第14話 ライバルに勝てるものを明確にする

 ただ小説を書いていれば、そのうち大賞が獲れて紙の書籍化だ!!


 これができれば誰も苦労しません。


 では、なぜあなたに大賞が獲れないのか。

 真剣に考えてみたでしょうか?


「他の書き手のほうがうまかった」


 確かにそれもあるでしょう。


 ではなぜ他の書き手はうまく書けたのでしょうか。

 ここを明確にしなければ、あなたが他人より上には立てません。


 あなたは「自分の強み」を把握していらっしゃるでしょうか。


 意外と「自分の強み」「自分の弱み」には気づけないものです。

 「小説賞・新人賞」に応募して、運良く選評がつけば「自分の強み」も「自分の弱み」も選評者が詳らかにしてくれます。

 だから次回それを活かした作品を書くので、その人は次回に大賞が獲れたのです。


「元からうまい人が、結局おいしいところを持っていくんだ」

 と悲観したくもなるでしょう。


 強いものが富み、弱いものが貧する。

 弱肉強食が世の常です。


 しかし人間社会は必ずしも「強いものが勝つ」とは限りません。

 人間には類稀な「頭脳」があるからです。


 「自分の強み」も「自分の弱み」も、客観的に見たらわかってきます。


 そしてライバルに勝てるもの、ライバルには敵わないものを知るのです。



 小説を書くのなら、あなたが他人には絶対に負けない「自分の強み」を生かすべきです。

 長編小説賞へ応募する十万字超を書くのに数十時間を要します。

 その作品が「自分の弱み」で戦っているようなら、何作書こうと大賞が獲れるはずもありません。


 「自分の弱み」ではなく「自分の強み」を最大限に活かした作品を書きましょう。



 日本史に詳しければ日本の歴史小説を書くべきです。

 世界史に詳しければ世界の歴史小説を書くべきです。

 科学に強ければSFに挑んでもよいでしょう。

 パズルが得意なら推理小説は最大の選択肢です。



 あなたにとって「異世界ファンタジー」は「自分の強み」でしょうか。

 本当は「異世界」がどんなものかもわからず、ただ「受賞者が多いジャンルだから」書いていませんか。

 「アニメでも異世界転生ものが流行っているから」という理由で書いていませんか。


 それでは他人が獲って、自分が落ちるのは至極当たり前です。


 ライバルのほうが強いもので勝負を挑んでも、必ず負けます。


 戦いは「百戦百勝は善の善なるにあらず」です。

 すべての戦いで勝とうなんて力の無駄遣い。

 ここぞという「小説賞・新人賞」に狙いを絞って、ひと息に仕留めるくらいでなければなりません。

 年間に百戦したところで、腕前が向上できようはずもないです。


 百戦百勝を目指す人は、しょせん「お山の大将」でしかない。



 勝てる書き手、小説賞を獲る書き手になりたければ、年間で三つまでの「長編小説賞」に狙いを絞るべきです。


 構想し、執筆し、応募する。


 これだけではとても勝てるようにはなりません。


 構想し、執筆し、応募する。そして反省をし、改善点を挙げ、過ちを改める。


 そのうえで次回作に挑まないかぎり、執筆スキルは向上しないのです。




 誰かのオンリーワンを目指しても、小説家にはなれません。


 「小説賞・新人賞」でナンバーワンになった人だけが、プロの世界で通用するのです。


 処女作や二、三本しか小説を書かないで受賞してしまうと、その後の作家業は苦難の道を歩みます。


 芥川賞を最年少で受賞した書き手も、二作目、三作目までの間隔がとてつもなく長くなる傾向が出ています。


 執筆スキルよりも持ち前の感性が生きたのかもしれません。

 ですが感性だけでは続かないのです。


 あなたが「感性」だと思っているもの。

 実際は「自分の強み」の現れです。


 「自分の強み」を活かせば、たとえ流行っていないジャンルの作品でも、光るものが書けます。

 もちろん応募する「小説賞・新人賞」の要項で求められていないジャンルを書いても受賞などありえない。

 これは「強み」「弱み」以前の問題です。


 だから「自分の強み」を知るべきなのです。


 あなたの「強み」が活かせる「小説賞・新人賞」に応募すれば、受賞の確率が大幅に引き上げられます。


 「推理」「ミステリー」が大好きで、いつも完全犯罪のネタを考えている。

 そのような人は推理小説やミステリー小説を書くべきです。


 「異世界ファンタジー」が大好きなら、「異世界ファンタジー」を書けばよい。


 しかし「異世界ファンタジー」に挑む他の書き手ほどの「強み」がなければ、いくら好きでも「異世界ファンタジー」での受賞は叶わないでしょう。


 他の誰にも負けない、ナンバーワンのジャンルに応募するから、必勝を期せるのです。


 「異世界ファンタジー」の小説賞に挑みたいなら、なにがしかで「ナンバーワン」を誇れるほどの知識が必要となります。

 だから「異世界ファンタジー」に「転移」「転生」「VRMMORPG」などのサブジャンルが生まれていったのです。


 しかしこれらの「異世界ファンタジー」はすでに飽和状態であり、あなたがいずれかで「ナンバーワン」に君臨できるとは思えません。


 「小説賞・新人賞」を獲りたければ「あなたの強み」を極限まで「とがらせて」ください。

 凡百とは一線を画する、あなたにしか書けない「異世界ファンタジー」が書けるかどうか。


 「オンリーワン」とは経営学でいうところの「ブルー・オーシャン戦略」です。

 競合のいない、穏やかな海で漁をする。

 誰もいないからこそ市場を「独占」できます。


