第33話 収集家(コレクター)

「そうかいたか!」


 冒険者ギルドハンソンの部屋。ハンソンはここでシスリとアルツから調査に関しての報告を受けていた。


「確かにある時期からまるで別人になったのではないかと一部で噂されている人物がいました」

「しかしその男が失踪、行方不明の件に絡んでいそうな証言は出ませんでしたわ」


 ハンソンは怪訝な顔をする。


「何? 男? 男の子ではなくてか?」


 それに対して今度はアルツ達が怪訝な顔をした。


「……いくらなんでもあの対象を男の子と呼ぶには無理があります」

「子供の方が都合が良かったですか?」

「あ、いや……すまない続けてくれ。それでどれくらい凶暴になったんだ?」


 それはシスリが否定する。


「いやだマスター。その逆なんですけど」

「逆? 逆とはなんだ」

「凶暴になったのなら我等も魔物、妖怪の線を疑ったかもしれません。しかし驚くほどの善人となると……」

「善人? 豹変して善人になったというのか?」

「飢えている者には食べ物を分け与え、病人がいれば薬を買って差し出しているとか」

「その男を崇める者はいましたが、恨みを持つものはいませんでした」


 ハンソンはリノから聞いた話と今アルツ達から聞いている話が乖離しすぎていてうまく結びつけて考える事ができない。


「豹変したという情報はなぜ出てきたんだ? そんな善人なら豹変という単語がついてくるのはおかしくないか? その男の過去は?」

「さすがマスター。私達もそこが気になったんですよ」

「調べたらおかしな事に過去を知る者もいなかったんです」

「な、なんだと?」

「たった一人を除いて。ですけどね」

「その情報提供者が街から逃げ出そうとしている所で偶然遭遇し今回の男が浮上したんです」


 どうやらここからが重要な話になる。ハンソンは身を乗り出したのだが、その時室内の緊張感を台無しにするように部屋の扉がノックされた。やってきたのはギルド職員のポメラ=ニアン。


「あ、あのぉ。マスターに会わせろって方が……」


 ハンソンはポメラが言い終わらないうちに声を荒げる。


「今日は重要な話があるから面会は断るようにと通達してなかったかな?」

「ひっ」


 シスリ達がいるので名前は出せないが、リノの場合は優先する事も伝えてあった。だがポメラのこの反応はリノではないだろう。しかし彼女にしては珍しく引き下がらない。


「そ、それがマスター。その方は自分を『収集家』(コレクター)だと仰るんですよぅ。収集家が来たと伝えろってぇ」

「な、何!?」


 今度はハンソンが固まった。それもそのはず。


 ギルド職員規約の中の特記事項。これらの肩書きを名乗る者が現れた場合、責任者への報告の義務が生じる。


 ポメラはかつてリノの『召喚調教師』を知らず大失敗をやらかした。そして同じページには『収集家』の肩書きも記載されているのである。


「わ、私以前リノさんの件があったのでぇ、確認も取って規約の特記事項のページも確認したんです。そしたらぁ」


 ポメラは震えているようだ。ハンソンの叱責も怖いが、もしもこの失態が国家反逆罪に繋がるかもしれないと思うと落ち着かないのだろう。


「良く対応してくれた! ポメラくん正解だぞ。私が悪かった。アルツくん、シスリくん、すまないが今日はここまでで。落ち着いたら連絡を入れさせてもらう。ポメラくんすぐにその方のご案内を」

「! は、はいぃ!」


 ポメラは慌てて出ていきアルツとシスリも部屋から廊下に出てカウンターのあるギルド受付に向かう。


「ちょっとどういう事よアルツ。私達はマスターからの直接の依頼をこなしてるんですけど?」


 シスリは自分達の扱いが雑になったように感じたのか不機嫌になっている。


「それは俺に言われてもわからんよ。だが冒険者ギルドのスポンサーとかなのかもしれんな。マスターのあの慌てようだと」

「なぁに? 資金提供の代わりに何か高価な品の収集でも受けてたっていう訳ぇ? ご機嫌伺いなだけじゃないのよ」

「だから俺も分からないと言っている。今のもただの推測に過ぎん」

「こっちは命かけてる身よ? これでもBランクなのよ? それなのに突然話が打ち切られて追い出されるように……」


 二人は廊下を並んで歩く。シスリは文句を言いアルツは面倒そうに対応する。だが……


「「!!?」」


 その『少年』とポメラが視界に入った瞬間、シスリもアルツもそれぞれ廊下の壁際に無意識に移動し道を開けた。


 年の頃はリノと同じ位か少し上。身長もリノよりは高いがどちらかと言えば小柄でシスリよりも低い。しかしその少年が放つ雰囲気にBランクのアルツとシスリが圧倒されて呑まれた。少年はすれ違いざま二人を一瞥しハンソンの部屋へ向かっていく。 


「な、何よあれ? あれが収集家? とてもそんな雰囲気じゃなかったわよ?」

「あ、ああ。あの雰囲気を出す者はAランクにもそうはいない。かなり場馴れした者と見た」

「あんなオーラ出されてたら正直逃げたいわね。気付かないのは三流以下ってとこじゃない?」


 二人は案内をしているポメラに同情した。


 彼らはまだ知らない。

 カウンターで割り込まれた事に怒ったハナキンが突っかかり、少年の容赦ない一撃を受け昏倒させられている事実を。

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