第8話 『プレバト』は小説にも効く
MBS系列『プレバト』は小説にも効く
テレビ番組のMBS系列『プレバト』をご覧になったことがあるでしょうか。
関西ではMBS、関東では系列局のTBSで放送されています。
「小説の書き方」コラムをやっていて、なぜ畑違いの「俳句査定」を観なければならないのか。
そうお思いかもしれませんね。
さにあらず。
十七音で詠み手が伝えたいものをきっちり伝えるために、一音も無駄にせず、効率よく言葉を紡いでいく「俳句」という文芸。
この一文字を削る・磨く行為そのものが、文章力にさらなる冴えを与えてくれます。
よくある加点に「助詞の使い方」があります。
今週の千原ジュニア氏の俳句がまさに「助詞の使い方」で加点を獲りました。
この「適切な助詞を選ぶ」技術は、小説にも当然活かせるのです。
「俳句査定」のコーナーを観るとき、まず「助詞」に注意してください。
もちろん「俳句」は十七音で表現するために、助詞を省く場合も多々あります。
しかし今週のように「助詞」が適切かで評価が分かれるときもあるのです。
また「効率のよさ」もよく取り上げられる加点です。
たとえば「ステージ」という単語があります。
これだけで「なにか演劇やコンサート、ライブなどの」特別な場所を指し示していますよね。またそこに「立つ」のは役者や演奏家や歌手と、人物の職業も特定できるのです。
「ステージ」というたった一語で場所と職業のふたつが朧げながらもわかる。
これが「効率がよい」単語です。
これもまた、小説に活かせる技術です。
なんでも「ライブのステージに立つロックバンドのボーカリスト」と書く必要はない、ということでもあります。
「ステージでファンを魅了する」だけで、演者つまり役者か演奏家か歌手かに絞られます。
ですのでこの後に「役者」「演奏家」「歌手」「歌声」と書くだけで多くのものを短く表現できるのです。
このように「効率のよさ」を活かすと、文章は不要な単語が省けてどんどん短くかつ濃くなります。
「小説の書き方」コラムでは「省く技術」として概念だけをお伝えしましたが、『プレバト』を観ればリアルタイムで添削され、どのように「省いて」いけばよいのかが理解できます。
だから「小説を書く」方でも『プレバト』の「俳句査定」コーナーはとても得るものが多いですよ。
ただ漫然と梅沢富美男永世名人の俳句が掲載決定かボツか、だけを楽しむ番組ではないのです。
もちろんその楽しみを味わえるのが『プレバト』のよいところ。
ですが、せっかく観るのなら、コーナーの始まりから終わりまで、ぜひ「自分だったらどう表現しようか」と頭をひねりながらご覧ください。
可能であればリアルタイム視聴ではなく、いったんレコーダーに録画して、各詠み人の一句をご覧になったら一時停止し、「自分ならこう書いたほうがよいような気がする」と頭を働かせてください。
そしてそれが出来たら夏井いつき先生の添削を観るのです。
すると「目の付けどころが違ったか」とか「おっ、私の添削もいいところまでいっていた」と、まるで模擬演習をしているような感覚を味わえます。
今回はとくに「俳句査定」コーナーを取り上げましたが、美術系の「水彩画査定」「色鉛筆査定」なども、映像をどう表現すればよいのかのヒントが浮かんできますよ。
今週の「水彩画査定」でも「遠近法が狂っている」だったり「陰影がのっぺりしている」だったり。
これ、小説の文章にも当てはまるのです。
たとえは「遠くにある夏空」「海」「踏切」「江ノ電」という順番で描写していけば「遠近感」が出る、つまり「遠近法に則っている」となります。
「陰影」についても、文章にして書く部分が「陽」であれば、あえて書かなかったり匂わせたりする部分が「陰」です。読み手に伝えたい情報は「陽」であり必ず書かなければなりません。しかし「それって読み手に伝える必要のある情報か」と考えれば、必ずしも伝える必要がない「陰」の情報だってあるのです。
例を挙げれば「彼は親指を立ててにんまり笑った。」という一文があります。
これを「彼は親指を立てて、残った指を握りしめてにんまり笑った。」と書いたらどうなるか。
その「残った指を握りしめて」という言葉は、本当に読み手へ伝えるべき情報、伝えなくてはならない情報でしょうか。
多くの場合、この動作は「親指を立てる」のが重要であって、残りの指については要らない情報です。
また「効率」を考えれば「親指を立てる」という言葉には「それ以外の指は立てない」の意味が含まれています。
長くなりましたが、「小説を書く」のだから「俳句は関係ない」「絵画は関係ない」とは思わないでください。
芸術の本質は、たとえジャンルが異なっていても、ちょっとアレンジすれば通用するものです。
その美的感覚を毎週鍛えてくれる良質な番組。
しかもそれがNHKではなく民放の番組として観られるのはとても貴重だと思います。
ぜひ食わず嫌いをせず、騙されたと思って『プレバト』をご視聴ください。
きっと、あなたが挑む小説という芸術にも取り入れられる「テクニック」に気づけるはずですよ。
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