第98話 窓から見える者

 あらためて僕は周囲を見渡す。

 

 そこは石造りの部屋であった。床も壁もブロック状の石でできている。

 広さはだいたい学校の教室ぐらいだろうか。

 そしてここには僕一人。

 Qも零子さんもどこにもいない。

 前方に大きな窓があり、小柄な女性ぐらいの大きさだった。

 Qなんか胸がつかえてしまうだろうな。

 そこから入ってくる風が心地よい。


 どうやら僕たちはフランケンシュタインの手によって分断されたようだ。


 僕は視界のマップを確認する。

 どうやらここは皎血城の北側にそびえ立つ北斗の塔の最上階であった。


 Qや零子さんはどこにいったのだろうか。

 僕は彼女たちと別れてしまい、若干の不安を感じている。

 僕はいつのまにか彼女たちをメンタルの分もふくめて頼りにするようになっている。

 バラバラにとばされてそれを思いしらされた。

 特にQのあの愛嬌のある丸い瞳と笑顔がみれないのはなによりも寂しい。


 あら、妬けるわね。

 でも、そう寂しがることはないわ。

 いつもいつでも私がついてるじゃない。

 月読姫が励ましてくれる。


 マップを拡大してあの牛乳娘の位置を探索してみましょう。

 月読姫が言う。


 僕は彼女の言う通り、視界のマップに意識を集中させ、地図を拡大する。

 この北斗の塔も本体の皎血城と同じ五階建てのようだった。

 城とつながっているのは地下二階の部分だ。


 さらに大きくマップを拡大すると城を挟んで真向かいの南斗の塔の最上階に強い生命反応が二つあった。

 白い点滅の横に名前が浮かぶ。

 Qと難波零子の文字が浮かぶ。

 どうやら、彼女たちも無事のようだ。


 どうにかして連絡できないだろうか。

 スマフォでもつながればいいのだが、そういうわけにはいかない。


 それなら大丈夫よ。

 如月を発動させて、神憑りでヒルコの能力を使えば精神感応テレパスで連絡はとれるはずよ。

 とくに牛乳娘とは血の契約をしているので感度は抜群のはずよ。

 月読姫は説明する。


 そうか、すでにその力に覚醒していたんだ。

 早速使おう。

 如月のアイコンである雪の結晶がデザインされたものをクリックする。

 ぼんやりと視界にあの髭の男性が浮かび、すぐに消える。

 僕はQのあのセクシーな体と愛らしい丸い瞳の顔を想像した。



 Q、聞こえるかい?

 Q、無事なのかい?

 聞こえていたら返事をしてくれないか?

 僕は心の中で言う。



 えっ何、どうしてあいつの声が頭の中できこえるの。

 それは慌てているQの声だ。


 よかった、どうやらつながっていたようだ。


 Q、落ち着いて。今、テレパシーのような能力で君に話しかけているんだ。


 そんなこともできるのね。

 それもあのめっちゃかわいい幼馴染みがくれた能力なのね。

 へっ零子さんもきこえるって。

 私も魔女だから念話ぐらいできるって。

 すごいね。

 でも相性はあなた方のほうがかなりいいからやりとりはまかせるわって。


 すごいな、零子さんの能力には脅かされるな。

 Qには零子さんがついているからまあ、安心していいだろう。


 Q、君の脳内にこの城の地図をコピーして送るよ。


 うん、わかったわ。


 僕は意識を集中させ、マップをQの脳内に転送するイメージする。


 あっすごい。

 目の前にうっすらと地図が浮かんでいるわ。

 成功したみたいよ。

 あんた真逆の塔にいるのね。


 Q、よく聞いて。

 この塔は地下二階で本体の城とつながっている。

 だからその地下二階で落ち合おう。


 わかったわ。

 大丈夫だと思うけど無事にきてね。

 私たちもそこに向かうわ。


 ああ、Qたちこそ無事でね。

 そして全員そろって落ち合おう。


 僕はそこで一度通信を遮断した。


 バラバラになってしまったがそうなったのは仕方がない。

 僕が怒りにまかせて動いてしまったからだ。

 そこは反省しなくては。

 だからといってあのフランケンシュタインは絶対に許せない。


 僕はこの塔を降りるべくドアに向かおうとしたが、あの大窓からなにか人影のようなものが見える。

 気になった僕は窓に駆け寄る。


 吹き抜ける風を感じる。

 遠くに人影がみえる。

 そこは皎血城最上階のバルコニーのようだった。

 バルコニーの縁に誰かが腰をかけている。


 僕は視力を三日月で強化する。

 視界を望遠鏡のようにアップする。


 そのバルコニーの縁に乳白色のドレスを着た大柄な女性が座っている。

 手にはキセル。

 ドレスから溢れるばかりの肉体はかなりグラマーであった。

 熟成した大人のエロスを感じる。

 頭にはドレスと同じ乳白色のつば広帽を乗せている。その姿はバカンスを楽しむ女優のようだ。


 何、敵に欲情しているのよ。

 ほら、あいつ何か言っているわよ。


 ごめん、ごめん。ついね。


 僕はその口を読んでみた。

 読唇術なんてはじめてだったが、そのつば広帽の女がはっきりと口をうごかしているのでどうにか読み取れた。


「私はエリザベート・バートリー。さあ、大罪人ここまで来なさいな。楽しみに待っているわ。ここに来てその温かい血を飲ませてちょうだい」

 エレザベートはそういい、赤い唇をペロリと舐めた。


 これは挑発か。

 いいだろう。

 この城を攻略してお前を倒して必ず三つ目のメダルを回収してやろう。

 僕は拳を握り、そう誓った。


 

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