第100話 その名はベル
セイレーンは華麗に
首の無くなった狼人間は血を吹き上げながら真後ろに倒れた。
セイレーンはかなりの戦闘力だ。
けっして弱くないはずの獣人をいともたやすく葬り去った。
彼女の素質を読みとくと種族が魔王となっていた。
すべてのステータスが驚ほどレベルアップしている。
とくに素早さと魔力はずばぬけている。
ただその数値にかなりの揺れ幅があり、不安定でもあった。
彼女は自分のことを弓張り月に宿りし暴食のベルゼバブと名乗った。
あのベルフェゴールや月読姫、狼王レヴィアタン、蛇の魔王サタンと同じになったということだろうか。
「ありがとうセイレーン。でもどうして?」
僕は訊いた。
彼女は何故魔王となってまで僕を助けてくれるのか。
「サタンさんに頼んでこの力を得たのです。まだベルゼバブの魂の固定化にはてまどっていますがまずはここを切り抜けましょう」
セイレーンは言った。
たしかに彼女のいう通りだ。
今はゆっくり話をしている時間はない。
敵はまだまだ残っている。
しかし、魔王ベルゼバブの力を得たセイレーンが味方してくれるのだ。勝利はもはや確実といえる。
キエエッッと奇声をあげて獣人の一人が空に飛んだ。
どうやらこいつは
両手が皮の翼になっている。
天井すれすれに飛び、手に生えた爪で僕を切り裂こうと襲いかかる。
僕はその攻撃を斬鉄剣で受け止める。
腹部に蹴りをはなつ。
もちろん足は三日月で強化している。
僕のキックは蝙蝠人間の腹部に食い込み、臓器や骨を粉々に粉砕した。
落下した蝙蝠人間は何度かけいれんし、動かなくなった。
念のため、頭部を斬鉄剣で切り裂く。
「月彦さん、そのビー玉をいくつかかしてくれませんか?」
セイレーンはそういうのでビー玉を三つほど手渡す。
彼女はその形のいい眉をよせ、精神を集中させる。
すぐにビー玉は宙に浮遊し、ぐるぐると回りだした。
「
セイレーンがそういうとビー玉は勝手に動きだし、それぞれ意識が宿っているかのように獣人たちを攻撃しだした。
次々と獣人たちの頭部を貫いていく。
なるほど、彼女は弓張り月に宿っていると言っていた。
彼女もまたその能力である遠隔操作を使用できるということか。
僕も負けじと虎人間の首をはねる。
その間に今度は猿の顔をした獣人が背後の迫ってくる。
僕は振り返りざまに右手を強化し、母さんから模倣した三ツ星を放つ。
音速に近い早さの剣撃を食らった
その間にもセイレーンはダンスのように華麗に舞い、敵を切り裂いていく。
血なまぐさい戦いの中、彼女だけが華麗であった。
セイレーンとの共闘により、僕たちは獣人たちを全滅させた。
周囲は獣くさい死体であふれかえっている。
それらに左手の月読姫をむける。
月読姫は大きく息を吸い、獣人たちの頭からクリスタルを回収した。
月読姫は大量のクリスタルをスナック菓子のようにバリバリと食べる。
小さくゲップする。
「ふうこれは失礼。しかしサタンめ、余計なことを……」
と月読姫は言う。
セイレーンは僕に駆け寄り、抱きつく。
その暖かい体はまさしくセイレーンのものだった。
「あらっこんなところにも傷が……」
セイレーンはそう言い、いつのまにかつけられた頬の小さな切り傷をなめる。
しっとりとした舌が皮膚をはうと快感が体をかけめぐる。
すぐに傷は治癒させる。
「ありがとうセイレーン。助かったよ」
僕はセイレーンの細い腰を抱きながら、言う。
「天野さんの家に行ったあと蛇の魔王サタンがあらわれて私に空席だった蝿の魔王の地位を与えてくれたのです」
そう言い、セイレーンは僕に口づけする。
ねっとりとした舌で僕の舌をからめて唾液を貪るように飲む。
その舌はやわらかく、暖かく、心地よい。
「これからは暴食の蝿の魔王ベルゼバブ、そうですね、ベルとでもお呼びください」
唾液でぬれた口を手でぬぐいながら、セイレーン、いやベルは言った。
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