第23話 早すぎる別れ
「なにが……なにが起こればこんな……」
狼狽える私。でもヨーダさんは
「これは誰のせいでもない。私はねリノ。今どうしようもなく嬉しいんだ」
こんな事を言う。……嘘だよ。そんな姿になって嬉しい訳なんかない……
涙がぽろぽろ出てきた。ヨーダさんの顔の輪郭が滲む。
「私はあんたに『お帰り』が言えた。本当ならあんたがここに着いた時、私は物言わぬ土塊に姿を変えていた可能性だってあった。最初から時間はあまり残されていなかったのさ」
あ……でも私が寄り道とかしなければもっと早く帰ってこれたかもしれない。はこ丸もハーピー達も何も言ってなかったしこんな事は想像できなかった。
「でも……私は寄り道みたいな事も……」
「いいかいリノ。いやハコワン。あんたに今最も必要なのは色々経験する事なんだ。残された時間の少ない私と話す事の方がむしろ寄り道さね」
私は思わずヨーダさんの左手を両手で握りしめて叫んだ。
「違います! ヨーダさんは私の心情を理解してくれた私の師匠みたいな人で……会ったばかりだけどまるで私のおばあちゃんのような……」
「そうかいそうかい。私もあんたにはどこか懐かしさを感じていたんだ。ありがとうよ」
ヨーダさんの左手はまだ完全に石になってはおらず所々から温もりを感じる。……そうよ。私だけじゃない。この温もりに癒されていた存在が他にもいたんだ。
私は俯いていた顔をあげる。
「ナイト! ハーピー! 出てきて!」
瞬間私の両側にナイトとハーピーが出現。すぐに状況を理解したナイトとハーピーに緊張が走る。
「ナイト! ハーピー! あなた達のマスター、ヨーダさんへ想いを伝えなさい! 今すぐ」
今この場にいなければならない者達がいる。私よりふさわしい者達が。
「ナイトとハーピーの同時召喚……これをすでに行えるのかい」
ヨーダさんが驚いたみたいだけどすぐにナイトやハーピーと話始める。
「ナイト、ハーピー……最後まで私の我が儘に付き合わせて悪かったね。我が儘ついでにこれからも……この子の事を頼んだよ」
「お任せくださいヨーダ様。この命に代えても必ずやお守りいたします」
「あたり前よヨーダ様。だって……こんな理解力のある最高のマスターなんていないもん。リノ様と引き合わせてくれて感謝してますわ」
ハーピーの顔も涙でぐしゃぐしゃだ。ナイトも心からの悲しみが伝わってくる。
でも私のすることはまだ終わってない。
(はこ丸!)
(な、なんだ)
(あなたの言いたい事はあなた自身で伝えなさい)
(いや、私の声はもうヨーダには……)
そう、契約者が私になってしまったからヨーダさんにははこ丸の声は伝わらない。
(でも方法があるのを私は知っている。私はあなたと話をしたんだから)
(!!)
以前アイテムボックスの真実をはこ丸から聞いた。ヨーダさんの身体を通して。
(あ、あれは今のリノではとても無理だ。例え出来てもかかる負担が大きすぎる)
私は動じない。もう覚悟なら決めている。
(はこ丸の想いは伝えなければいけないの! 逃げちゃ駄目だよ絶対に後悔する! ヨーダさんは『今でも』あなたの相棒なんだから!)
(!!)
……ヨーダさんの左手を握る私の力が少し強くなった。
「どうしたんだいハコワン?」
それを感じたのかヨーダさんが呼びかけてくれる。
「……ヨーダ」
ヨーダさんの左目が見開かれる。
「あんたまさか……はこ丸かい?」
「ああ。ハコワンが無茶をしてくれた」
ヨーダさんの左目から涙が溢れる。
「そうかい。そうかい。……神様も最後に粋な真似をしてくれるじゃないか。この子の才能は私をはるかに超えると確信したよ」
それだけじゃない、とはこ丸が続けた。
「ハコワンは優しく芯が強い娘だ。全てヨーダの言った通りだったよ」
「ほら見た事かい。私もあんたに付き合ってここまで長生きしてないんだ」
ヨーダさんが涙声でニヤッと笑う。
「ああ……本当に長い間世話になった。ありがとう、ヨーダ。……最高の相棒」
今流れている涙。これは絶対に私だけの涙じゃない。
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