第30話 ハンソンとの面会と盗み聞き

「アイテムボックスの特性についてはギルドマスターなら知っています。でなければ国から指示されている支援の仕事など出来ませんからね」


 当然極秘事項にあたり、知っていながら周囲に怪しまれないため普段からアイテムボックスを使用しているというのだ。


 おかげで話ははやくなったとは思うけど、何か胸の奥がもやもやする。


「それでも使用は出来るだけ控えてくださいね?」

「ありがとうございます。しかし日常でたまに使って見せる位なら影響はないですから。ははは」


 ハンソンさんも覚悟をもって国を支えようとしているのね。


「それで……この件にアイテムボックスが絡んでいると判断した理由というのは?」


 話が本題に入ったので私は先日見た光景の事を伝える。もちろん、それで宿屋に宿泊し深夜に街を徘徊していた事も。


「それは災難でしたね。しかしそんな状況だとすると任せている冒険者には説明もできませんなぁ。どう話したものか」

「え?」


 私が疑問を抱くのと部屋のドアがノックされるのは同じタイミングだった。やってきたのはレーアさんだ。


「失礼します。シスリさんとアルツさんが面会を求めております。一旦お断りしておきましょうか?」

「む? 彼らか。そうだな……」


 ハンソンさんはチラリと私を見る。


「あ、私なら別に。席外しましょうか?」

「そうだ。リノさん、ここに隠れていていただけますか? その方が早い」


 え? え? 私はハンソンさんが対応してくれているソファーから彼が個人で使用している奥の机のイスを引いたスペースに案内された。どうやらここに隠れておけと言っているのね。


「決して音は立てないでこちらの話を聞いておいてください」


 そう言ってレーアさんに二人を連れてくるように指示をだす。ハンソンさんは窓際の方に移動した気配がした。程なくしてドアが開いた音がして


「失礼しますギルドマスター。相変わらず可愛いご趣味ですわね」

「……別に趣味で鳥を世話している訳ではない。それより報告の件だろう? そちらにかけたまえ」


 というやり取りから会話が始まった。鳥ってハーピーが話を纏めた時の小鳥の事ね。ハンソンさんの趣味って思われてるのか。心の中でクスリと笑う。


「で、進捗状況は?」


 ハンソンさんがソファーの対面に座り問いかける。


「……思わしくありません」


 この声はアルツさんだ。


「色々と調べてはいるんですけど目撃者も全くいないんです。誘拐の類いでは無いようなんですけれど」

「これだけ痕跡を残さず人を消すとなると大がかりな組織が絡んでいるのではないかと睨んでいるのですが……」


(この内容。どうやらこの二人が失踪事件の調査をしているのだな)


 はこ丸が言う。それで聞いておけって事だったのね。


「実はな、この一件には魔物が絡んでいるのではないかと私は考えている」

「「!?」」


 !? 危うく机に頭をぶつけそうになった。いきなりストレートに持ち出すの?


「これだけ人の多い場所で目撃者も出さずに被害者だけ増やす。そして被害者の足取りは掴めない」

「……はい。仕事、年令、性別。失踪した人物に共通点も見られません」

「でもマスター? だからと言って魔物の仕業というのも極論すぎません? こんな所に出現すればそれこそ目撃情報が出そうなものですわ」


 シスリさんの言っている事も最もだわ。


「あくまで可能性だ。それとな。……ここ最近で以前と性格が豹変したような人物がいないか、それも併せて調査してもらいたい」

「性格の豹変……? 憑依系の魔物か変化系の妖怪……」

「お酒のせいではなく?」

「それはお前だけだシスリ」

「失礼ねアルツ。私は喋り方が変わるだけよ」

「ははは。確かにアルコールや精神的疾患等の可能性も否定はできないがな」


 (上手いな。核心には触れずに方向性を示す事に成功した)


 ハンソンさんは私の隠れている机の所に来て引き出しを開けたようだ。すぐに二人の前へ戻る。


「二人には期待している。だが危険と感じたら無理せずすぐに撤退しろ。これを渡しておく。くれぐれも慎重にな」

「……これは?」

「申請を出していただろう? 届いたばかりのダルーンの粉末だ。扱いを間違えるなよ?」

「! リノちゃんが持ってきてくれた分ね! さすがマスター、仕事が早い」

「私は許可を出しただけだ。彼女に会ったらお礼を言っておくんだぞ」

「うんうん。すでに言ってありますけどね」


 こうして二人は部屋を出て調査に戻って行った。私もハンソンさんと少し話をして別れ、市場の方に足を向けてみる。以前はここであの子を見つけたんだけど。時刻は夕方を少し回った所だった。

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