ザ・ベスト・ウォー

西住ウォーモンガー

プロローグ 第0話  「西方戦線の戦争狂」「悪魔の中隊」 

「他の人間は戦争を否定する。だが、俺は戦争を肯定する。戦争は俺にとって最高の娯楽なんだ。」


1940年12月21日。敵国イティメノス共産国領内、工業都市キテイテッケ郊外、西方方面第一戦線


それはクリスマスを3日後に控えた、とある大国対大国連合の戦争中のとある塹壕。まずは、主戦場である二つの大国の名前を紹介しよう。「スリアンヴォス・インペリウム」帝国と「イティメノス」共産国。


イティメノス国の反撃は領内へと侵攻、占領して行くたびに苛烈さを増す。この西方戦線でも、アンヴォス・インペリウム帝国側が劣勢となっており、イティメノス共産国側の砲弾による雨が降り注ぎ、至る所で爆発が起きる。共産国はその味方の砲撃により士気を回復していたが、逆に帝国軍の士気は全く進まない戦線、そして寒さによって士気の低下は止まらず、自殺者も2桁ではあったが、日に日に増えていた。


だがこれを不幸中の幸いと言うのだろうか、補給だけは最低限の物がしっかりと毎日供給されていた。砲撃を受けている帝国軍の兵士達はその狭い塹壕内で、雨の様に降ってくる砲弾の爆発音に身体を震わせながら自分の所へと砲弾が降りて来ない事を祈った。しかしそんな中、血と泥、嘔吐物等が混じった地面に足を伸ばし、下を向き葉巻を吸いながら、余裕をかまして座る男がいる。


「戦争と葉巻」以外、何もいらねえ。」


俺が…ガキの頃から望んでた「戦争と葉巻」。戦争という物はただでさえ、俺にとって最高の娯楽なのに、葉巻がこの戦争という娯楽を更により良い物にしてくれる。まったく、「戦争と葉巻」を産んだ人は偉大だぜ。これらを産んだ人達はおそらく現人神なのだろう。まったく、崇拝が止まらないぜ


「班長!どうか元の場所に…!」


こんな素晴らしい状況、下がってられるか。大国と戦争という一大イベント!一生に一度しか経験出来ないかも知れないだろうに。ああ、無論、俺はこの戦争で沢山敵や民間人を殺すつもりでいる。だが、死ぬつもりは無いし捕まる気だって無い。あー……いや、訂正させてくれ。読者のみんな。


「おい、俺らの班の機関銃手の機関銃とありったけの弾薬を俺の方に持って行けと報告しておけ」


やっぱりな、やっぱりさあ、別に、別に殺さなくてもいい。寧ろ生かしておきたい。戦争という物は敵がいるからこそ成り立つ。楽しいこの戦争を長引かせる為にも相手側の敵は一人でも殺したく無い。無論民間人もだ。民間人には愛する者などに傷を付ける程度でいい。そうすればくだらない復讐心などに駆り立てられた者達は進んで軍隊に行き、更に兵士が増える!これが戦争のサイクル!「す・ば・ら・し・い」


「しかし班長!我々の班は完全待機命令が!」


うるさい。非常に。非常にうるさい。敵が頑張って綺麗な銃声と爆発音を鳴らして盛大演奏会を披露してくれているというのに、こいつが遮ってやがる。先程言った通りにはいかんな・・・敵だったら即射殺だ。


「上官命令、はよ!任務を果たせ!」


「り、了解…、二等兵、班長殿に機関銃と弾薬を!」


なんだこの上官はぁ!?何故こんな奴が兵士にっ!しかも何故中隊長に?!頭の悪いガキじゃあないかっ!こんなのではまた早死にする!


