第8話 日本語文法(8):誰が主役か

 今回から原沢伊都夫氏『日本人のための日本語文法入門』講談社現代新書を参考図書として「日本語文法」の概念と解釈について述べてまいります。

 私が読んで納得した形をアウトプットしますので、気になった方は本新書をご購入くださいませ。税別840円なので、取り組みやすいと思いますよ。



 日本語文では「誰が主役か」で文の構成が変わります。


 たとえば「父が子どもを保育園に預けた。」という文。

 これは「父」を主役にした構文です。

 もし「子ども」を主役にしたら、

 「子どもが父によって保育園に預けられた。」となります。

 また「保育園」を主役にしたら、

 「保育園が父から子どもを預けられた(預かった)。」

 とこのように構文が変化します。





誰が主役か

 状況と出来事はまったく同じなのに、主役を誰にするかで構文が変わります。

 「父」が主役、「子ども」が主役、「保育園」が主役。

 文を書くとき、その文は「誰が主役か」を明確にしましょう。

 それによって構文は異なります。

 上記の例文だと「子どもが父によって保育園に預けられた。」は助詞「に」の重複に見えます。実際には「によって」は助動詞「による」の活用なので別物なのですが、パッと見のわかりにくさはあります。可能なら盛り込む情報を削ったり、別の助詞へ置き換えたりしましょう。

 「子どもが保育園に預けられた。父によって預けられたのだ。」と動詞を畳みかける方法もあります。このパターンだと「子どもが保育園に預けられた。父親によって。」と動詞を使わない構文もあります。

 「子どもが父によって保育園へ預けられた。」と方向を意味する格助詞「へ」に置き換える方法もあります。





能動文と受動文

 「父が子どもを預ける。」は、主役がこちらから働きかける文(能動文)。

 「子どもが父に預けられる。」は主役が他のものから働きかけられた文(受動文)。

 わかりやすくなるかどうかですが、

 「父が子どもを殴る。」は、主役が相手に働きかける文。

 「子どもが父に殴られる。」は主役が他のものから働きかけられた文。

 この場合は「子どもが父から殴られる。」と書いても通じますね。


 「エアコンで部屋が暖まる。」は能動文です。「エアコンで部屋を暖まらせる。」は受動文ですが、他動詞の「エアコンで部屋を暖める。」を用いたほうがわかりやすいですね。





間接受身文

 ただの受動文は「直接受身文」ともいいます。

 しかし、利害関係者を登場させることで、間接的に受動文を作ることもできます。

 「父が子どもを殴る。」が能動文。

 「子どもが父に殴られる。」が受動文(直接受身文)

 そして利害関係者を加えると、

 「母は父に子どもを殴られる。」

 「母が父に子どもを殴られる。」でもかまいません。

 これが「間接受身文」です。

 利害関係者が加わることで「母は子どもを殴られる」という構文が成立します。

 殴ったのは「父」で、殴られたのはあくまでも「子ども」ですが、文の主役は「母」になっています。

 「雨が降る。」は「(彼は)雨に降られる。」という形で自動詞でも間接受身文にすることができます。

 自然相手の場合、直接受身文より間接受身文のほうが適切です。

 「洪水が車を流す。」は「洪水に車が流される」より「洪水に車を流される。」のほうが自然です。

 また自動詞の受動文は間接受身文のほうが適切です。

 「雨が降る。」は「雨が降られる。」より「雨に降られる。」ほうが自然ですよね。





使役文

 同じような構文ですが、ちょっと形が異なるのが「使役文」です。

 「母が父に子どもを保育園へ(に)預けさせた。」この「させた」は使役を表します。つまり母が父に「やらせる」わけですね。

 ただ、これが上記の能動文、直接受身文と異なるのは、間接受身文同様に他の登場人物が出てくる点です。

 「母が」の母がそれにあたります。

 構文をよく見ると、格助詞「に」がふたつ出ていることがわかります。実例では格助詞「へ」に変えていますが、あまりスマートではありません。

 つまり一文の情報量が多すぎるのです。

 情報量を減らすなら「母が父に頼んで、子どもを保育園に預けさせた。」とするとよいですね。

 なんでもかんでもひとつの述語にすべての文節を格関係でくっつけてしまうと、かえってわかりづらくなるのです。

 ここでは「頼んで、」を入れることで、格関係を整理しています。「父に」は「頼んで、」に係り受けし、「保育園に」は「預けさせた。」に係り受けします。

 (1)「母が」(2)「父に頼んで、」(3)「子どもを保育園に預けさせた。」と(1)が主役で(2)と(3)にくっつく要素となります。


 使役文には上記した「強制」のほかに「容認」で使うことがあります。

 「先生が生徒に好きなことをやらせる。」は「やる」の使役形「やらせる」を用いています。もちろん「強制」の意味でも読めるのですが、「容認」していることが多いですね。





可能形

 あることが実現可能かどうかを表す文法形式です。

 動詞に「れる/られる」を付けることで、ヲ格であった目的語(格助詞「を」)が主語(格助詞「が」)に変わります。

(1)水戸さんは納豆を食べる。

 これは単なる事実でしかありません。「れる(-eる)/られる(-aれる)」を加えると可能形に変わります。

(1’)水戸さんは納豆が食べられる。

 主語が「水戸さん」から「納豆」に切り替わっています。





自発形

 出来事が自然に発生することを表す形式です。

 数は多くないのですが、よく使われるのは「見える」と「聞こえる」です。

(1)私が富士山を見る。

(1’)(私に)富士山が見える。

 「私に対して、情景が飛び込んでくる」のが自発形です。

(2)私が音楽を聞く。

(2’)(私に)音楽が聞こえる。

 「私に対して、音が飛び込んでくる」ので自発形です。





ら抜き言葉

 「見れる」「食べれる」「来れる」はすべて「ら抜き言葉」です。

 では次はどうでしょうか。

 「言える」「書ける」「愛せる」「立てる」「死ねる」「読める」「取れる」

 いずれも可能形であって「ら抜き言葉ではありません」。


 この違いはなにかというと、可能形になっているのは「五段活用動詞」だけです。

 上一段活用動詞、下一段活用動詞、カ行変格活用動詞(来る)は「ら」を必要とします。

 またサ行変格活用動詞(する)は「できる」が可能形です。


 上一段活用動詞「見る」は本来「見られる」が可能形で、これは受身形と同じです。

 下一段活用動詞「食べる」は本来「食べられる」が可能形で、これも受身形と同じです。

 カ行変格活用動詞「来る」も本来は「来られる」が可能形で、やはり受身形と同じです。





さ入れ言葉

 使役活用として「せる/させる」があります。

 ただし「書かさせる」「読まさせる」は「さ入れ言葉」です。

 こちらは五段活用動詞に「さ」を入れることで発生します。



「ら抜き言葉・さ入れ言葉」について詳しくは、以下のコラムをご参照いただければと存じます。

『三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム』

516.飛翔篇:ら抜き言葉・さ入れ言葉

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889417588/episodes/1177354054890679403





日本語学習で憶えたいポイント

(1)文を書くときは「主役」を決めましょう

(2)日本語には能動文・受動文(直接受身文と間接受身文)・使役文がある

(3)動詞には可能形と自発形もある

(4)「ら抜き言葉」「さ入れ言葉」には注意しましょう。




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