第31話 遭遇

「……あの子!」


 見つけてしまった。そして今回はチーズをアイテムボックスに収納している万引きの場面を。


「ど、どうしようはこ丸」

(まだリノにはきちんとした対処方法も教えていない。迂闊に接触するのは危険だ)

「でもこのままじゃ……あ、移動を始めたわよ」


 私は距離をとってその子を尾行する事にした。何にせよハンソンさんに報告できる情報位は集めておきたい。


(侵食が進んでいればリノが敵う相手ではない。油断はするな)

「分かってる」


 男の子は大通りを抜け人気のない路地の方に進んでいく。……とても小さな子が選ぶ道ではない。


「物陰に!」

(隠れたな。だが……これは)


 私は男の子の死角から死角へと移動し近づき息を潜めて覗く。男の子は盗んできたと思われるリンゴやチーズなどを食べていた。……決してお行儀が良いとは言えない姿勢と食べ方だけど。


(人の味を覚えたなら人を襲うはずなのだが)


 はこ丸の言葉に私は希望を見出だす。


「ならまだ助けられる可能性があるって事じゃない!?」

(!!?)


 ……あ。やってしまった。男の子が食べる手を止めてこっちを見てる。何を見てるのかしら? うん、やっぱり私よね。近くで声をだせば当然こうなるわよね?


(リノ。小言は後だ。警戒しろ!)


「……お姉ちゃん……誰?」


 向こうから話しかけてきた。


「あ、あははー。見てたわよー。お腹が空いていてもお店の人に黙って持ってきちゃうのはいけないと思うな」


 私はつとめて冷静に、明るいキャラクターで話しかけてみる。


「お腹? ……うん、とても……お姉ちゃん食べたらお腹ふくれるかな」


 え゛!? このリアクションはまずいやつなんじゃない? そう思った矢先


「う……うああ! ダメだよ、お姉ちゃん逃げて!」


 男の子は苦しそうに下を向き、左手で顔をおさえながらも右手の手のひらはこちらに向けてつきだされている。その中指には金色の指輪が。


(あれだ! あの指輪がアイテムボックス本体だ!)


 はこ丸が叫ぶ! 私は嫌な予感から咄嗟にナイトを呼び出す。呼び出されたナイトは私と男の子の間に立つ形になり……ほぼ同時に男の子の右手から光の帯がほとばしった。


「きゃあああ!」


 それは雷撃に近いもの。……だったのだけれど、『鉄製』のリビングアーマーであるナイトに大半が命中し、そのまま地面へと拡散していった。偶然避雷針になったみたい。ナイトは平然としてるけど近くにいた私はそれでも全身が痺れその場に膝と両手をつく格好になる。もしハーピーだったらどちらも大変な事になってたかも。


 男の子は突然現れたナイトに対して警戒し、人とは思えない程の驚くべき跳躍を見せその場を離れ、そしてそのまま見失ってしまった。


「大丈夫ですかマスター!」

「助けてください!」


 痺れて動けない私を守りつつナイトが聞いてくる。


「なんとかね。ありがとうナイト」

(危なかったぞ、リノ)


 そうねはこ丸。私もそう思うわ。


「助けてください!」

「いや、むしろ助けて欲しいのは私なんだけ……って、誰!?」


 私は周囲を見渡す。……痺れてて上手く見渡せないけど。誰もいないようだ。ナイトもキョロキョロしている。でも見つけられない。一体どこから……って居た。信じられないけど幻とかではないみたい。


 その声の主は私の顔の『真下』、両手をついている間のちょうど真ん中辺りの『地面』に居て私の顔を見上げていた。


「お願いです。助けてください!」


 ……なんでネズミが?

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