突っ込む所はそこでは無いよ優秀なる部下さん。と言いたい所だが、補給役の新兵から機関銃と弾薬を受け取った中隊長は早速、機関銃を取り付け、50mはあろうかという弾帯を取り付ける。


「ど、どっがらそがあなもんを?!」


横にいた田舎訛りの兵士が、中隊長と言われる男が何処から出したかわからない長大な弾帯に驚愕する。……のも束の間、彼はその弾帯を取り付けると、血管ピクピク、口は気味が悪い程に笑いを浮かべて開き、目は血走る狂気的な顔面となった。彼が口を大きく開いた事により葉巻は地面に落ち、その汚い地面に転がっていく。


「なんだっ!?いきなり機関銃を撃ち始めたぞっ!」


「何処を撃っている!?陽動か!?」


彼が放つ機関銃の銃弾は掠ることもなく、土に混ざっていくか、空気を切り裂いてどこかに着弾していく。しかしこれまで楽観的であった共産国の部隊はいきなり発せられた機関銃の音によって危機感と緊張感を取り戻す。眠っていた者も叩き起こされた。


「ハハハハ!!頭を出せ!俺らの愛銃にキスしろ唇共!!!」


参考に芋の様に隠れるこちらと同様、敵も同じく芋の様に塹壕に篭っており、完全に射線は通っていない。難しい解説はいらないだろう、これは完全に無駄撃ちである。しかし、その後の展開をどうするに於いて、これは実に戦術的価値のある行動であった。しかし味方も敵もその意図を理解出来ない。


「貴様ァ!何を勝手に撃っている!命令違反だぞ!」


彼にこの豚の喘ぎ声は届いていない。彼は無我夢中で機関銃を撃ち続ける。


「なんなんだあの機関銃手は!?撃ち殺せ、撃ち殺せ!!」


鬱陶しく思い始めた敵の指揮官は、機関銃を撃っている彼に対して攻撃を開始する様声をかけた。だが、こちら側の銃弾が当たらないのならば、敵側の銃弾も当たるはずもなく、彼同様に敵の皆々が牽制、或いは長く続く轟音に恐怖した新兵が撃ち続ける。


「黙れ!お前の銃分解しちゃうぞ!おいっ!銃は持ったな!5秒後突撃だ!」


上官相手でも容赦なく私語を使い、暴言すら吐く勢い。挙句の果てにはあまりにも身勝手な判断で「突撃をするぞ!」と言い出す始末。完全に気狂いである。いや、無謀な挑戦者と言った所だろうか


「突撃ィィィァァァァァ!」


彼は軍帽を深く被った後、勢い良く塹壕を飛び出し、突撃中の銃剣は真っ直ぐ敵に向け、前傾姿勢を更に深く、更に深くして、馬の様な速度で荒れた地を掛けて行く。敵はその衝撃に畏怖していた。だが、機関銃、その他敵が放った銃弾が彼を目掛けて一目散に飛んで行く。一つも当たらない、という奇跡など起こる筈もなく、首や、右肩、右足に被弾、負傷する。


「ハハハハハ!!!」


だがその走る速度は落ちる事もなく、よろけたり、躓いたりする事もない。彼が被弾した所からは血が流れ、まるでキラキラと赤い星の様に明るく、落ちて行く。彼は被弾した所が感じる感覚を、快楽や不快感、痛み

などでは無く、感情である「楽しい」という物を身体に感じ、笑っていた。


「なんだあの兵士は!?このままじゃあ一人で敵の塹壕に到達するでは無いか!!」




「撃て!撃ち続けろ!何故一人で!何故一人でっ!何故一人で突撃してくるのだァァッ!!」


そして中隊長と呼ばれる一人で突撃してきた男は、勢い良く敵の塹壕へと向かってジャンプし、その下にいた者の脳天に銃剣を突き刺す。


「アッ」


機関銃をいきなり撃ち、援護すら無く、一人で無茶苦茶な突撃をし、挙げ句の果てには自分達の陣地に突入してきた化け物。被弾した部分は血に染められ、軍帽は深くかぶっている。そして表情は正に先ほど言った様な化け物の様な物となっている。そんな彼に、敵は恐怖ではなく、「こいつはやばい」と先に生命の危機を感じたのだ。


「ぐもーにんぐ!ようやく話せたな!?」


「クソ!撃つなっ!味方に当たる!」


全く最高だ!最高としか言いようが無い!今のこの状況に合う言葉が、これ以外にあるだろうか!?いや無い!流石は戦争!いつも俺に最高の時を与えてくれる!ああ、敵の顔がよく見える!彼等の汗一滴すら良く見える!銃を手に持つ感覚が変わった!


