第18話 まずは実績を積んでから
小説を書くとき、最初から「私は今流行りの異世界転生チーレムしか書かない」と決めてはなりません。
あなたにどんな作品を書けるのか。
駆け出しの頃はあなた自身にすらわからないからです。
それなのに始めるときから「ブランド化」するのは割に合いません。
もしかすると、あなたにはパニック小説の才能があるやもしれぬ。
でも「どうせ書くならウケてたくさんの人に読んでもらいたい」と思ってしまい、本末転倒になってしまうのです。
自ら可能性を狭めるよりも、思いついたジャンルの作品を投稿して、どれがいちばん読み手にウケるかな、と探ってみてください。
そうやって、まずは実績を積むのです。
「異世界ファンタジー」だけでなく「現代ファンタジー」を書く。「SF」も書くし「推理小説」も書く。「恋愛」ものや「ラブコメ」にだって挑戦したほうがよい。「歴史」ものやその知識がなくても「時代」ものなら書けそうですよね。
小説投稿サイトでは、たとえどのジャンルに投稿しても、いずこから読み手が現れて必ず読まれます。
読んでくれないのは「タイトル」「キャッチコピー」「あらすじ」が冴えないからであって、内容は二の次三の次です。
『カクヨム』では、1話ずつのPVやいいねが確認できます。
どの時点で読み手が離れたのかが明確なのです。
私の小説だと、第1話がおおいにウケているように見られますが、これは第1話は誰でも読めるだけです。
分析すると第1話のPVが高くても、第2話に続かなければ第1話の時点ですでに失敗しています。面白くないのです。
もし第1話が面白ければ、第2話のPVも高くなって当たり前。
いいねは、第1話が多くて第2話が急減していれば、第1話しか評価されなかったことを表します。
PVといいねは1話ぶんズレています。
第1話のPVが高くて第2話は低かった。これは第1話が面白くなかったから。
第2話のPVも高くて第3話は低かった。これは第1話で読み手を惹きつけたものの第2話が面白くなかったのです。
第1話のいいねが高くて第2話のいいねが低かった。これは第1話は面白かったけど、第2話は面白くなかったわけです。
つまりどこがどれほど評価されているかは、PVといいねを分析すれば読み解けます。
なるべく多くのジャンルを書き、総合PVと総合いいねを稼げるか。
これだけで分析しても駄目なのです。
第何話まではよくて、第何話で読み手を逃したのか。
これを分析し検証しなければ、あなたの得意なジャンルはわからないのです。
あなたがいくら「異世界ファンタジー」を書きたくても。あなたが活きるのは「時代」小説だった。ということもじゅうぶんありえます。
だから「紙の書籍化」を目指しているのなら、自ら可能性を狭めてはなりません。
書き始めたばかりで「ブランド化」しても、小さな箱庭で生活しているようなものです。
書き始めこそ、多くのジャンルに挑戦し、どのジャンルのウケがよいのかを見極めなければなりません。
最初から「ブランド化」を狙って「異世界ファンタジー」しか書かない、と決めてしまわないように。
まずは地道にコツコツと実績を積むのです。
推理小説の書き手が「異世界ファンタジー」を書いた。
このインパクトは絶大です。
「あの有名作家も駆け出しの頃は甘々な恋愛小説を書いていた」とか「実は成人向け小説も書いていた」とか。
あとで黒歴史化するようなことも実際には起こっています。
でもそれが「黒歴史」と呼ばれるのは、実績を積んで誰もが認める「ブランド化」に成功してからです。
もしかすると「異世界ファンタジー」こそ、あなたの「黒歴史」と呼ばれるジャンルかもしれません。
そうだとしたら、書き始めた頃から「異世界ファンタジー」しか書かない、と決めてしまうとその後伸びないのもうなずけますよね。
小説投稿サイトは気軽に投稿できます。
どんなに失敗作だと思っても、とりあえず投稿してみる。
もちろん前回言及したように、開催される「小説賞・新人賞」に沿ったジャンルを書けば、絶対的な評価を得られるのです。
ジャンルは「小説賞・新人賞」でどこまで選考を通過できるかで決めたほうがよい。
少なくとも一次選考すら通過できなかったジャンルには当面の見通しは立ちません。
最終選考まで残ったジャンルならあと一歩努力すれば大賞が獲れるはずなのです。
どうせ力を注ぐなら、まったく望みのないジャンルで勝負するよりも、いちばん可能性の高い努力をしてください。
「異世界転生チーレムファンタジー」のウケがよい。
それは小説投稿サイト全体としての流れかもしれませんが、あなたにそういう作品が書けるかは別問題です。
また書けたとしてもウケるかどうかは人それぞれ。