 しかし「異世界ファンタジー」は競合がわんさかいて、とても荒れ狂っている海なのです。

 そこで「オンリーワン」なんて目指せるはずもありません。

 「ナンバーワン」を極めて初めて「オンリーワン」の作品が書けるのです。




 私の話になりますが、私は「恋愛」経験がいっさいありません。

 誰かに恋したり、誰かを愛したり、誰かから愛されたりしたことがないからです。

 こんな私が「恋愛」や「ラブコメ」を書いて「ナンバーワン」を極められるでしょうか。


 無理ですよね。


 恋愛のイロハも知らない人が書いた「恋愛」や「ラブコメ」なんて、独りよがりも良いところ。たいていは的外れに終わります。

 これではいくら書いても「小説賞・新人賞」など獲れようはずもありません。


 私の「弱み」は「恋愛感情がいっさいないため、恋愛やラブコメが書けない」です。

 これほど「小説賞・新人賞」に向いていない「弱み」はありません。


 ほとんどの方には恋愛感情があり、小説を読むときも「恋愛」「ラブコメ」要素を無意識に求めるものです。


 しかし私は「恋愛」「ラブコメ」が書けない。

 そこで「自分の弱み」を「強み」に変えられないか、思案しました。


 結果として「それならいっそのこと、恋愛やラブコメをいっさい書かない」スタイルを貫けないか。という境地に行き着きました。


 たとえばハードボイルドな作品なら、恋愛やラブコメよりも「無骨」で「重厚」な物語を提供できるはず。


 他の人は「恋愛」「ラブコメ」に逃げ込めば人気がついてきます。


 しかし私は「恋愛」「ラブコメ」に逃げ込めないので、正面から本題と向かい合わなければならないのです。

 どんなにつらくて困難で挫けそうな道のりであっても、正面突破以外に活路はありません。

 逃げられないのなら、玉砕覚悟で挑むほかないのです。


 だから「戦略戦術を活かした唸らせる作品」や「冒険のワクワク感に特化した作品」といったものを書かざるをえません。


 そのために『孫子』や『戦争論』などを読み込んで兵法に強くなったのです。



 「異世界ファンタジー」は戦いの世界であることが多い。


 とくに私が書く「異世界ファンタジー」は『アーサー王伝説』に代表される世界観です。


 その中にも恋愛要素はありますが、恋愛模様は書かれていません。

 騎士ランスロットが王妃グィネヴィアを寝取ったり、アーサー王が義姉と横恋慕したりと醜聞に近い恋愛がほとんどです。


 これなら醜聞を削除して、戦略戦術に特化した『アーサー王伝説』が書けたら私はナンバーワンを目指せます。


 鉄板の「勇者物語」から逃げずに王道を歩み続けること。

 それができるのも、安直にファンを増やせる「恋愛」「ラブコメ」に逃げない、というより逃げられない心境だからです。




 万人に私の道は歩めません。


 多くの人には恋愛感情がありますから「恋愛」「ラブコメ」を取り込んで、大衆ウケする作品を書くべきです。

 真正面からぶつかるのは、それ以外にやりようのない人だけがとる戦略なのです。



 ただし、現在は「異世界ファンタジー」に「転移」「転生」を組み入れ、「恋愛」「ラブコメ」路線をとる作品が増えすぎました。

 これでは差を出すのが難しい。

 ナンバーワンは目指せるかも知れませんが、より高い壁が控えているようなものてす。


 であれば、なにを足せばナンバーワンになれるのか。

 多くの方はそう考えますが、「足す」ことだけがナンバーワンへの道ではありません。


 ときには「引く」勇気も必要です。

 「異世界転生ラブコメファンタジー」なんて、現在の「小説賞・新人賞」では腐るほど応募されています。

 ここから「転生」を引いたり「ラブコメ」を引いたりしてオリジナリティーを生もうとする。

 まぁ「転生」を引いても「異世界ラブコメファンタジー」ですし、「ラブコメ」を引いても「異世界転生ファンタジー」です。

 どこにも目新しさはありません。


 これは「引く」要素を勘違いしているのです。



 私は「異世界ファンタジー」からあえて「魔法」を「引き」ました。

 「異世界ファンタジー」といえば「剣と魔法のファンタジー」を連想しがちです。

 魔法を「引いた」らどんな物語になるのか。

 考えた結果が「戦争小説」です。


 しかし「戦争小説」ほど読み手を選ぶ「異世界ファンタジー」もないでしょう。

 舞台を異世界にする利点を放棄しているに等しいからです。



 それなら「剣」をなくしたほうが一般ウケするでしょう。


 「魔法が万能」な世界なら、すでに「剣」が廃れていて庶民でも「魔法」を使って日常を過ごしているはずです。

 こちらのほうが「異世界ファンタジー」として魅力があるでしょう。


 考えてみれば『魔女の宅急便』も『ハリー・ポッター』も、剣より「魔法」が主体の「異世界ファンタジー」でしたよね。

 売れる「異世界ファンタジー」を書きたければ、「剣」を引くべきでしょう。


 そこからオリジナリティーが生まれて、その道でナンバーワンになれますし、それがあなたひとりの着眼点ならオンリーワンにもなれます。



 最初からオンリーワンを狙うのではなく、ナンバーワンに到達した結果オンリーワンになっていた。

 このほうがよほど自然ななりゆきですよ。



 さああなたも書きたい物語になにを「足し」てなにを「引く」のか考えてみましょう。

 その足し引きがどれだけ斬新かで、大賞を狙える作品に仕上がるかどうかが決まります。



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