散華のカフカ
燈
一部 支配の天秤
一章 散灰
「ここ多いな、朽人(クチビト)」
そう言うと作業服を着た二人組は人と呼ぶにはあまりにも美しい砂の様なものを袋に詰めていった。
辺りは真っ暗で人はおらず彼らの声が静寂の中に小さく響く。
背丈が似た様な二人だが片方は中年手前の顔付きで顔にはこれまでの苦労が染み付いていおり、もう片方の青年が気怠げに声を上げた。
「はぁ、それにしても本当不憫ですよね。XXXって決まった命なのにそれ以下で死ぬなんてあんまりですよ。しかし、まぁ、ここは確かに朽人が多いですね。いや、多すぎやしませんか?」
暗闇で視界が悪かったものの月明かりが彼らの姿をハッキリと照らしていたが、先程まで目の前にいた男の姿は見当たらず青年の言葉に呼応するものは居なくなっていた。
青年は急に姿を消した男の姿に不安を感じ彼を必死になって探し始める。
「先輩? どこ行ったんですか? 先輩! 冗談はよしてくださいよ!」
しかし、その言葉も、宙を舞いそれもまた闇に消えていった。
すすすっ。
何かを啜る音が聞こえ、青年は音のする方へゆっくりと歩を進める。
「う、嘘だろ。なんなんだよ。先輩、本当に冗談は止しましょうって」
不気味な音がする方へ向かえば向かうほど青年の足は重くなっていく。
そこからは突如甘い薫りがした。
しかし、その不気味な薫りを嗅いだ青年は歩みを余計止めようとしない。男を心配する気持ち、一人になった恐怖、しかし、それ以上に青年の心を燻る薫りへの好奇心が勝ってしまった。
青年は謎の高揚感と恐怖が混ざり合い、自ずと死地へと踏みこんで行き、その場所には一輪の花がぽつりと美しく、禍々しく咲いていた。
「うそだろ、な、なんだ、あ、あれは、一体?」
その一言を最後に青年の意識は途絶えそこに無数に散らばる美しい灰となる。
それを目の前にした生者は深いため息をつき優雅に語る。
「美しき花には命に等しい養分を」
***
喧騒をかき消すようにけたたましいサイレンが響きわたる。今朝、身元不明の男二人が亡くなったと連絡を受け、事件現場を囲っていた野次馬達の真ん中を無理矢理かき分け三人の刑事が中に入っていった。
「またですよ。今月入って何件目ですか?」
東(アズマ) 劃(クワク)はもう何度も見てきた光景にうんざりしておりわざと大きく反応すると、背丈が三人の中で一番大きいためなおさら大袈裟に感じた。
周りは彼の言葉を無視したが彼と同じようにこの光景にはうんざりしており、見慣れた光景、見慣れた灰が目の前に広がっている。
「ああ、もう正直うんざりだ」
五十鈴潤はそう適当に答えると辺りに証拠になるものがないか探し始めた。
今月に統合政府第三首都各区にて人が灰の様なものにされる事件が多発しておりそれに対して統合政府は対策チームを立ち上げ各国から招集した刑事達で事件の早期の解決に乗り出した。
しかし、捜査は難航、ニ週間が過ぎて起きた事件は4件、被害者は確認出来た数で四十人。手掛かりという手掛かりは一つも見つからずそこには灰だけが現場に残っていた。それに連なり対策チームは自然とその士気が下がり今に至る。
そんな中、対策チームで初めて出会った、東 劃、五十鈴潤、青柳優午ら三人は妙に馬が合い捜査を行う時はよく三人で行動していた。
すると先程の劃と潤の言葉に対して優午は一喝を入れる。
「劃、潤そんなことはわかってる。だがな、こうして見てみないとわかんないものがあるだろう。少しでも事件解決の手がかりを見つけようと努力しよう」
優午は黙々と辺りを探したが、彼らの努力はすぐに水の泡になる。
辺りには灰がそこら中に散漫しており、誰が誰の灰かは分からずそこには死が蔓延していた。小一時間ほど辺りを探るも三人の心意気も虚しくまた今回も手掛かりという手掛かりは見つからず、三人のやる気も下がっていくばかりであった。
とりあえず、その場に残る灰が誰のものであるかを確かめるために研究所に物証を送ろうと、三人は灰を袋に詰め始めた。すると、その現場に鼻腔にねっとりと絡みつく甘い薫りが漂った。
