第92話 皎血城の門番

「何か来るわ」

 Qが警戒しながら言った。

 背中のゼノビアの剣に手をかける。

 僕も斬鉄剣流星の柄に手をかける。

 零子さんもバンドラインスペシャルの引き金に手をかけた。

 ここは敵地だ。

 皆、臨戦態勢であった。



 ギギギッと鈍く鉄がこすれる音がする。

 錆びた城門が開いていく。

 錆びた鉄でできた門がわずかに開いていく。

 その隙間から何者かが現れた。

 その人物は血で汚れた包帯を体中に巻いていた。

 背の高い男であった。

 その男は手に鎖を持っていた。

 その鎖の先端にはある人間がつながれていた。

 顔は血と泥でかなり汚れているが、けっこうかわいい顔立ちをしている。

 どうやら女の子のようだ。

 その女の子は手首を鎖でつながれており、身動きがとれないようにされていた。

 さらによくみるとスカートの下の太ももやシャツの隙間から見える胸の谷間は細かい傷でいっぱいであった。

 どうやら彼女が着ているのは学校の制服のようだ。

 包帯だらけの人物にひっぱられ、その制服の少女はよろけながら地面に倒れた。

 あの制服には見覚えがある。

 そしてあの少女も見覚えがある。

 会話はしたことはないが、同級生の女の子だ。


「君がエリザーベート様が言っていた七つの大罪人なのか……」

 くぐもった声でその包帯だらけの人物は言った。

 僕はこっそりとその人物の素質ステータスを読み取った。

 種族人食いグール

 以前遭遇した人食いグールに比べて素早さは劣るものの体力と魔力耐性はかなり高かった。

 強敵には違いないが、今の僕らなら問題なく勝てるだろう。


「君がそうなのか。エリザベート様にここに来るものはすべて排除するように命令されていたんだけど、まさか君が七つの大罪人が君だなんて……」

 じろじろとその包帯だらけの人物は充血した目で僕の顔を見ていた。

 なぜだろうか彼からは殺気は感じられない。

 それに彼の声はどこかで聞いたことがあるぞ。

 包帯が口のあたりにもまかれていてかなりその声は聞き取りにくかったが、その声には覚えがある。

「もしかして倉田くんかな?」

 僕は言った。

 そうだ、思い出したぞ。

 彼は僕の記憶がたしかならこの声はクラスメイトの倉田君のものだ。

「そうだよ。僕は君と同じクラスの倉田健くらたたけしだよ。久しぶりだね、夜空君」

 彼は言った。

 その声はどこかなつかしそうだった。


「何、あいつあんたの知り合いなの」

 とQは訊いた。

 丸い愛らしい瞳で僕を見ている。

 だがまだ剣から手を離していない。

 彼女なりの僕を守ってくれようとしてしるようだ。

 それはかなりうれしいな。

「どうやら元同級生みたいなんだ」

 僕はQに言った。

 まさかこんな所で知り合いに再会するとは。

 しかし彼、倉田くんはすでに人間ではなくなっている。

 怪物クリーチャーになってしまっている。

 しかし前に遭遇した人食いグールよりは意思疎通ができそうだ。


「ねえ、助けてよ!! 私を助けて!! お願い」

 鎖につながれた少女は涙ながらに叫んだ。

「うるさいな、僕は久しぶりにクラスメイトに会ったんだ。邪魔をするなよ」

 そう言い、倉田君は鎖をひっぱった。

 少女は地面に倒れ、したたかに顔をうちつけた。

 その少女は鼻や口から血を垂れ流した。

 せっかくのかわいい顔が台無しだ。

「ほら、おまえが不必要なことを言うから顔に怪我したじゃないか」

 そう言い、倉田君は少女の頬を包帯の隙間から舌をだし、べっとりと舐めた。

 少女の頬の傷はあとかたもなく消えてしまった。

 どうやら彼の体液にも僕の月桂樹と同じ効果があるようだ。


 月彦の能力に比べると天と地ほどの差はあるけどね。

 心の中で月読姫は言った。


 傷が癒えたその少女の顔を見て、僕の脳裏にある記憶が甦った。

 ああ、思いだしたぞ。

 この少女の名前を。

 たしか久保美由紀といったかな。

 その清楚で可愛らしい風貌とは想像もつかないことを行っていたグループの主犯であった。

 そうだ、倉田君はいじめられていた。

 いや、それはいじめなんて生易しいものではない。

 犯罪といっていいだろう。

 それを行っていたのが彼女久保美由紀だ。

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