「ぐぁぁっ!」


「早くこちら…に…」


彼等はたった一人の敵に夢中になりすぎていた。他の地点の者が、スリアンヴォス・インペリウム帝国側の部隊が突撃して来ている事に気付く。これは彼等の大失態。たった一人の敵兵に夢中になりすぎたのだ。彼らがたった一人の相手に対処している中、既に帝国軍は敵の塹壕の半分までの地点に到達しており、このままでは大規模な白兵戦になる。


「は、早くそいつを早く殺せ!他の奴らはクソ共を撃てっ!」


「何処見てるんだぁ!?俺だ!俺は敵だ!」


展開が速すぎる。複数人が彼を囲んで近接戦に挑むが、ことごとく簡単に殺害される。たった一人の兵士が、塹壕内を駆けて、駆けて一撃で、次々に殺して行く。そして敵側の小隊長だろうか、死の直前、彼はこの人物が何者なのか、銃を突きつけられ、衝撃を与えられた様に思い出す。


「お前、「西方戦線の戦争狂」か」


目をギラギラと、顔に血を濡れさせた状態でその「西方戦線の戦争狂」が返事をする。


「ご名答!君はヴァルハラ行きだ!」


彼はポールダンスをしている。敵の塹壕で。敵兵をポールの様に使い、他の敵に飛び乗って首にナイフ刺して、次々に同じ様な殺傷方法を行う。彼が他の敵兵に飛び乗る時、既にポール役の敵兵は死亡している。


「ああ」


自分達の仲間の血で染まった戦争的な笑みを浮かべる顔、彼の性格を象徴するかの様に血に染まり、揺らめく軍服。深く被った軍帽、僅かに見える彼の目、長く見ていたらまるで吸い込まれそうな程に狂気的で恐ろしさを感じる目。だが、その目は自分を暗黒に引きずる事はせず、寧ろ合わせようとしない。だが、目の前で起こっている現実を見て、敵兵の一人は悟る。


「ああ、もう駄目だ」


その敵兵は、横から飛んできた銃剣によって左後頭部を刺され、真顔で息絶える。


「制圧しろ!急げぇ!」


帝国軍の兵士達は共産国側の敵兵をナチスドイツで行われた「缶詰イワシ方式」の様に、塹壕にいる者達を上から連射式の銃や手榴弾で片っ端から殺して行く。


「道連れにッ」


足が壊死し、視力すらもう効かない瀕死寸前の敵兵が、這いながら手榴弾のピンを抜き、彼の足を手と口で思いっきり捕まえる。


「最高だ君は!君がヴァルハラに行く事を俺は祈ろう!」


と言いながらも、瀕死の敵の手榴弾を持っている側の腕を思いっ切り踏み、切断させる。だが、自分がこれから敵を道連れにして死ぬという覚悟を持っていた者から叫び声が上がる事はない。だが、この敵は状況を理解できていなかった。敵は手榴弾を持っていない方の腕が切られたのだ、と勝手に錯覚していた。彼はその切断した腕と手榴弾をすぐに拾う。


「ざまあみろ…絶対離さない…」


だが、その「戦争狂」は切断した腕と共に、手榴弾を空高く投げ棄てる。その2秒後、空で爆発し、血肉が雨の様に降ってくる。爆発音と共に、その爆風で、彼の軍帽は飛ぶ。「華奢」な顔に浮かんだ「狂気的な表情」と共に彼の目がよく見える様になる。「水色」の左眼と「金色」の右眼。彼の性格からは合わない目の綺麗さ、そして女にも負けず、なんなら間違える程の女性に見えてしまう顔の良さ…