最初にその匂いに気付いた優午はその匂いのする方向へ勝手に身体が動いた。
(なんの香りだ?これ)
そう考えた優午は一人甘い香りがする方へ足を運び、それを見た二人も優午の様子がおかしいことに気付き後を追いはじめた。近づけば近くほど甘い香りは強くなり彼らの警戒心も強まっていく。しかし、その心を一瞬にして打ち消すような光景を目にすることになる。
灰の上に美しくも禍々しい一輪の黒い花がぽつりと咲いていた。誰も声が上げられない中、劃が彼らの沈黙を裂いた。
「何ですか?これ。灰の上に花が咲くなんて聞いたことありませんよ」
生と死が共に現れている歪な光景に目を奪われ何もせずに佇んでいた二人を現実に戻す。
なんとか持ち堪えた三人はこの禍々しい光景を証拠として残そうと写真を撮っていると、彼らの後ろに何かが立っていた。
彼らは後ろに何かが居るのを察し後ろを向こうとして瞬間
「触るな、これはあんた達には毒だ」彼らの後ろに立った何かがしゃべったことでさらに体が動かせなくなった。
しかし、それでもなんとか後ろの何かから情報を聞こうと優午が声を上げた。
「あんたは一体何者だ?」
精一杯出した声の中にはこの状況に対する苛立ちそして何より理解不能なものに対しての恐怖が含まれていた。
「埋葬屋」
それを聞いた何かは呆れることもなくまた面白がることもなく淡々と答えるも潤は訳が分からない事ばかりが起きておりそれに対する怒りを含め口を開いた。
「埋葬屋?なんなんだそれ。」
「あんた達にそれを答える義務はない。だが、この花はもらっていく。一応言っとくがこれはあんた達の為だ。最後までその短い人生を謳歌したいならこの件から手を引け。それと、あんた達のお偉いさんにもこの事を伝えときな」
埋葬屋と名乗った何かは先程と変わらず淡々と答え黒い花とともに一瞬で姿を消し、そこには先刻まで彼らが見ていた黒い花も美しく散っていた灰も埋葬屋と名乗るなにものかも全て嘘だったかのように時間ばかりが過ぎていた。
「ペトゥロ様、対策チームから申し上げたいことがあるそうです。いかが致しますか?」
統合政府第一首都にて蒼天に高く聳え立ち神と人を繋ぐ建造物が一つ「スーテラ」そこの礼拝堂である一室にて統合政府秘書リャン ソフィアは統合政府総統ペトゥロ・アポカリプスに進言した。
「天啓が済んだらそちらに向かうと伝えてくれたまえ」
ペトゥロはそれに対しソフィアに丁寧に答える。
厳格な顔つきで総統と言う地位でありながら誰にでも物腰低く接するため政府の役人のみならず多くの人々に好感を持たれていおり、ソフィアもまた彼のことを慕っていた。
「かしこまりました。すぐにお伝えしておきます」
そう答えるとすぐさま総統から受けた伝言を伝えるため、また、この後に神々からの天啓があることを察しその場を去ると一人になった礼拝堂にてペトゥロは大きくで声を放つ。
「親愛なる神々よ。今年は審判の日から三十年また、統合政府設立二十年と言う記念すべき日でございます。我々はこれからも健やかに自らの生を全うして参ります。それ故に今年もまた我々に天啓をお示し下さい」
ペトゥロの言葉に呼応する様に礼拝堂に光が差し中性的な顔立ちで白いローブに身を包んだ男が現れた。
「天啓である。天啓である。終末のラッパが鳴る前兆来る。
注意せよ、こころせよ、このラッパ吹かれれば汝らその身に健やかに死することなかれ。再び、その身病に伏し、平和は消えん」
そう言うと男はペトゥロの目の前から一瞬で姿を消した。
礼拝堂に一人残されたペトゥロは誰も聞いていないが誰かに自分の行いを肯定してもらうかのように高らかに語り始める。