とりあえずさまざまなジャンルの小説を書いては投稿して「小説賞・新人賞」へ応募してみたら「純愛」ものの評価がべらぼうに高かった。ということは起こりえます。
もし「純愛」適性のある書き手が「ハーレム」ものを書いたとして、面白くなると思いますか。
おそらく「ハーレム」の形をした「純愛」ものになってやしませんか。
女性は周りにたくさん登場するけど、恋愛対象はつねにひとりであり続ける。
ちょっと脇見くらいはするでしょうが、すぐに罪悪感から俗に「本妻」と呼ばれる「純愛」対象に傾注する。
「ハーレム」好きにこんな「ハーレム」を読みたがる方がいらっしゃるのでしょうか。
ですが「本妻」ありの「ハーレム」というジャンルを好む層は確実に存在します。
弓弦イズル氏『IS〈インフィニット・ストラトス〉』だってこのジャンルですしね。
少なくとも、あなたの適性がわかるまでは、ありとあらゆるジャンルに挑戦してください。
今から可能性を狭めては、将来プロとなった際に手持ちの武器が少なくなって戦えなくなってしまいます。
プロこそ、ありとあらゆるジャンルを試さなければ生き残れないのです。
そのとき、駆け出しのあなたもすべてのジャンルに挑戦した過去があれば。
「どのくらい読み手に響いたのか」も明確ですし、その頃の作品を読み返せば「なにが足りなかったのか」もプロの目線で読んで気づけるでしょう。
「私は異世界ファンタジーしか書かない」と決めてしまわなくてもよいのです。
というより決めつけないでください。
人間には無限の可能性があります。
「苦手だ」と思っていても、実際に投稿し応募したらきわめて反応がよかった。
そういうケースは意外と多いのです。
可能性を狭めるがごとき行為は厳に慎みましょう。
「ブランド化」はあなたが大家になった際、読み手側が勝手にしてくれます。
あなたは書きたくなったジャンルを書けばよい。
今まで書かなかったジャンルを書けばよい。
あなたひとりで未知の可能性を摘むことほど、つまらない人生はありません。
「自分にはなんだって書ける」くらい「根拠のない自信」を持っているほうが強いのです。
「根拠のない自信」ではなく「揺るぎない自信」が欲しければ、とにかく書いて投稿し応募して世に信を問うてください。
「自分にはなんだって書ける」の精神があれば、たとえプロになって出版社編集者からジャンルのむちゃ振りをされても書けるはずです。
最初から「私には書けません」と言ってしまうと「潰しが利かない」作家に成り下がってしまいます。
「小説賞・新人賞」の受賞者がプロとしてやっていくには「潰しの利く」作家にならなければなりません。
多く有名作家が原稿を落としたときの代原になるでしょう。
この代原でチャンスを掴み、超時空シンデレラとしてトップアイドルの地位を……ってこれは『マクロスF』のランカ・リーか。
実際、プロになりたての書き手は受賞作の「紙の書籍化」を果たしたのち、たいていは消えていきます。
しかし有名作家が原稿を落としたときに代原を頼まれて、連載枠を勝ち取ったマンガ家も多いのです。(マンガかよ、と思うかもしれませんね)。
小説でも文豪時代にはこのような形で人気を博した書き手も存在しましたし、今もその可能性は高い。
せっかく代原のチャンスが巡ってきたのに、それを掴めずに「その他大勢の受賞者のひとり」で終わってしまう書き手のなんと多いことか。
とくに「小説投稿サイト」発の書き手は、新味が出せなくて担当編集さんを納得させられず、二作目を書けずに自由契約となるケースが多いのです。
小説投稿サイトで「紙の書籍化」を果たした書き手が、二作目を出版できたのか。
この事実に目を向けるべきです。
代原のチャンスで「潰しが利く」書き手になるためにも、ありとあらゆるジャンルに挑戦しておいて損はありませんよ。
駆け出しの頃から「私は異世界ファンタジーだけで」と「ブランド化」しないでください。
「ブランド化」は読み手が勝手に行なってくれます。
プロになれる書き手は「どんなジャンルでも書ける」ほど「小説を書く」のが好きな方です。
自ら可能性を狭める書き手には、チャンスすら巡ってこないでしょう。
とくに小説投稿サイトで開催される「小説賞・新人賞」の場合、応募作だけでなく、過去投稿作もチェックされると見てよいでしょう。
そのとき幅広いジャンルが掲載されていて、そのうち数ジャンルが面白い書き手が、選考で有利になりそうだ、というのはお感じになりますよね。
だから、駆け出しの頃から「ブランド化」にハマらず、可能性を広く追求してください。
それが結果として、あなたをプロへと導いてくれるでしょう。
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