第2話 衝突、そして
四、五階以上はあるであろう建物の屋上にぬるりと人影が現れる。夜闇に紛れるためなのか、その人影はほとんど黒に混じって只々そこに立っていた。反対に、建物と対峙するような位置に何かが浮いている。それは武装ヘリや戦闘機、無人機などが夜の空に蔓延していて、その空はおどろおどろしさがあった。だが、建物でひとり佇む人影は臆することなく、たじろぐこともなく立ち続ける。誰かと話しているようだったが、すぐに前を向いた。今にも攻撃を仕掛けんばかりの気迫。時期に人影の周りには黒い渦が浮かび、その黒い渦にはこの世の物ではない気配が感じられる。また、人影は笑ってみせていた。
空に有り得ない何かが浮いている。夜の空すら覆い被さるような影が。
その影は髪の長い女性が発生させているように見えた。バッと佇む人影へとヘリの照明で明るく照らされる。女は若いように見えたが、有り得ないほどの殺意を身に纏って笑っていた。それも表情に狂気を滲ませて。
武装ヘリに乗る者も戦闘機に乗った者さえ、目を疑ったことだろう。何故なら、そこに立っていたのは。国家謀反者名簿にも名を連ね、特定指名手配犯としても顔を知られている──過激派閥の異能力者が立っていたのだから。
彼女の存在に気付き、事の重大さに気付いた操縦士は武装ヘリから攻撃をしかけたが、もう遅い。空中に大きな黒い渦、空間の歪みができていて次の瞬間、弾丸やミサイルはその渦に全て吸い込まれた。
「邪魔だよ退いて。君たちに構ってる暇はないんだ」
新たに無数の黒い渦が浮かび、武装ヘリたちに刃を向ける。それに合わせて、爆発音が一つ、二つ、三つ。全ての武装ヘリが闇夜に消えた。きっと、対峙してしまった者たちは生きては帰れない。日付が変わったその夜、知られざる戦いが幕を開けた────。
* * *
「はぁ……、はぁ……っ」
酷く怪我をした女性が、降りしきる雨の中をずるずると歩いている。もう足もほとんど動かせなくなっているのか、引き摺りながら進む。横腹にも傷があるのか左手で押さえて、背後には自身から流れる血で道を作っていた。が、幸い雨のおかげで跡には残らないだろう。
朦朧とする意識の中で、一刻も早くあの場を離れようとなんとか身体を進ませていた。何故、そうまでして逃げたいと思うのか、それすら分からなくなっている。ただ、ただ逃げなくては──その意識だけでひたすら動いた。
だが、もう体力は限界を迎えていたようで、更に雨にも打たれているから体力も奪われていく。
ふと、何を思ったのか立ち止まって顔を見上げた。女の目にはじんわりと光が入った。暖かな優しい光だと感じた。それが何故かは分からないけれど。どうやらその光は一軒家から発せられていたらしい。まだ決して安心すべきではないはずなのに、そのまま、眠るように女は意識を失った。
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