そして、先程の敵は、殺したという虚無の確信と、虚無の喜びを得て、何も達成出来ずに絶命する。その後、塹壕にいる敵は粗方殲滅されるか、捕虜となった。


「班長ー!」


彼の部下である人物が、衛生兵と通信兵を横に連れてこちらへと物凄い焦った表情で走ってくる。


「班長、ご無事でっ…いや、重症じゃないですか!衛生兵!!」


「衛生兵!!」と、大きい声で呼ばれると横にいた衛生兵は直ぐに彼の応急処置をしようと、包帯等を取り出した後、近づく。


「ああ、待て…葉巻でいい。」


「クリーク班長」…貴方はいつも「何か」を吸っている。まるで吸血鬼だ」



1940年12月21。敵国イティメノス共産国領内、第三首都シュテルクス卜郊外、西方方面第三戦線



「機関銃手、楽器を鳴らせ!アンコールしたくなる程の素晴らしい演奏を!」


私は「戦争狂」ではないが、これ程までに圧倒的だと、気持ちいいと思えてしまう。いや、感じたくはないが。中隊は私の指示でこちらよりも屈強で、数の多い敵を肉の塊にしていく。止まらない銃声が敵を襲い続け一兵残らず駆逐して行く。


「少尉」が指揮する中隊は敵の2個連隊を相手に正に大虐殺と言えるほどの奮戦、無双を繰り返していた。その年齢からは思えない程の判断能力、指揮能力。この交戦は後々に伝説として語られる事なるが、その部隊の指揮官である「少尉」も後々に伝説となる。


「少尉」殿、敵の数が増えています!御対応を!」


決まっている。殲滅だ。しかしここまで敵の数が多くなるのは流石に予想外だった。私もまだまだ未熟だが上層部はそれ以上に未熟だろう。何せ10個師団相手に3個師団しか回していないのだから。ここまで奮戦、連戦連勝をしている私達を褒めて貰いたい所だ。勲章10個では済まない。


「第三、第五分隊押さえつけろ!足止めでいい!前にも後ろにも行かせるな!」


少尉の部隊は敵を包囲すべく、細かく分散、幸い自然的に塹壕の様な地形が形成されており、その地形を利用したゲリラ的な作戦で着実に戦果を伸ばしていた。


押されている、追い詰められている様に見えるが、多数を相手にするのならゲリラ的攻撃は有効で有り、敵も知らず知らずの内に味方との距離を縮め、少尉の部隊による包囲陣形が完成されつつあった。少尉は大胆にも無線機のオープン回線で敵の指揮官に対し挑発を実行しようとつなぐが、先に声を発したのは敵側であった。


「正々堂々戦え貴様ァァァ!!」


この世界では初の大規模な戦争、通称「第一次世界大戦」が勃発していた。その為ゲリラ戦術は存在し得えなかった。だがこの戦術を発案、初めて戦場で使ったのが少尉、彼であった。その為この戦術は味方、敵問わず「卑怯」だと言う声が上がっていた。


「戦争に正々堂々もクソもあるものか!」


通信兵の横で通信機に向かって大声を浴びせ、受話器を壊す様な勢いで置く。その光景は指揮官、としてはあまりにもおちゃらけていて、戦果をあげていなければ、良い上官として見る事は出来ないだろう。彼は軍人で、勝つ為には手段を問わない性格であり、戦争犯罪上等であった。…と「読者の皆様方」に説明しているとどうやら敵が漸く自分達が包囲されかかっている事に気付いたらしい。


「包囲されている!包囲されているぞ!!」


「助けてくれ!助けてくれ本部!!」


敵兵は阿鼻叫喚を極めた。少尉はもっとやれ、もっと殺せと部下に命令し、部下はその命令を着々とこなす。少尉の中隊は僅か300人。しかし死者を「出す事なく」抵抗する総勢8000人の敵兵を容易に虐殺し続けた。


「少尉殿!敵小隊沈黙!戦果確認、敵部隊全滅!素晴らしい指揮です!」


御苦労!全く優秀な部下を持っているな私は。優秀な指揮官と優秀な部下。この二つが組み合わされば戦争は大体勝てるのだ。それは歴史が証明している。


「了解した。第二小隊が現在交戦中。敵部隊の横っ腹に着いて味方の援護をしてやれ。さあ、進め!」


敵部隊への更なる攻撃は止む事なく、中隊はプレス機の様に包囲された敵を押し潰し、機関銃手は目の前に現れた敵に対し、引き金を引くだけの簡単な作業!小銃を持った兵士も目の前に現れた敵に引き金を引くだけの「作業」!!


