黄金の砂丘

 オスタールの国土は、そのほとんどが砂漠である。

 北の方へ行けば、火山地帯へと続く岩石砂漠。それ以外は砂の砂漠。

 一歩オスタールの町を出れば、そこは地平の先まで照りつける太陽に炙られた、真っ赤な熱砂であった。


 オスタールの町を出たわたしは、ローブを目深にかぶり、広い砂漠へ踏み出した。

 青い空と砂漠の境界は陽炎に揺らぎ、乾いた砂がいくつもの丘を形作っている。

 わたしは、一度この砂漠をひとり静かに歩いてみたかった。

 黄金色に輝く砂の丘をこの目で見てみたかったのだ。


 だが実際に歩いてみれば、そこは現実と地続きの砂漠が広がるばかりで、いつかわたしが夢想していた砂漠の姿とは、少しばかり違っているように思える。

 太陽は真っ白で、見つめていれば目が潰れてしまいそうなほど眩い。あまりの暑さに皮膚が焼けそうだ。

 夢想していた砂漠より、本物はもっとずっと厳しい。


 いつも新しい土地へ行くたびに、幻想は広がり、そして強烈な現実に夢は打ち砕かれていく。

 ひとつ丘を越えても砂丘はどこまでも広がっていて、ひとつ上っては下ってを繰り返していく。柔らかい足場にまだ歩き慣れず、何度か足を取られそうになる。

 熱風に砂は舞い、砂丘の上を、砂がさらさらと流れていく。


 わたしはひとつの丘の上に立つ。眼前には果のない砂漠が広がり、強い太陽の光に照りつけられ、黄金色に輝いていた。

 丘をひとつだけ越えれば、昔抱いていた幻想は朽ちていく。

 そして歩くたび、昔のわたしも遠のいて、朽ちていく。

 旅をして新しいものに出会うたび、旅のために時を刻んでいくたび、外の世界に憧れていただけの昔のわたしは、陽炎のように揺らめいて、幻覚のように立ち消えていくのだ。


 わたしは旅をしながら、こうやって昔のわたしを捨てていくのだろう。

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