第4話 会合
「どうだい、応答あったかい? 」
「いやぁ、だめですね〜。全く応答ないです。うんともすんとも言いません〜! 」
ここはとある異能力者が集まる廃ビル。
それを人が住んでも問題ない程度に修復した。そういう建物はこのビルだけでなく、ビルを含む街の全てが、人が住まなくなり廃れた荒地をとある異能力者の一人が再建したものに当たる。
この街は元々、東都における西部地区の中でも比較的自然溢れる街として市が多く存在していたが、ある時。異能力者の暴走事件が起こったことが要因して殆どの人間──多くは異能を持たない非能力者──が西部地区を捨て去っていった。事件以後の人の退却は緩やかに続いたが、事件を機に、鬱憤の溜まっていたのか潜在していた複数の異能力者たちが暴れ回る事態も発生し、それが最後の後押しとなって西部地区はもぬけの殻となった。
そんな中、これ幸いと西部地区と東部地区──ここでいう東部とは東都の大半を占める都心の事を指す──の境目だったところに、一際目立つ大きな防壁を一晩で作り上げ、異能力者が安心して暮らせるようにと、たった一人の異能力者がそれのためだけに街として作り直した。
そして、そんな経緯で作られた街の中で一番状態が良かった廃ビルを改造して暮らしているのが、一つの街を一人で作り上げた異能力者を組織の長として、その元に集う指折りの異能力者たちである。そんな風に多くの実力ある異能力者たちが集まるビルで、一際大きい会議室の一室に主要な人物らが何やら会合をしていた。部屋の中心にある楕円型のテーブルや椅子にその複数と人が座っており、皆、一様に一つの事柄について話し合っている。
議題はというと、組織の長が行方不明で連絡がつかない──という、なんとも頭が痛くなる議題だった。
「参ったね、反応さえ返ってくれば特定して突き詰められるんだが。返っても来ないとなると探すしかない。お前たち、捜索頼めるかい? 」
──にゃおーん。
どこからともなく、猫が現れ、姿を消した。黒髪と金色の瞳を持ち、独特な話し方をする彼女──
実のところ、本人も猫に変身することができ、どちらかと言えばその能力が本懐ではあるのだが、本人の意向であまり使ってはいない。
「監視カメラ、いくつか侵入して映像遡ってるけど街の付近には戻ってこれなかったみたいだね。どーすんの、これ」
かたや、会議室の一角に積み上げられた複数のモニターが連なるパソコンデスクの前に座ったまま、また違う異能力者が報告をあげる。
精神感応の一種で、モニター含むPCを媒介にネットワークに侵入しハッキングを行える異能力者だ。十六歳なったばかりの少年だが、異能力者集まる街を防衛するためのセキュリティシステムも彼がほとんどを形成している。
「ほな、あいつの状態はどうなんや? 一番最後まで近くにおったんは
横から関西弁で左目を隠しているのが特徴的な女性が進言する。埒があかへん、とでも言いたげな風貌だ。いつまでも同じ話を繰り返している会議に匙を投げた、といったところだろう。
ちなみにその
それを、組織に所属する治癒能力者によってひとまずの一命は取り留めた──らしいが、状況はまだ報告を受けていない。
「水城なら、最大でも一、二週間は目覚めないだろうよ」
「なんや、
「今、手が空いたんだ。俺がここに来たのはついさっきだよ」
「どっちでもええわ。で、水城の状態はどないなん」
「いくヱ……お前な、まぁいい。報告する」
多少の小競り合いを経て、紫音と呼ばれた中性的な人物は状況の説明を始めていった。
* * *
「──というのが、水城の状況だ。しばらくは目覚めないだろう。それに、
紫音の言葉に空気が重くなった。万事休す、打つ手無しとは正にこのことだ。こうなってくると、あとは地道に少しずつ行動範囲を広げてしらみ潰しに捜索していくしかない。
「結局、
はぁ、なんだったんだこの会議。とぼやいてPCをいじり始めた少年──
「万事休す、だね。分かった、しばらくはアタシので感覚広げて捜索するとするよ。それから何か分かれば、ちゃんと共有する」
──じゃあ、解散!
紅蓮のその一言によって、会議はお開きとなった。
────栗原未散が失踪してから、三週間がたった日のことである──。
東亰異能譚──夜もすがら 神流月 @sino2me_825
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