「なんて指揮だ…敵大隊を殲滅できるぞ…!」


何度も同じ様な事を強調するが、少尉の指揮はあまりにも完璧で完成され尽くしている。敵が突破出来るようなきっかけを一つも見つけられない。他の指揮官と比べ、この少尉が何度も強調される程に優秀である事はもう皆がお気づきだろう。


「第四分隊!定めた地点に戻れ!第一小隊が機関銃持って敵にぼったくりをかける手筈になっている!」


敵がヤケクソで反撃して来たか。このまま敵を誘導し分隊を一時的に変更した目標地点まで全速力で帰らせる。まだまだ機関銃を撃って踊ってもらおう。


敵兵達は少尉の指揮する部隊の急速な侵攻、猛烈な火力により撤退を繰り返し続けたが、その撤退した地点ですら「少尉」の誘導であり、敵兵達は自分達よりも少数の部隊に翻弄されている事に恐怖を感じていた。そこにはザ・軍人なんて言える様な者はいなかった。味方もその自分達が挙げている巨大な戦果に驚きを隠し得なかった。


「少尉殿!これは一体!?敵を包囲したのですか!?」


「ああ。もう一押しだぞ諸君。さあ任務を遂行せよ」


少尉はその若さに似合わない卓越した作戦指揮能力。彼は一瞬悩む事すら無く、次々に的確な指示を打ち出す。少尉が手を振りかざし、部隊は発砲。指示に従う者達は次々に戦果を挙げる。正に洗練に洗練を重ねた戦争マシーン!と言いたい所だがそれどころでは無い。虐殺の指揮マシーンだ。


「友軍戦車部隊到着!予定通りです!完全に敵部隊を包囲しました!」


増援に駆けつけたのは戦車部隊。戦場の天使である。キャタピラからキュルキュルという素晴らしい音ととエンジン音を上げながら躊躇なく敵を轢き、逃亡する敵兵にも容赦なく浴びせ続ける。歩兵にとってこれ程頼もしく、最も欲する戦力は他に無いだろう。


「全体前進!追撃せよ!蛆虫を一匹も残すなッ!」


敵名は軍人の義務を放棄し、迫り来る敵兵達と逆の方向へと我先にと逃げ出す。だが「少尉」の指揮する部隊は既に包囲を完成させており、逃げた場所にも敵兵、違う所に逃げても敵兵がおり、背中を撃たれていく。一撃で死ねた者は幸運だろう。死ねなかった者は戦車に轢かれて行くのだから。戦車は轢くだけで無く、砲から爆炎を挙げ射撃、敵の四肢を切断、人の形を跡形もなく消失させる。


「少尉」率いる部隊はほぼほぼ単独で敵軍の2個連隊を完全に全滅させ、その後の戦闘でも大きな戦果を繰り返し挙げ続ける。その部隊は最早敵側に戦車大隊以上の「脅威」と認知され、安直なネーミングセンスだが敵味方問わず、「悪魔の中隊」と呼ばれる様になっていた。少ない戦力で連隊、果てには「旅団規模」の部隊すら翻弄し、戦場での勝利を欲しいままにしていた。


「馬鹿な…!一個中隊に旅団が壊滅させられたというのか…!?」


敵の前線司令部は動揺を隠すことが出来ない。如何なる部隊を送り込んでも殲滅させる事が叶わないのだ。その強大で小さい戦力は遂に軍隊の最上層部にまで認知され、少尉の首には賞金が懸けられた。たかが一人の少尉にだ。少尉の部隊は進む度に敵を翻弄し、その都度に勝利を収めていた。


部隊の隊員は絶対的な勝利の自信に満ち、その勝利した経験は新兵を精鋭に進化させた。屈強な兵士達で編成されたこの部隊は他の部隊を遥かに上回る戦力を保有し、果てには参謀本部が「少将まで一気に昇進させよう!」と議論し、紛糾させる程だ。この案は多少規模を小さくしつつも、戦時任官として「少佐」となった。


「悪魔の中隊」が来るぞ!撤退だ!」


兵士全員が満遍なく血で塗られた野戦服を着用し、一目見ただけでその脅威を理解する事が出来る。少尉の中隊が来る度に共産国の部隊は撤退し、中隊への攻撃は正面からではなく、奇襲や狙撃などの比較的安全が高い戦術を取っていたが、その様な物は部隊にとって関係無く、襲ってきた敵兵は必ず無力化されていた。