「終末のラッパか……大体目星はついているが、奴らめ、物事には手順があることを知らずに随分好き勝手に掻き乱してくれる。まぁ、いい、ラッパの完成はそれ程遠くはない。そして、その担い手は私の役目だ。奴らにその役目を渡すつもりなど毛頭ない。人類の『再誕』それこそが私の役目なのだ。かつて、人は未曾有の危機に瀕した時でさえ争い続け、人が人として一つになれる最後の機会すら我らはその手で投げ捨てた。自らの利益、地位、欲望をそれら全てを優先させた結果、人は自ら滅びを選んだのだ。人が人として生き、慈しみ愛し合う時代はとうの昔に消えていた。だからこその『審判』であったのだ。かつて人類の三割が病に伏し死に追いやった大災害(インフェクションテンペスタ)、その悲劇の浄化の為に行った『審判』。二つの悲劇により人口の六割が消え去った。しかし、彼らの犠牲は決して無駄にはさせない。私は『人類の再誕』を必ずや成し遂げる必要がある。そして、機は熟した。いや、樹は熟したということの方が正しいのかもしれん。まずはそのためにも来る日に四騎士を顕現させ世界をあるべき姿に戻す。必ず、必ずだ」
彼は囚われた決意を胸に礼拝堂から姿を消す。
***
対策チーム本部に劃、潤、優午は戻ってそうそう、今日あった出来事を本部長に伝えると、本部長は早急に上に伝えると言いすぐにどこかへ出かけてしまい、本部に取り残された三人は今日あった出来事が忘れられず現場について一旦整理することにした。
今まで調べても調べても出てくるのは灰ばかり、死が常に横に立ち自分達を包み込んで離さなかったが今日のこれをきっかけに何かこの状況が変わるのではないかと期待していた。
しかしそれ以上に、これ以上踏み込んではいけない、踏み込めば自分達がどうなるかという考えがよぎり三人の間で沈黙が続く。
誰も喋らず、その沈黙に耐えきれなくなった劃が口を開いた。
「今日あったことって本当に現実なんですかね。ありえますか?花が咲いてたんですよ。灰の上に、しかも黒くて気味の悪い。どう考えても咲くはずないじゃないですか。それに加えて、埋葬屋って何なんですか。何であの黒い花を持ってっちゃってんですか。あれって自分達の仕事じゃないんですか?」
「たしかに、言いたいことはわかる。だが、俺達が発見したこれは大きな成果のはずだ。明日には本部長から連絡があるはずだからそれを待とう」
落ち着きのない劃の言葉に対して優午は宥める。
「まぁ、劃の気持ちも分かりますよ。正直、あんな気味の悪いもの二度と見たく無い。幸い、証拠のための写真は撮ってあるからそれを含めて、現状を整理しましょう。」
彼はそう言うと資料を取り出して、ホワイトボードは貼り付けた。
「今日起きた現場はここ。そして、今回の事件で五件目。状況は全て同じで灰の身元確認は現在数名が不明。そして、今回、黒い花と埋葬屋ってのが追加ですね。ただ、並べてみても訳がわからない。ひとまず、灰の身元が誰なのかを探しましょうか?」
潤の言葉に賛同し三人は身元不明の灰の正体を追うことにすると劃が何かに気づいた様に口を開いた。
「灰の身元を探るんなら研究所行かなきゃダメじゃないですか?あそこ、急な訪問嫌がるから、それだと早くても明日になっちゃいません?」
「それはこれを使う」
潤は鞄の中から一冊の大きな本を取り出す。
外見は普通の本であるが中は機械仕掛けで所々生物じみており形容し難い気味の悪いものであった。本を開くと空中に電子文字が現れた。
「潤なんだそれ?気持ち悪いぞ」
劃は見たこともないものへの嫌悪感を露わにし感想を述べる。
「うるさい、劃。これはネクロノミコンって言う電子検索機だ。これ使ってるやつなんてそうそういないけど「深淵を覗け」ってキャッチコピーに引かれてな。めちゃくちゃ高かったけど買っちまった」
潤はネクロノミコンに手を添えると操作を始め、準備が済むと潤は二人に声をかける。
「誰から探しますか?灰のサンプルは先週のやつのもありますし」
「とりあえず、今日の灰にしよう」
優午がそう答えると潤はすぐさまネクロノミコンを操作を始めるとネクロノミコンの生物じみていたパーツが触手のようなものになり頁をめくり、一枚また一枚と丁寧にめくっていく。
劃は優午がそれに対して驚きもしないを見て驚いた。
「優午さんはこいつのこと知ってたんですか?」
「まぁ、名前程度はな。実物は初めて見たよ」
優午が答え終わったタイミングで、検索が終わったのか触手が頁をめくるのをやめ、電子文字が現れる。
「Blocked by government authority.」
