第17話「千里の童貞道も一歩から」

「はあはあはあ、これでやっと一万歩か一体あと何歩、歩いたら?」

大人気ソシャゲ”童貞ウォークでGO!”が世を席巻してからかれこれ五時間を経過した、俺はスマホを胸ポケットに入れて歩きだしてからたったの一万歩しか動けてない、それも仕方ない、だってド田舎で下手したら県外でしかも山道だから都会の一歩とは重みが違うんだ。


「思えば都会に出なくて正解だった、もし俺が都会の流行に流されて童貞卒業していたら、この童貞ウォークでGO!で遊ぶことも無かったんだからな」


 思えば童貞であるだけで職に就けないという童貞面接が基本のこの日本社会において、童貞は田舎でコルホーズという言葉が容易に使われ一生独身で田舎で土いじりしていろとか土方をやれだとかひどい言われようだった、だがそれも仕方ないことだ。


「都会が女を食っちまうんだからな、はあはあ、俺は都会に呑まれないぞ!」


 すでに都会と呼ばれる魔境は拡大を続けていた、本来なら裾野が広がって田舎に恩恵が及ぶはずの所を縦に縦に高い高いハイパービルディングが立って、ありとあらゆる人間を拘束し一部の金持ちだけが脱法で儲かる最悪な社会システム、まさにバベルの塔が都会のあちこちに出来上がってる具合だ。


「至る所にリニアモーターカーからライトトレーサー電気飛行車のハイウェイをかけやがって! 都会はそうやっておれを一層みじめにするんだ!」


 だが、それも今日限りだ、一歩歩けば一円儲かるマイレージシステムが導入されたこの童貞ウォークでGO! なら俺は一日に六万歩を歩いて余裕で日当六万円の高給取りだ! しかもド田舎でそれを実現する! 俺は俺は!


「絶対に負けない! 諦めない! 一億歩を踏破して! 田舎にでっかい農場を作って! 俺は! そうだ! 俺の一歩が俺の土地なんだ!」


 おい! お前! という声が聞こえるが知った事か!


「俺は負けないめげない! 34歳の夏だけど! 俺は絶対にあきらめない!」


 危ないぞ! ここはガーファン幹部の私有地で人間狩りが行われてるんだ! という声が聞こえてるけどおれの知った事じゃない! 都会の人間が勝手に私有地にして私道を敷いてるだけだ! 何が自然公園の保護の為だ!? 一方的に田舎の土地を占有して独占して! いつかじいちゃんの土地を買い戻すんだ! 絶対に負けない! 天然自然公園だの! ニホンオオカミの再生計画だの! 知った事じゃない! ここはもともと俺の土地だ! 俺の! 俺たちの! 俺たちの土地だったんだ!


「あっ」


一発の銃弾が心臓を貫いた。

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