敵兵の恐怖は一人の「少佐」に定められた。暇なく道を「少佐」の兵士達が走って行く。遠くの敵を殺す為に。


「大将殿。報告です!例の「少佐」の指揮により「一個歩兵中隊」で敵主力部隊と思われる2個連隊を殲滅!他にも大きな戦果を記録し、同戦線の進撃に大きく貢献しています!」


第四帝国のとある軍事施設。そこでは大将が将来軍人となる年端もいかない「少女」に対し軍事知識を学ばせる為同行させていた。普通は、この様な歳で有れば自宅で人形のおもちゃ片手に遊んでいるだろう。彼女は所謂根っからの軍人気質だ。服装は女の子の「お」の字すら感じない特注品の軍服を清楚に、可憐に着用し、腰にサーベルをぶら下げる。その姿は少女では無い。軍人であった。


「そうか・・・報告ご苦労。私の愛しい「娘」よ。ではこの指揮官…「シュテックハルト」君を…どう思う?」


「この中隊の強さは個人の兵士の能力では無く、全て指揮官によって発揮されていると思います。」


なんて人だ。こんな指揮を一人の少佐が…?ありえない!事実だとしたらこの人は元帥級の能力を持っていたとは…!す、凄い…!とその少女は心の中でそう動揺する。


そして彼女はその報告を聞いただけで、例の少佐に対し憧れを抱く。彼は一人の軍人、少女の自分が目指すべき未来の道を定めたのだ。


舞台は変わり総帥官邸。そこには第四帝国の元首が側近を従え、一室で会議を行っていた。


「はい、総統閣下。共産国侵攻は上々であり、予想を越え、かなりの速度で侵攻、兵站についてもその速度に対応することが出来ています。そして、とある「中隊」が他の隊と比べ多くの戦果を挙げています。」


「その部隊についてはのちに詳しく聞こう。しかし、流石、帝国の若者と英雄達だ。彼らの前ではどの軍隊でも恐るるに足らん。」


「そうですなあ」


「ごもっともでございます」


「侵攻に際して他国は我々に宣戦布告いたしましたが、・・・今の所動きはありません。我々の強大な力に恐れを為し、今頃慌てて作戦を練っているのでしょう。しかしご安心ください。いつでもどこでも、我が軍が敵を殲滅致しましょう。


「そうだな」


元首は呟く様に側近にそう返す。短い言葉で済ませる元首の心を部下達は掴めずにいた。何か悪い予感はあったそうだが。


共産国は、全戦線において防衛戦を展開、その後反撃の用意が整った日…「12月25日」に大攻勢を開始するが、「西方戦線の戦争狂」と「悪魔の中隊」の活躍が大きく現れ、戦車1500両、航空機1000機、40個師団以上を配備した、国の存続を欠けた大攻勢に、戦車を全て喪失、航空機は100機まで削られ、残った師団も12師団、しかも全てが定員割れという大損害を喰らい、「決定的」な敗北を喫し、1940年、12月27日に「イティメノス」共産国は「敗者」となり、逆に「スリアンヴォス・インペリウム」帝国は無敵の国家として、名を馳せた。


その後、共産国を打ち破った帝国軍は他に抱えていた戦線に、「悪魔の中隊」と「西方戦線の戦争狂」を派遣し、悪魔の中隊は、中隊としては異例の本部長属となり、「試験的特殊部隊」として少々の再訓練を施される。


だが、「西方戦線の戦争狂」は更に異例で、大戦果を挙げたにも関わらず昇格どころか伍長へと降格となる。それもその筈で、彼は度々、なんてものではなく、1時間に10回は命令違反、勝手な行動を起こす為、この様な処置となった。だが彼が命令違反、軍法によって死刑にされなかったのは、一人で「大隊並みの戦力」を持ち、戦況に良い大影響をもたらし続けたからだ。


だがクリークは階級に見合わず、大隊長に任命される…尚その隊の人数は指揮官「一人」である。


「うせやろ…」


一方、シュテックハルトとその中隊の訓練地の光景は…


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


阿鼻叫喚である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ザ・ベスト・ウォー 西住ウォーモンガー @waffenss

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