「なんて書いてんだ、これ?」
劃はそう聞くと潤は呆れて答えた。
「劃、英語は義務教育で習ったろう」
「あー、英語ねー。昔の共通語だっけ?統合政府が生まれる前の言葉なんて俺たちにとっちゃ無縁に近いだろ」
潤はさらに呆れていたが再び話を続けた。
「それでも中学の時に、というか一ヶ月前に習っただろ。まぁ、いい。とりあえず、検索の結果は不明。でも、ここの政府により情報の開示がブロックされているってのが気になりますね。一応、本部の特殊ブラウザで繋げてるんで研究所とも同等の検索が可能なはずなのに何故か閲覧が不可能になってます。政府が情報を許可してないってことはこの灰ってもしかしたら政府関係者なのかもしれないですね。でも、政府関係者は自分たちオーディナルIIIには姿を見せないはずなのに、こんなところで灰になっているのはおかしい気がするな」
潤は結果に対しての不満と意見を言うと何かに気付いたのか自分の近くにあったコンピューターをいじり始め、そして、再びネクロノミコンに手を置くと口を開く。
「今までの灰のサンプルを全部探してみましょう。ネクロノミコンでの検索と普通のコンピューターとの検索では少し違うようです。普通のパソコンの方での灰のサンプルを見ててください」
近くのコンピューターで灰を読み込むと「There is no data」と現れた。
「ネクロノミコンは本部のブラウザでも違う結果が出てきます。本部のコンピューターはデータ自体が無いと出てるのにネクロノミコンは政府がブロックしていると出てる。今考えてみると灰の身元確認って全て研究所に任せっぱなしで自分達で探したことってなかったですよね。今からこれまでに起きた事件の灰のサンプル全員分を探しませんか?」
潤はそう言うと二人に同意を求めた。
「たしかにそうだな。本部は政府の管轄、そして、研究所も同じ管轄のはずなのに情報の共有を一方的に求められている。いい機会だ。共有されていない情報をこっちから探してやろう」
それに同意した優午は劃を連れて灰のサンプルを集めに部屋から出ようとした瞬間、目の前に本部長が立っていた。
「総統様がおこしだ。君達の話が聞きたいそうだ」
明日、あると踏んでいた本部長からの連絡が唐突に行われ理解が出来ず三人は戸惑った。
何より、統合政府総統が本部に来ている。
オーディナルⅠであり、自分達に姿を現すことなど何があってもないはずで、名前ばかりを耳にタコが出来るほど聞いた統合政府総統ペトゥロ・アポカリプスが自分達を訪ねに来た。
本来なら栄誉的出来事であったが三人は政府関係者に疑いをかけていたのがバレたのかと思い束の間の沈黙が続いた。
しかし、またしてもその沈黙を劃が破った。
「総統様には今すぐにお会いしなければならないのでしょうか?」
何故そのセリフが出てきたのか劃自身も驚いていたが、それによりなんとかニ人は持ち直し、続けて優午も声を上げた。
「彼が失礼なことを言ってしまい申し訳ございません。総統様自らお越しになっているのであればすぐ参ります」
本部長は少し訝しんだがすぐに切り替え三人を総統がいる部屋へ誘った。
客間の真ん中には大きな机とそして両脇にソファが置いあり、右の方にペトゥロは座っていた。存在感に三人は足がすくんだ。
しかし、ペトゥロはゆっくりと喋り始めた。
「あまり、気張らなくていいぞ。話があって来たのは私の方だ。オーディナルIIIの前に立つのは久々でね。私の方が緊張していたのに君達も緊張していたら話が進まない」
威圧感は無くむしろ、不気味な程に安心する様な声であり、本部長は三人を手前に呼ぶ。
「早くそのソファに座りたまえ。総統様を待たせるな」
三人は言われるがままにソファに座ると再び本部長は「君達は質問に答えるだけで良い。それ以外で言葉を発するなわかったか」と釘を刺し、その場から去っていった。
本部長が出て行った瞬間、客間に居たペトゥロが口を開く。
「彼にも悪気は無いんだ。本来ならもう少し手順を踏んで君達と会わなければならないのだが今回は急用でね。私も忙しい身でほんの少し空いた時間に君たちの話を聞いてしまいたくてね。まぁ、与太話はここまでにしておいて本題に入ろう。君達は灰の上に黒い花が咲いていたのを見たと言っていたらしいがそれは本当かい?」
