第12話 なんでも書きますは、なんにも書けない
人には得手不得手があります。
小説の書き手にも書けるジャンルと書けないジャンルがある。
これはわかりやすいですよね。
異世界ファンタジーは得意だけど、歴史ものは書けない。
こういう方、けっこういらっしゃるのでは?
小説で稼ぎたいのなら「なんでも書きます」という姿勢は今すぐ改めるべきです。
「なんでも書ける」だけの知識を蓄えても、しょせん広く浅くにしかなりません。
しかし「これしか書けない」人の知識は、狭くてもとても深いのです。
もちろん
しかしそれを最初から追い求めてもプロにはなれません。
デビュー前の段階ですでに大家ほどの作品が書ける方なんて百万にひとりもいないのです。
デビューするまでは「狭く深く」を目指しましょう。
得意ジャンルや得意な物語を定めて、そこに資本を集中投下するのです。
最初から「短編賞」「長編ミステリー」「長編ラブコメ」へ同時に取り組んでも、うまくいく方なんてほとんどいません。
であれば「異世界ファンタジー」の一点突破でもかまわないのです。
あなたの「異世界ファンタジー」が深みのある物語であれば、評価されやすくなります。
浅い知識で書かれた「異世界ファンタジー」は凡百と同じです。
あなたの小説を唯一無二にする鍵は「狭くてもとても深い知識」です。
日常系の小説が書けなくても、「異世界ファンタジー」の知識が深ければ、それだけであなたの「異世界ファンタジー」は評価されます。
たとえ他の書き手とテーマがかぶっても、より「深い物語」のほうが評価されるからです。
さらなる利点もあります。
読み手はあなたを「異世界ファンタジーのすぐれた書き手」と認めてくれるのです。
こうなれば怖いものなどありません。
「異世界ファンタジーを読みたければあなたの作品を読めばよい」
そう思われれば、あなたが「異世界ファンタジー」しか書かなくても大賞は獲れるでしょうしプロデビューもできるでしょう。
小説家の不思議なところは「博識」のイメージを持たれていることです。
本来小説家は「物語を書いて稼ぐ」のが本職です。
なのにワイドショーのコメンテーターや政府の分科会諮問委員をやっている小説家が意外と多い。
そんなに多方面に深い知識を求められる職業なのではないか。
多くの人にそういう印象を持たれているのです。
これは誤解です。
もちろん、実際に広く深く、博識多才な小説家は存在します。
しかし多くの小説家は博識ではないのです。
一部の小説家がクイズ番組などで博識をひけらかしているから、そう誤解されているだけ。
だから「小説家になりたい」方は当面「博識を目指さない」でください。
読み手が求める「読みたい物語」を書けばよいのです。
博識になりたければ、プロデビューしてから知識を詰め込んだってかまいません。
遅すぎることはないのです。
芥川龍之介賞や直木三十五賞の受賞者は、他の作品をかなり読み込んで内容を憶えている方が多い。
過去の文豪から、今回賞レースを競った新進気鋭の作家の作品まで、すべて読みこなしているような方だらけです。
しかしライトノベルを目指すのであれば、とくに「読書家」である必要もありません。
意外かもしれませんが、ライトノベル作家は「博識を求められていない」のです。
単に「作品が面白ければそれでよい」とみなされています。
現に、ライトノベル作家でテレビやラジオのコメンテーターをやっている人っていませんよね。オリンピックの組織委員会や演出家チームに選ばれた話もありません。
求められてもいないのに、努力する必要なんてないのです。
もちろん歳相応の知識は欲しいところですが、なくたって面白い作品が書ければそれでよい。
出版社から見れば「売れる小説」さえ書いてくれて、罪を犯さないかぎり万々歳なのです。
味噌がつくような人物は願い下げですが、利益さえもたらしてくれれば才能は問いません。「広く深い知識」なんて必要ないのです。
あなたはライトノベルを読んで「この著者は広く深い知識を持っているな」と感心するような方を知っているでしょうか。
そもそもテレビやラジオに触れない方が多くなってはきましたが、それでも「小説家って博識」という既成概念は持っているものです。
これも小学校から始まる国語の時間で、名著を問題に出させられるくらい含蓄があるんだろうな、と思わされているからです。
「小説家は博識」という既成概念は生徒時代からの単なる刷り込みにすぎません。
売れる小説家は、それしか知らない方にでもじゅうぶん務まるのです。
「なんでも書ける」は目指さないほうがよいでしょう。
「これしか書けない」くらい突き詰めた方のほうが、プロデビューは近いのです。
「異世界転生ファンタジー」しか書けなくても、プロデビューした方はいらっしゃいますよね。
とくに「小説投稿サイト」で活躍した方が、出版社の目に留まって紙の書籍デビューした話は、多かれ少なかれ耳にしたこともあるはずです。
ライトノベルしか書けない方が無理してミステリーに挑戦するよりも、ライトノベルの「小説賞・新人賞」にのみ狙いを絞ったほうがデビューしやすいだろうと思いますよね。
ミステリーのほうが競争率が低いから、という理由だけで苦手なミステリーに挑むのはオススメしません。
もちろん書けるのならそれでもかまわないのですが、もしプロデビューするのであれば、苦手ジャンルで大賞を獲るとその後は苦労だけがつきまといます。
どんなジャンルでも大賞受賞作を手直しして出版し、それが好評なら二作目のオファーが来る。
このルーチンは変わりません。
もし苦手ジャンルでプロデビューしてしまったら、満足のいく大賞作は仕上げられず、二作目のオファーも来ずに埋もれていくだけでしょう。
これからプロとして活躍したい方、「小説賞・新人賞」を獲りたい方は、「狭いけど深い」知識で一点突破を図ってください。
けっして「あれも書ける、これも書ける」に陥らないように。
プロになるとき、得意ジャンルでデビューできたら将来は安泰です。
だから「書ける物語」がひとつしかなくてもかまいません。
それを突き詰めて一点突破できた方が、プロとして成功しているのですから。
もし文学小説からデビューしたいのであれば、その小説賞にふさわしい知識を要求されもします。
しかしライトノベルであれば、そこまで幅広い知識は要求されません。
「面白い作品」が書けさえすればよいのです。
出版社は、自分たちの利益につながればそれでよい。
書き手の知識なんて求めていません。
せいぜい歳相応の知識くらいは持っている方と付き合っていきたいとは思うでしょう。
でもそれくらいです。
「なんでも書ける」より「これしか書けない」くらいのほうが、出版社も売り込みやすいのです。
「ラブコメの雄」という一点だけで突破できるのがライトノベルのよいところです。
書店も売り出しやすいですし、読み手も「この書き手のラブコメは面白い」と認識していて新作がラブコメなら必ず読みますよね。
「なんでも書ける」をやめて「これなら誰にも負けない」を目指したほうが、成功する世界。
それが小説界なのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます