その五 耳
知らぬとや? 知っておろう。知らぬ筈はない。
時にどうぢゃな、この眺望は?
ほれ、右手に、ヌグ・ダワンの
見えぬとや? 見えておろう。見えぬ筈はない。
わしのように、
何? 何と!
はっは! もう暮れておるのか。はっはっは……
さあれば、道理。さあれば、道理。
いやな、わしは昼夜を分かたぬでな。なにせ、
今日は
目は曇る、年は取る――、かくなれば、心も
さてさて、さあれば、さあれ――
そうか、そうか。さもあろ、さもあろう。
さてさて、
しらしらと――見えてはおらぬか?
流るる闇の
そうか、見ゆるか。
その白き
見れば
硬き、冷たき、白き
なあに、鳥の姿をしておるというは、いかにも
仮に、
耳ぢゃ。耳をば、まっすぐに走らすのぢゃ。
耳こそ、
耳を用うるは、ただ音に聞くばかりではない。
さよう――
耳をもって眺め、耳をもって嗅ぎ、耳をもって触れ、耳をもって味わい、耳をもって思案することぞ。これこそ、肝要。
そろそろ、よかろうか……
ほれ、そこに、革袋があろ。青鰐の革の……
さよう、この袋。この中に、みな揃うておる。打ち金も、打ち石も、
打ち金の先でカラズマを少しく削って、火を点けてみるがよい。
ほう、点いたか。よい香りぢゃな。
この香に引かれて、渡り始めたものもおろ? どうぢゃな?
見えぬか? 目のみで見るでないぞ。目のみでは見えぬ。
耳を利かせなんだら、見えぬものぢゃ。
耳の穴をすらりと開け、耳の
見えぬか? どうぢゃ?
そなたのその、
二つの
目と耳とを繋ぎ、耳と鼻、耳と舌、耳と
カラズマの香を、総身の毛の先に、ことに、耳の毛の
渡りおろ? 渡りおろう?
ほれ!
まこと、
<了>
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