すぐさま優午はそれについて喋り始めた。
「はい、灰の上に黒々とした花が咲いておりそれを回収しようとしたところ埋葬屋を名乗る何者かにそれを奪いとられ逃げられてしまいました」
そう答えるとペトゥロは一瞬眉を寄せたがすぐさま表情を先程と同じくして話を続ける。
「そうか、黒い花は回収されてしまったか」
「花がそんなに重要な物なんですか?」
潤はその言葉が気になり問いかけてしまうと本部長に余計な事は口にするなと言われていたが潤の知的好奇心が言いつけを破り、超えてしまった。
ペトゥロは少し驚いていたが間を空けると再びゆっくりと口を開く。
「そうだな、君達には話しておくべきだ。まず、今回の事件の首謀者は分かっている。そして、」
「一体誰なんですか?!」
潤はカッとなり思った事をそのまま口に出しペトゥロの言葉を遮ってしまう。
今まで事件の証拠が少なく犯人像すら掴めていなかった人物がこうも簡単に判明してしまい今までの努力、時間が無駄になった様に感じ怒りが滲んでいた。
しかし、ペトゥロはそれを咎める事はなく、その動じない様は人なのか疑いがかかるほどに淡々と話を続けた。
「君達には申し訳ない事をしたと思う。しかし、許してくれないか。今回の事件の犯人はオーディナルⅡの人間だ。オーディナルⅡからその様な人間を出してしまったことに対して私は大きな危機感を抱いている。しかし、これを機にオーディナルⅢの地位を促進させる事が出来るのではないかと考えている。このオーディナルシステムはその階級ごとの地位と尊厳、そしてその階級が持つ自由を守るために作ったものであるのだがその結果、Ⅱ、Ⅰの人間達は自分達の地位を使い多くの事件を隠蔽してきた。私の力だけではどうしようも出来ない所まで来てしまったのだ。それ故に今回の事件を君達に解決してもらいたい。幸い、事件をⅠ、Ⅱの人間達はあまり重く捉えていない。そこで君たちがオーディナルⅡの人間を逮捕することによって彼らに今回の事件で自分達もこの様な事を起こせば捕まると言うことを警告したい。効き目は薄いかもしれない。しかし、今回を契機に私は君たちに情報を積極的に回す事が出来る様になる筈だ。今回の事件の犯人についての資料も君達に配る。どうか、この老いぼれの願いを聞いてはくれないか?」
そう言うとペトゥロは深々頭を下げる。
「ペトゥロ様、お顔をあげて下さい。あなたの気持ちはしっかりと受け取りました。今回の事件、俺たちに任せてください。必ずや、あなたのご期待に添える様に努力します」
劃は彼らには一度も見せたこともない様な丁寧な言葉遣いでペトゥロに対して答え、二人はやや驚いたが彼と同じ事を思っていたため何も言わず彼に賛同した。
「ありがとう。君達の活躍に期待している。データの方はこのUSBに入っている。健闘を祈るよ」
そう言うと三人が自分の力になってくれるということを察しペトゥロは席を立ち客間から颯爽と姿を消す。
どのくらい時間が経ったかは分からない。
時間が経とうと経つまいとその場に残った三人はどっと疲れに襲われていた。しかし、ペトゥロが自分たちを頼りにしてくれた事が彼らの励ましになっていた。
「今からでもこの資料の人物を読み込んでどんな所に居るのかどの様な人間なのかを分析して明日にでも捕まえられる様にしましょう」
潤は先程よりもやる気に満ち溢れていたが、劃はあることに気がついた。
「でも、結局黒い花に関しては何も喋ってくれませんでしたね」
三人はたしかにそうであると顔を揃えてそれについて話そうとするとまたしても本部長が入ってきて、三人は再び驚きで身を震わせた。
「総統様が帰られたのにいつまでここに居るのかね。仕事熱心なのは構わないがそれは自分達の持ち場でしたまえ」
妥当な一言に三人はぐうの音も出ず、彼らもその場を後にする。
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