第39話 心機一転
「マスター、こちらは終りました」
「こっちも完璧」
「オイラの方も多分なんとか」
……あれから一週間が経過している。ジョン君はハンソンさんの手配でお母さんと一緒(形だけでもとの配慮)に共同墓地に埋葬してもらえる事になり、私も弔いに参加した。
収集家のジークという少年はあの後私のやり方が甘いと批判してきたけど、状況については知らずにすまない事をしたとも謝罪をして、そのまま都を出ていったようだ。正直随分拗らせているような印象を受けた。なので当然葬儀には参加していない。
それからの私は山小屋に戻り読書漬けの日々を送っていた。私は戦士や魔法使いのようには戦えない。ならせめて仲間や魔物に対する知識をきちんと持っていれば、あの時もっと上手くやれたんじゃないかという気がして。
そうそう。ラットマウスは今回の事を契機に私が使役する魔物となった。ヨーダさんから譲り受けた魔物以外では直接契約した初めての魔物だ。
そして私は彼等と協力して山小屋の清掃をしていた訳。……しばらく留守にするつもりだからね。
でもその前に。
「全員私の前に来てもらえる?」
ナイト、ハーピー、が私の前に。ラットマウスはテーブルの上にかけあがり二人の横に並ぶ。
「実は以前から考えていたんだけど、皆に名前をつけてあげようかなって」
「え?」
ハーピーがきょとんしている。
「ハーピーあなた。きょとんとしているけど、調べたらハーピーって種族全体の名前じゃない」
「ええ。ヨーダ様が面倒だからって。まぁヨーダ様のセンスじゃ変な名前つけられかねないしそれでいいかなって」
「ヨーダさん……じゃあリビングアーマーのナイトにはなんで?」
途端にハーピーが意地悪な笑みを見せた。
「リビングアーマーって呼ぶのは長いから変えるって。最初はヨロイって呼ばれてたのよねー?」
「……」
無言のナイトをからかうようにハーピーが言う。
「で、そのうちヨロイも言いにくいから今日からお前はナイトだ。って感じで」
ヨーダさん、さすがにそれは無頓着すぎじゃ……
(私もそんな感じで今の名で呼ばれ出したが。まぁ名前に拘る魔物もそうはいないからな)
とはこ丸。……ヨーダさぁぁん。
「と、とにかく」
私はある本を持ち出してナイトを見る。
「ナイト。貴方は今日から『グラハム』です」
「……グラハム……」
「この本、『グラハム王の物語』が都で売れているらしくてね。一介の青年があるきっかけで騎士になり、王となって力の弱い者を守っていく話なの。ナイトにぴったりだなって」
私は笑顔で言う。
「いつもありがとう。これからも私や皆を守ってね」
「!」
ナイト……グラハムは突然片膝をついた。
「ありがとうございますマスター。その名、慎んで拝命致します!」
微かに全身が震えている。そんなグラハムの様子を見て最初は興味なさそうにしていたハーピーが身を乗り出してくる。
「ア、アタシ! アタシの名前は?」
その問いには
「私が初めて空を飛んだときね。すごく感激したんだぁ。空は広くて青くて」
そう答えてハーピーを見た。
「それでハーピーはこんな世界を独り占めしてるんだなあって思ったの。自由奔放な性格もそんな影響なのかなって」
そしてやはり笑顔で言う。
「貴女には空そのものをイメージして『アオイ』という名を贈りたいの」
「アオイ……アオイ……アオイかぁ。へへへ。ありがとうマスター。アタシは今からアオイだからね!」
ハーピー……アオイは他の二人に翼を突きだして念をおしている。
「あなたは」
私は真剣な顔をしてテーブルの上のラットマウスを見た。
「最初はふと浮かんだジェリーっていう名前にしようかと思ったのね。なんか賢そうなネズミって感じがして」
「ジェリー……」
「でもね。あなたにはもっと相応しい名前があるって気がついたの」
「オイラに……相応しい?」
私の目線は遠くを見る。
「あなたと私を繋げたのはジョン君。ジョン君はきっともっと生きたかったと思うの」
ラットマウスは俯いた。
「だからね。友達のあなたはジョン君の分まで生きてあげなきゃ。色々な事を経験しながらね。それは私もなんだけれど」
私は間を置いてから
「なのでそういった意味も込めてあなたの名前はジョンにします。あなたは人間の友達になれるんだって事も大事な部分だから」
ラットマウスのジョンが顔をあげる。
「うん! オイラその名前がいい! ありがとうマスター! ジョンとしてジョンの分まで生きていくよ」
私との繋がりを再確認したグラハムとアオイとジョンはお互いを呼びあってつけた名前に感激してくれていた。
考えて良かったって思えるわね。
(……リ、リノ。私には……)
はこ丸が何かを言いかけたけどすぐに察しがついた。
(あなたの名前は本当にイメージ通りって感じがするわね。それ以外の名前はないって気がするもの。きっとヨーダさんは軽く言ったかもしれないけど真剣に悩んでつけたんだと思うよ? はこ丸)
(む。そうか。真剣につけてくれたのか)
(似合ってるもの、はこ丸)
(そ、そうか。悪い気はしないな。なるほど……)
危ない危ない。
似合ってるのは事実だけど、他の仲間達と違って常に視界に入らないから特に考えてなかった。なんて言えないもの。
「とにかく皆。改めてこれからもよろしくね!」
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