー、時代はマッスルよりマッシブ! 見せ筋よりも即戦力っしー!」

「く、く、クソ―! お前らごとき脆弱なる人間に魔王様が敗れると思うなよ!? はっば!? この500kgの重量揚げ用のバーベルは!? し、しんじゃうーぐあー!!!」

 この威圧感、重量感! さては!?

「現れたな筋肉魔王!」

「フッハッハッハ! 驚いたか勇者ウルウ! マッスルドラゴンなど見せ筋よ!」

「お前が真の筋肉だというのかっしー!?」

「その通りだ! さあ、このバーベルの塔を登って来れるかな!? 日が昇る前に我が前に来れなければ、全ての人類がバーベルの重みに耐えきれずに圧死ーしてしまうぞー!」

「そんな暴挙は許さない!」

 この湊湖うるう! だてに配信者はやってない! いつだって逆境を登ってきた! そう! この明らかにオーバーハングなボルタリング壁面だって!

「アシストハーネスなら!」 やれる! 登り切れる!

「ば、バカな!? アシストハーネスのバネを利用してさらにその上に落下予防の安全ロープまで付属するというアシストスーツの進化を発揮しながら登りきるその姿はまさにスポーツ界の広告塔! これが次世代のアスレチックだというのか!?」

「そのまさかっしー! 筋肉を鍛える時代はもう遅い! これからの筋肉は外付けのアシストハーネスが全部やってくれるっしー!」

「や、やめれろ! その鋼鉄製の重さがだんだん上がっていく昇降式の扉を開いて我が前に来るな! そんなペースで百もの扉を越えて! 千回目のストーリーを階段を三段跳びで駆け上がるな! 螺旋階段でやっていいっスピードを越えてくるな!? そこから梯子を高速で登り我が目の前に立つのは明らかに筋肉無視してスイッチ叩いた歴代記録を五時間短縮した新記録だと!?」

 「さあ筋肉魔王! 最後の勝負っしー!!!」

 「ういおおおおおお!!! 世界中の筋肉よ! 我が覇道に力を!」

 「まけないっしー!!!!」

 筋肉魔王が勝つか!? アシストハーネス湊湖ウルウが勝つか!? 綱引きが始まった! がっ!?

 「な、なんだとおおおおおお!? そんな訳の分からない姿勢でつなが引けるのおおおおおお?!?!?!?!?!?!?!」

 「アシストハーネスを支えにしたなら! 人類はどこまでも筋肉の呪縛から自由になれるっしー!!!! うしゃああああああああああああああ!!!」


 渾身の力を込めて惹かれた綱に筋肉魔王は宇宙の彼方へ放逐され!

 バイタルフレーバーの世界は! 完全に! 救われたのだ!


「ウィナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「万歳! 勇者湊湖うるう!! 今日僕たちは筋トレの呪縛から解放された!

 ありがとう湊湖うるううううううううううううううううううううううう!!!」


 世界に響きわたる歓喜の嵐が、すべての人々を包み込んでいく!

新世紀の幕開けにたつ人類は!

「フルアーマーアシストハーネスーツ!」

 さあ装着して出かけよう! 僕らの安全保障は更新されたのだあああああああ!!!!


「やったあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


END

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