幕間 革命
車から見える夕焼けはかつての世界では見れぬほどに澄んだ茜色をしていた。
「埋葬屋、君達も動き出したか。沈黙も飽きた頃だと思っていたよ。しかし、こちらも今回は優秀な犬を雇わせて貰った。追い詰められているのは自分達だと言うことにいつ気づくだろうか」
ペトゥロは本部からの帰りの車の中で独り言を呟く。
車内で聞いているのは執事であるダルタニャンただ一人。
彼はペトゥロが唯一この世界で信頼出来る人物である。
ペトゥロの言葉に対してダルタニャンは彼を揶揄う様に口を開いた。
「随分、楽しそうですな。その様なお顔をするのは二十年ぶりかと」
「ああ、たしかにそうだな。正直、三十年前のあの頃の気持ちが蘇って来るかの様に感じるほどワクワクしている。ダルタニャン、君には本当に苦労をかけたね。「審判」で人類を救う結果、全てを失った私の支えになってくれたのは君だけだったよ。統合政府設立までも多くモノを失い、私と時間を共にした者はもう君と後一人しか残っていない。そして先ほどその彼とも袂を分かった。ようやく世界を戻す時が来たのだ。世界のあらゆる病、争いの根絶、私達はそれを願った。それ故に、罪を背負いそして、罰を受けた。しかし、人類の種としての未来、それを思えばたやすいことだったのだ。そして、ようやくその罰から私達は解放される。人間をあるべき姿に戻し、それを私が彼らを導く。もう二度と文明の灯火を絶やす事は無く、滅びの可不可を問われる事はなくなるのだ」
ペトゥロは嬉しそうに言うとダルタニャンは短く答える。
「私達の命が尽きる前に全てを元に戻すことが出来るチャンスが回って来ることは何よりです」
そう言うとそれ以上、声を発しようとしなかった。
ペトゥロはダルタニャンの背中は年老いてか今まで以上に小さく見えた。しかし彼もまた、それ以上何かを語ろうとせず、彼なら言葉ではなくても感じ取ってくれると言う信頼があったからである。
ダルタニャンは三十年前のあの日からいや、それより以前からペトゥロと共にいた。あの惨劇たる光景それを目にしてもペトゥロは折れず、彼を理解する者は少しずつ消えていき、孤独を味わい続けて尚、彼は進むのを諦めなかった。
そして、そんなペトゥロを見続けたからこそダルタニャンは彼に寄り添い続けようと誓っていた。
これからもそのつもりである。
たとえ、それが三十年前の悲劇を繰り返すことになろうともダルタニャンはペトゥロについて行くことであろう。
そこには十三個の椅子があった。
古びた円卓、古びた椅子。
かつてそこには世界を変えた鍵を持った者が座ったとされている。
しかし、その鍵を持った者は今は二人。
一人は天上を喰らい自らが世界に立とうとする者。
一人は天上を喰らい人を世界に立たせようとする者。
過程は同じだが目的は違う。
それ故に彼らはこれから袂を分かつ。
誰も居ないはずの椅子に一人の男が腰掛けた。
身長は180近くある筈だが過去の後悔に対しての錘は彼の背中に重くのしかかりその姿は小さく醜く見える。
いずれも覇気はなく、まるで朽ち果てる直前の大樹のようであった。
ジュダ・ダイナーはかつて「審判」を行った同じ席に座る。
あの日から三十年と言う年月が経ち、時の流れとはなんとも残酷で何故自分があの時、鍵を使ったのかその理由も目的もはっきりと覚えておらず、彼を動かすのは一体何なのかそれは彼すらも忘れ去ってしまっている。
しかし、彼は今宵、その朽ちゆくその身を奮い立たせ、自らが創造した天上を穿つため、かつての友を止めるための一手を打つ。
「さて、諸君。会議を始めようか」
ジュダがそう言う時には既に彼らはそこに座っていた。
もう埋まることは無いさえ思われていたその椅子は八席が埋まっており、彼に賛同する者、彼を見定める者、彼を殺そうとする者、様々な思惑が交錯する中、席に座る者達の目的だけは一致していた。
「神を殺す」
ただ唯一の答えを求めて彼らの革命が始まる。
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