第99話 北の塔の戦い

 下の階に降りるべく、僕は扉に向かう。

 木の扉を開けると螺旋状の階段が下に延びている。

 階段の幅は約二メートル。両手をのばして少しあまるぐらい。

 左まわりに緩やかなカーブを描いている。


 僕は合流地点である地下二階を目指して、その階段を降りようとしたが、すぐに邪魔者があらわれた。


 視界のマップに大量の赤い点滅が浮かぶ。

 これはゾンビの反応だ。

 ざっと数えたが二十体以上はある。

 それらが猛烈な勢いでかけあがってくる。


 そう簡単にはいかないか……。


 僕はその敵たちを迎え撃つために一旦後退する。

 くそっすぐにでも下に降りたいのに。

 扉を開け、もとの部屋にもどる。

 部屋の中央で僕はみまがえる。

 斬鉄剣流星を正面にかまえる。

 コートのポケットからビー玉を取りだし、弓張り月の能力で空中に浮遊させる。

 一対多数の戦いではあるが切り抜けねば。

 こんなときにQや零子さんがいれば。

 僕は頭を左右にふる。

 彼女たちはここにはいないのだ。自分の能力で切り抜けないと。


 それに僕にはこの城を攻略するもうひとつの目的ができた。それは囚われの陽美のお母さんである壱世さんを救い出すことだ。

 あのような辱しめをうけているのだ、きっと助け出してみせる。



 僕が決意していると勢いよく扉をあけ怪物アンデッドたちが侵入してきた。


 ガルウウウッ。


 その声は肉食獣の雄叫びだ。

 それもそのはずだ。

 目の前に現れたのは虎や狼、猿の顔をした獣人ライカンスロープであった。

 皆、固い毛で全身がおおわれ、爪や牙をむき出しにして、殺意をこめた黄色い瞳で僕をにらんでいる。


 気をつけて月彦。

 あれは獣人ライカンスロープよ。

 素早さと耐久力がずばぬけているわ。それに少しだけど回復能力もあるわ。

 月読姫が注意を促す。


 ああ、わかったよ。

 素質ステータスを読み取ると月読姫の言う通り素早さはかなりのもだ。耐久力も豚鬼オークなみだ。それに数が多い。


 これは苦戦しそうだ。

 だが、やつらが敵対するというなら殲滅するまでだ。


 狼人間が四つん這いになり、石の床を駆ける。

 やつはそのほうが速く動けるのだろう。

 かなりの速さだ。

 まさに目にもとまらぬというやつだ。

 狼人間は口を大きく開け、僕に襲いかかる。

 その凶悪きわまりない牙で僕を切り裂き、噛み砕こうというのだろう。


 僕は足を三日月で強化し、左に飛ぶ。


 瞬時の脇腹の回り込む。


 狼人間は僕にあわせて急ターンする。


 だが、僕の方が速い。


 僕はがらあきになったその脇腹めがけて斬鉄剣流星を突きたてた。


 切っ先が狼人間の脇腹を突き破る。

 噴水のように血と臓物を吹き上げ、狼人間は倒れる。

 まずは一体。

 間髪いれずに次の獣人が襲ってくる。

 虎人間ワータイガーだ。

 やつは僕の真上に飛び、襲いかかる。

 空中に浮遊させていたビー玉を虎人間に撃ち出す。

 ビー玉は猛スピードで飛行し、虎人間の額を撃ち抜く。

 ビー玉はすぐに僕のもとに戻り、虎人間は後方に倒れ、絶命した。


 二体目もすぐに片付けたが、どうやらやつらの戦意は衰えることはないようだ。

 部屋の周囲にぐるりと円陣をつくり、僕を包囲する。

 彼らは群れで狩りをしようというのだ。

 もちろん獲物は僕だ。


 くそ、それにしても多いな。

 Qも零子さんもいない今、この大勢の敵は僕だけで始末をしなければいけない。

 勝てるにちがいないが、こいつはかなり骨が折れそうだ。


 お困りのようだな。

 頭のなかで低い男の声がする。

 それはあの憤怒の魔王サタンのものだった。


 兄弟がみせた怒りの声。

 よかったぜ。

 まさに憤怒の声だ。

 そうだよな、許せないよな。

 あの美人の幼馴染みの母親にあんなひどいことをやつらはしたんだからな。

 おまえの気持ちはよく分かるぜ。

 こんなところで足止めされている場合じゃないよな。


 ああ、そうだよ。

 一刻も速く、ここを突破したい。

 僕は心の中のサタンに言った。


 そこでだ、兄弟。

 援軍を送ってやろう。

 兄弟のことをぜひ助けたいってのがいるんだ。

 そいつには空いていた暴食の力を宿らせた。

 きっと兄弟のために命がけで戦ってくれるはずだ。

 お前さんの左手首を見てみな。

 サタンが言う。


 その時、僕の左手首の血の腕輪が光輝いた。

 僕の目の前に光の魔法陣が刻まれる。

 光の中からある人物が出現した。

 その女性は胸元の大きく開いた白いドレスを着ている。

 形のいい胸の谷間がセクシーだ。

 その細い腰に細剣レイピアをぶら下げている。

 そして特徴的なのは白い頭髪だ。

 真っ白な髪をした純和風の端正な顔立ちの女性だ。

 僕はこの人を知っている。

「セイレーン!!」

 僕は彼女の名前を呼ぶ。

 セイレーンはその秀麗な顔に笑顔を浮かべた。


「援軍に参りました。月彦さん、サタンさんの力で弓張り月に宿りし暴食のベルゼバブにして天王星の守護者となりました」

 セイレーンは腰の細剣レイピアを抜刀し、僕の背後に立つ。

 僕たちは背中あわせになる。

 抜刀したセイレーンは襲いかかってきた狼人間ワーウルフの首をはねた。


 セイレーンはサタンから力を付与されたと言った。

 その力はすさまじいものだった。

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