第4話 連想ゲームで言葉を鍛える
連想ゲームで言葉を鍛える
小説では、動詞の基本語たとえば「言う」「聞く」「見る」「行く」「来る」「食べる」「飲む」などは極力使わないようにしましょう。
どうしても「言う」でなければ表現できないときにだけ「と裕太は言った。」と書いてもよいのです。
しかしこれでは「どんなふうに」というニュアンスが伝わりません。
そこで「連想ゲーム」の出番です。
「どんなふうに」をいろいろ考えてみましょう。
例としては「裕太は申し訳なさそうに言った。」ですかね。これは「裕太は聞こえるかどうか微妙な大きさで呟いた。」に近い表現だと思いませんか。
今「連想ゲーム」を二回行ないました。
「と裕太は言った。」から連想して「裕太は申し訳なさそうに言った。」をひねり出します。
さらにそこから「裕太は聞こえるかどうか微妙な大きさで呟いた。」へ連想を飛ばしたのです。
文章の表現力に乏しい方は、たいてい「と裕太は言った。」で事足りると思い込んでいます。
しかし読み手は「と裕太は言った。」ではなんの情感も受け取れないのです。
どんな状況で、どんな状態で、どのようなニュアンスで。
その動作に適切な表現は、一文ごとに異なります。
それを完全に無視して、すべて「と裕太は言った。」で済ますから「小説賞・新人賞」で一次選考すら突破できないのです。
あなたに足りないのは「連想力」ではありませんか。
最適な一文を書き続けるのが「選考突破」の最短距離です。
もし長編小説で、ひとつも同じ一文がなければ、それだけ表現力に富んだ作品に仕上がります。とてもすんなりと読めるのです。
長編小説で、すべて別の一文を書き続けられるものか。
そう考えてしまうのが「初心者」の証です。
長編小説くらいなら書き分けられるな。連載小説では厳しいだろうけど。
そう考えられればランクは確実に上がります。
例文の「裕太は申し訳なさそうに言った。」を長編小説で二回使う場面が出てきてしまった。
それは本当にこの一文でなければ表現できないのでしょうか。
かなり懐疑的になるべきです。
長編小説で、まったく同じ一文が要求されるシチュエーションはまず存在しません。
もし存在するのなら、それはシチュエーションの書き分けがきちんとできていないのです。
もちろんプロなのに「まったく同じ一文」を書く方もいらっしゃいます。
たいていの場合「あえて」行なっています。
読み手へ印象的に伝えたい意図があるのです。
先ほどの一文と今の一文は、文としては同じだけれども、伝えたい意図が若干異なる。
その違いに気づいてほしいから、「あえて」まったく同じ一文を書いているのです。
あなたは「あえて」その一文に意図を託していますか。
単に何も考えていなかっただけではありませんか。
表現力とは、詰まるところ「正しいニュアンスを読み手に伝える」ために適切な言葉で構築する言葉の架け橋なのです。
世の中には似たような架け橋がたくさんあります。
しかし実際には、構築する自然にふさわしいよう「その場所に合わせた応用」を取り入れているのです。
同じ架け橋はふたつとありません。
だから、長編小説でまったく同じ自然が現れ「その場所に合わせた応用」をしているのに、まったく同じ一文が構築されるなんてことはありえない。
そこで「連想ゲーム」の出番です。
どれほど細かなニュアンスを表現して読み手に余さず伝えられるのか。
単に「と裕太は言った。」で済ませないでください。
その架け橋は、構築する場所によって微妙に形が変わらなければならないのですから。
この表現力を鍛えるには、単に「類語辞典」から適切な語彙を選ぶだけではダメなのです。
今、裕太はどんな気持ちで言ったのか。
どんな状況で、どんな状態で、どのようなニュアンスで。
それを書いてこその語彙なのです。
まず「類語辞典」でどんな語彙があるのかを確認する。
「適切な語彙」がわかったら、それをどのように書くべきなのか。
表現力を磨くため、あえて「言う」で「適切な語彙」と同じニュアンスになるよう「連想ゲーム」に耽ってください。
「連想ゲーム」から「適切な語彙」へ置き換えれば、あなたの伝えたいものが読み手に初めて「正確に」伝わります。
プロは「正確に」伝えるために言葉を重ねるのです。
ときにはそれが「もったいぶった文体」に思われるかもしれません。
それほど言葉を重ねなければ、書き手の伝えたいものが表現できない。
だからプロは傍から見たら「もったいぶった文体」で書いているのです。
プロとアマチュアを分ける壁があるとすれば、「読み手のために」「細かなニュアンスを書き分けるために」言葉を紡いでいるかどうか。
その意識の差こそがプロとの「とてつもない壁」なのです。
だからまずは「連想ゲーム」から始めましょう。
あなたの書きたい微妙なニュアンスを、読み手へ過たず伝えるために。
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